(5) 僕たちの関係

5-1

「「「たちばなくーん!」」」


 教室の窓から女子たちの声が響く。その視線の先には、黒の大きなリムジンから降りるやたらとイケメンの男子、橘尊たちばなみことがいた。橘尊は、右手を小粋に上げて女子たちからの声援に応えた。


「「「キャー!」」」


 ひいらぎ学園高校に入学してから一ヶ月が経とうとしていた。この一ヶ月、この光景は毎朝の恒例行事となっていた。入学式であんなに非常識で気持ちの悪い挨拶をしたというのに、橘尊は学年を問わず女子たちから大人気だった。「婚約者を追いかけちゃうなんて一途!」とか、「全校生徒の前で堂々と婚約者宣言するなんてかっこよすぎ!」とか、女子たちの間では嘘のような高評価が蔓延していた。涼平によると、「ま、あれが『ただしイケメンに限る』ってやつだよな」とのことだった。しかもイケメンだけにはとどまらず、大企業の御曹司でもあるのだ。まるで霜降りの高級和牛の上に、さらにフォアグラを乗せてしまったような、激しく胃もたれしそうなスーパーセットの男子である。僕は橘尊のことを胃もたれするほどのイケメン、略してイモメンと心の中で呼んでいた。


「翔子はアイツのことかっこいいって思わないの?女子はみんなかっこいいって言ってるけど」


 涼平が佐藤さんにそう質問しているのを一度目撃した。すると佐藤さんはゴミを見るような目つきで涼平のことを睨んだ。


「は?あんなののどこがかっこいいわけ?それにみんなって何?女子って一括りにすんな!」


「冗談冗談、ごめんって」


 一方橘尊自身はというと、多くの女子からの熱烈なアピールを受けつつも櫻木さくらぎさんへの熱意は変わらないようだ。毎日の送り迎えの誘いだけでなく、最近では教室を移動するだけでもエスコートしようとするようになった。正直、櫻木さんが橘尊に声をかけられているだけで激しい嫉妬心が湧いてくる。しかしどこまでもあきらめず、自分の思いを伝え続ける橘尊のその姿勢には敵ながらあっぱれとも思ってしまう。今のところ、櫻木さんの気持ちが揺れ動く様子はないのでその点は心配していない、というか、安心しているというか・・・なのだが、万が一ということもあるかもしれない。かといって何か行動を起こす勇気がない僕は、橘尊がとっとと適当にその辺の女子とくっつくか何かしてくれればいいのに、と弱気な願望を抱いていた。

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