6-2
ロールケーキを食べた時を想像した表情のまま振り返ると店の奥にカズおじちゃんが立っていた。ちょうどカズおじちゃんの店の前に来ていたのだった。
「あ、カズおじちゃん、こんにちはっ!」
幸せな想像をしていたので、普段はしないようなさわやかな挨拶をしてしまった。
「なんだ
カズおじちゃんはいつものように睨みをきかせながら手招きをしていた。どう見ても怖すぎて普通の人は寄っていかないだろう。
「だらしないって・・・。ごめん、カズおじちゃん、ちょっと買い物に行く途中で」
「あぁ?その買い物っていうのはそんなに逃げていっちまうような買い物なのか?俺のところに寄る余裕もないのか?」
「あ・・・うん・・・ちょっと人気の店に・・・」
「俺の店は人気がないって言いたいのか?」
「いやいやいや、そうじゃないけど!あのロールケーキを買いに行こうと思ってるんだよ!」
「ロールケーキ?あそこの婆さんの店のか?まったく近頃の若者は何とか映えとかいって甘いもんばっか食いやがって」
「別に僕はそういうのじゃなくて、ただ
「櫻木さんって、
カズおじちゃんがやたらと食いついてきた。
「そうだよ。今日夕飯をご馳走になるからその手土産にロールケーキを持って行こうと思ったんだよ」
「ほお、ずいぶん仲がよろしいことで。いやぁ、にしてもお前と小鞠ちゃんじゃ全くつり合わねえなあ」
カズおじちゃんは僕を上から下までしげしげと眺めた。
「べ、別に僕と櫻木さんはそういうのじゃないから!」
「はっはー。そのわりには手料理までご馳走になってるじゃねえか」
カズおじちゃんは完全にからかっている。
「それは、櫻木さんがカズおじちゃんにレシピを習ったから僕にも食べてほしいって言ってくれてるだけで・・・。それに僕がいろいろと家事とか教えてくれたお礼だって言ってたし」
「おい陸久」
カズおじちゃんの眼差しが鋭くなった。
「な、何?」
「そうやって言い訳ばっかして、自分から気持ちを伝えなくてもいい理由を探すのはやめろ」
「え?」
カズおじちゃんはなぜか少し怒っているように見える。
「つまりだ、お前は小鞠ちゃんはどうせ自分のことなんかなんとも思ってないと決めつけてるだろ?」
「決めつけてなんか・・・事実だと思うし」
「本人に確認したのか?」
「ま、まさか!確認なんてできるはずないじゃん!」
「ほら見ろ!それを決めつけっていうんだ。お前は自分が行動を起こすのが怖いから、行動しなくてもいい理由を無理やりこじつけてるんだよ」
「う・・・」
「ま、俺も俺でお前が行動を起こしたいものと決めつけちまったな。確認する前に悪かったな。一応確認するが、お前は小鞠ちゃんとどうなりたいんだ?」
「ど、どうって・・・」
「これからどんな関係性で接していきたいかってことだ」
「これから・・・これからは・・・学校が無くても、夏休みでも・・・できればこれからずっと・・・一緒に過ごせる関係になりたい・・・です」
「おお?プロポーズしたいってことか?」
「ち、ちがうよ!」
「ははっ、まあいい。お前がそう思ってるならちゃんとそう伝えろ。伝えないと必ず後悔するからな!」
「うん・・・」
カズおじちゃんは自分の過去を重ね合わせているのだろう。大学卒業と同時に結婚し、手の届かないところに行ってしまったカズおじちゃんの初恋の相手・・・カズおじちゃんはどんなに後悔しただろうか。
「とりあえず今日伝えろ」
「え、今日!?」
「ああ、お前はいつまでもぐずぐずするからな!」
「いや、ちょっといくらなんでも今日は・・・」
「何もプロポーズしろと言ってるわけじゃないぞ?」
「言われてもしないよ!」
「とにかく、デートには誘え。夏休み一緒に過ごしたいんだろ?」
「う、うん・・・」
「それができなかったら今年は誕生日のコロッケなしだからな!」
「ええ!」
「誕生日以外もコロッケはやらん!」
「そんな!」
「当たり前だろ!なよなよしたやつにうちのコロッケはやらん!」
「・・・わかった、がんばる」
「食い物につられるとは、全く」
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