7-3

 文化祭1日目の朝、マンションの部屋の外で櫻木さくらぎさんを待っていた。僕は入学してから毎日、ここで櫻木さんと待ち合わせをして一緒に通学している。いつもの時間に櫻木さんが部屋から出てきた。


「おはよう、水野くん。お待たせしました」


「おはよう、櫻木さん」


 今日も櫻木さんは最高にかわいい。


「ところで水野くん、今日はあの時計をしてもらえないかしら?」


「え?あの時計ってあの?」


「ええ、そうよ」


 あの時計というのは、初めてあった日に櫻木さんからもらったの高級時計だ。


「な、なんで?」


「だって、大切なイベントの日には身に着けるって約束してくれたでしょ?今日も、明日も、おいしいラーメンを作るという一大イベントよ」


「ああ・・・そっか。わかった、取ってくるね・・・」


 この時計を身に着けるのは入学式以来だった。やはり何度つけても身の丈に合っていないと思うし、傷をつけてしまわないか気が気ではない。櫻木さんは時計のことになるとなぜか一度言い出したら聞かなくなってしまうが、さすがに店番中は汚すといけないから外しておくということで納得してもらった。



***



「いらっしゃいませー。おいしいラーメンはいかがですか?」


 櫻木さんの声が響く。


「櫻木さん、疲れてない?大丈夫?」


「小鞠、あんまり無理しないようにね」


「ええ、大丈夫よ。こんなにたくさんラーメンが作れてとっても楽しいわ!」


 1日目の朝は櫻木さんと佐藤さんたちと一緒に店番をしていた。櫻木さんは慣れた手つきでラーメンを作っている。僕も何度かご馳走になったが、櫻木さんはこの日のために毎晩ラーメン作りを練習をしていた。


 僕たちのクラスのラーメンは大盛況で、開店早々から長蛇の列ができていた。味がいいのはもちろんだが、櫻木さんの美少女度合が噂になってしまったようだ。超絶美少女を一目見ようと男女問わず多くの人が押しかけていた。そこに、見慣れた顔がやってきた。


「やっほー櫻木さん、お疲れ様!翔子もお疲れー。あ、ついでに陸久もお疲れー。並盛1つお願いします」


「あ、田中さん、来てくれてありがとうございます!並盛ですね!」

 やってきたのは涼平りょうへいだった。


「ついでってなんだよ全く」


「いいじゃんいいじゃん。陸久なんだからさ」


「いや、意味わかんねえし」


「ちょっと水野、ちゃんと手動かしてよね!」


「あ、ごめんなさい」


 涼平としゃべっていたら佐藤さんに怒られてしまった。


「全く翔子は相変わらず怒りっぽいなー」


「ていうか、あんたクラスの代表でしょ?自分たちの出し物の監督しなさいよ」


「翔子は見かけによらずお堅いよねー。代表だってちょっとぐらい抜けてもいいじゃん。文化祭なんだから楽しまないと」


「田中さん、お待ちどおさま!並盛です」


「ありがとう、櫻木さん。早速いただくよ」


 そういって涼平は列から抜けていった。


小鞠こまりさん」


 そのとき、もはや聞きなれてしまった嫌な声が聞こえた。

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