8-2

 僕と櫻木さくらぎさんがラーメン屋を後にすると、後ろから人がぞろぞろと付いてくる気配がした。そして僕は悟った。もはやこれは2人きりのデートではない。保護者同伴のデートだ。しかも保護者が大量にいるデート。どうしていつもこうなってしまうんだろう。


「水野くん、どうかしたの?なんだか顔色が悪いような」


 櫻木さんが心配そうな顔をしていた。


「い、いや、そんなことないよ!元気だよ」


「そう、それならいいのだけど」


 だめだ、周りのことを気にして櫻木さんとの時間がおろそかになってしまっている。それでは元も子もない。確かに周りの視線はちょっと・・・いや、かなりきついけど、別に見られているからといって何も悪いことはないじゃないか。それに、これから行くお化け屋敷の中なら2人きりになれるはずだ。僕はそう前向きに考えることにした。窓の外の雨はより一層強まっていた。



***



あと4組・・・3組・・・2組・・・もうすぐだ。

僕と櫻木さんはお化け屋敷に並んでいた。お化け屋敷の中からは時折悲鳴が聞こえ、出口から出てくる人は皆大急ぎで出てくる。そんなに怖いのか・・・緊張してきた・・・よく考えたら僕、怖いのそんなに得意じゃないな・・・。櫻木さんは大丈夫かなと思いチラッと見ると、なんと目を輝かせている。ふいに櫻木さんが僕の方を向き、目が合った。


「水野くん・・・」


「な、何?」


「やっぱり顔色が悪い気がするわ」


「え・・・いやいやいや、そんなことないよ!大丈夫大丈夫」



***



「2名様でよろしいですか?では、ご説明させていただきます」


とうとう次は僕たちの番だ。係の人が説明をしてくれている。


僕たちはこのお化け屋敷の中で、悪霊を成仏させるらしい。入り口で渡されたお札を、最後にある岩の前に置き、「南無阿弥陀仏」と大きな声で唱えられればチャレンジ成功となる。


「それでは、無事にお帰りになることをお祈りいたします」

そんな不穏な言葉で僕たちは暗闇の中へと送り出されようとしていた。その時だった。


小鞠こまり


聞き慣れない男性の声に、後ろから呼び止められた。僕たちは振り返った。そこには、スーツ姿の見知らぬ中肉中背の中年男性が立っていた。


「小鞠、待ちなさい」


男性がそう言った。櫻木さんの方を見ると、呆然とした顔をしている。


「お・・・お・・・」


櫻木さんは口元に手を当てた。


「お父様・・・」


そしてそう弱々しく言った。

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