8-3
「え・・・お父様?!」
僕は驚いてそう言った。
「
「・・・いえ、お父様、そんなことはありません。ですがなぜこちらに?」
「娘の文化祭に来て悪いかね?」
「いえ、そういうわけでは・・・ですが・・・」
「私がお誘いしたんだ」
後ろから声がした。もう、振り返らなくてもわかる。
「
「尊くん・・・」
橘尊は櫻木さんのお父様の近くへ行き、会釈をした。
「ご無沙汰しております、お義父様」
お、お義父様・・・?!
「尊くん、久しぶりだな。ますますいい男になったな」
「お褒めいただき光栄です」
「それにしても、尊くんに教えてもらって助かったよ」
櫻木さんのお父様は僕の方を見た。
「君、名前は?」
威圧的な態度でそう聞かれた。
「み、水野・・・です・・・」
「水野くんか。尊くんから、君が櫻木家の時計を持っていると聞いてね。さすがに見間違いじゃないかと思ったが、驚いたよ。まさか本当に持っているとは」
櫻木さんのお父様は僕の左腕を見た。
「櫻木家の・・・時計?」
「そうだ。よく見てみなさい。文字盤に桜の紋章が入っているだろう。それは櫻木家が代々マルガリに作成を依頼しているものでね。本来は櫻木家の親類しか持たないものなのだよ」
「・・・」
僕は驚愕して声も出なかった。
「尊くんにもまだ渡していないその時計をなぜ君が持っているのか、非常に興味深い」
「そ、それは・・・」
「私が引っ越しのご挨拶にお渡しただけです、お父様!」
櫻木さんが必死に訴えた。
「引っ越しのご挨拶?苦しい言い訳だな。引っ越しの挨拶程度で時計を渡す馬鹿がいるか」
目の前のお嬢様がそうです、お父様・・・。
「大方、その水野くんとやらが櫻木家の財産目当てで小鞠をたぶらかしたんだろう」
「お父様、違うんです!本当に私は・・・」
「小鞠が中学まで通っていた女子校にそのまま進学していたなら、こんなことにはならなかったな。だから私はこの高校に通うことに反対だったんだ!」
「私の話を聞いてください、お父様・・・」
「話など聞いても仕方がない。小鞠は私の言う通りにしていれば何も問題はない」
「お父様・・・」
「とにかく、小鞠は今後この高校には通わせない。元の女子校に転校させる」
「そんな、お父様・・・」
「水野くん、その時計は手切れ金だ。それはくれてやるから今後二度と私たちにかかわらないように」
櫻木さんのお父様が右手を軽くあげた。すると、それを合図として廊下の両側から大勢のSPのような男たちが現れ、僕と櫻木さんの間に立ちはだかった。そのうちの1人に僕は羽交い絞めにされた。
「ちょ、何だよ!離せ!」
「水野くん!水野くんを離して!お父様!」
「何、危害は加えない。彼を離してほしければ、おとなしく私と家に帰るんだな、小鞠」
SPが邪魔で櫻木さんの姿が見えない。そしてしばらく沈黙が続いた。
***
「水野くん・・・今までありがとう。さようなら」
ふいに、櫻木さんの声だけが聞こえた。
「櫻木さん!?」
SPたちが移動を始めた。その中にかすかに櫻木さんと櫻木さんのお父様、橘尊の姿が見える。
「櫻木さん!行っちゃだめだ!」
櫻木さんは振り向かない。
「櫻木さん!」
橘尊が勝ち誇った顔で振り返った。僕は怒りが込み上げてきた。
「櫻木さん!!」
僕は羽交い絞めを振りほどこうともがいた。しかしびくともしない。櫻木さんは廊下を曲がり、そのまま姿が見えなくなった。
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