6-3
「水野くん、いつもありがとう!」
午後6時、僕は櫻木さんの部屋に来ていた。手土産を渡すと、
「いや、こちらこそいつもありがとう」
僕はどうも顔が引きつってしまう。
––––とにかく、デートには誘え
カズおじちゃんと約束した・・・というか脅されたことが心に重くのしかかっている。今日僕は櫻木さんをデートに誘うんだ。普段休日には着ないようなワイシャツも着てビシッと決めてきた。誘うタイミングは夕飯後、一緒にデザートのロールケーキを食べるときと決めている。
「水野くん見て見て!」
櫻木さんに呼ばれてキッチンへと向かう。
「今日はコロッケのドリアを作ったの!カズおじちゃんに教えてもらったレシピの中でいちばんおいしいと思うわ!」
櫻木さんは目を輝かせながら料理を見せてくれた。そこには、トマトソースとチーズがかかった、とてもおいしそうなドリアがあった。
「うわー、おいしそうだね!早く食べたいよ」
櫻木さんには気づかれていないようだが、僕の顔は相変わらず引きつり気味だった。
***
「このロールケーキ、とてもおいしいわね!」
夕飯をご馳走になっている間、僕はこの後の一大イベントが気になって仕方がなく、せっかくのおいしいドリアをしっかり味わうことができなかった。そして気づけばもうデザートの時間だ。
「うん、すごく人気のお店で、僕も昔から好きなんだ。気に入ってもらえて良かった・・・ところで・・・あっ」
まさにこれからデートに誘おうと思って心を決めた時、櫻木さんがどこかに行ってしまった。そして、手に何かを持って戻ってきた。
「ねえ水野くん、これ見て!今日ポストに入っていたの。新しくオープンしたお店なのだけど、猫カフェなんですって。私、一度でいいから猫カフェに行ってみたいと思っていて・・・」
「あ・・・へえ、猫カフェ」
「それで、よろしければ一緒に行ってもらえないかしら?」
「えっ?」
「ダメ・・・かしら?」
これはまさか・・・櫻木さんからのデートのお誘い!?こちらから誘おうと思っていたのに・・・。でもこんなチャンスを逃す手はない!
「いやいやいや、ダメなんてそんなわけないよ!行こう行こう!いつ行く?明日?」
嬉しさのあまり少々がっつきすぎてしまった。
「まあ、水野くんも猫カフェにそんなに行きたいの?」
櫻木さんがクスクス笑っている。
「あ・・・いやあ・・・まあ・・・猫が好きなんだよね」
櫻木さんと一緒に行くからいいんだよ、とか何か気の利いたことを言うべきだった。
「まあ、奇遇ね!私も猫が大好きなの!良かったわ!ぜひ明日行きましょう!」
そんなこんなで、突然明日櫻木さんとデートすることになってしまった。自分から誘う前に誘われてしまったのだが・・・。カズおじちゃん、この場合はコロッケくれるかな・・・。
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