5-2

「おい陸久りく、お前ちょっとは何か行動起こせよ。マジでヘタレだな。櫻木さくらぎさんとられるぞ?」


 ある日の放課後、学校の廊下で涼平にそう言われた。涼平は冗談めかしているものの、非常に痛いところを突かれている。


「ぼ、僕だって何にもしてないわけじゃないよ!」


「へえ、例えば?」


 涼平がニヤニヤしながら聞いてくる。


橘尊たちばなみことを見かけたら睨みつけてる!」


「何だよそれ!お前、ちっちゃすぎ!」


 涼平は少し涙目になりながら笑っていた。


「そ、そんなに笑わなくたっていいだろ!涼平だって相手があのイモメンじゃ難しいのわかるだろ?」


「え、何?イモ・・・?」


「いや、なんでもない。とにかく、相手が悪いんだって!」


 僕は焦ってそう答えた。


「なあ陸久」


 涼平の声が急に真剣な声色になった。


「な、なんだよ」


「なんで櫻木さんをとっていく相手が橘だけだと思ってるの?」


「えっ・・・」


 涼平の真剣なまなざしが僕に向けられている。


「えっ・・・涼平・・・?」


 涼平の目は真剣なままだ。まさか、涼平も櫻木さんのことを・・・?


「・・・っていうこともあるかもしれないだろ?」


 僕の心を読んだかのように涼平がそういった。心臓の鼓動がどんどん速くなる。すると、涼平がふっと笑った。


「ま、安心しろ。俺は櫻木さんにそういう気持ちを持ってないよ」


「え、そうなの?」


「少なくとも、今のところは、な」


「あ、ああ・・・そっか・・・」


「気持ちが伝わる可能性があるなら、ちゃんと伝えた方がいいに決まってる。少なくとも、今櫻木さんにはそういう意中の相手がいるような感じはしないし」


「う、うん・・・」


「俺の言いたい意味わかった?」


「うん、何となく・・・」


「そう、じゃあいいよ。じゃあ俺今日は先帰るわ」


「お、おう」


 涼平はそう言い残してさっさと帰って行ってしまった。僕は全身の力が抜けるのを感じた。今まで僕は橘尊しか気にしていなかったが、よくよく考えてみればそれもおかしな話だった。しかし、僕は同時に涼平の様子に何か引っかかるものを感じていたのだった。

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