4-4

 放課後、僕と櫻木さくらぎさんは一緒に帰っていた。そして佐藤さんと、なぜか涼平りょうへいまで一緒にいた。


「まあ、あれだな。とりあえずなんか美味いもん食おうぜ」


「それは涼平が食べたいだけだろ」


「はは、バレたか」


「いえ・・・何か食べたいわ!」


「え、櫻木さん食べるの?」


「ダメかしら?」


「いや、そんなことは・・・」


「食べ歩きは高校生の嗜みなのでしょう?」


「あ・・・それは・・・」


「何それ、水野が言ったの?うけるー」


「べ、別に!・・・あ、あのみたらし団子食べようよ、おいしそうだよ!」


 僕は商店街に入ってすぐのところにある団子屋を指差した。



***



 みたらし団子はとてもおいしかった。お店のおばちゃんが入学祝いだと言って特別にタダにしてくれたのもありがたかった。櫻木さんは食べ歩きを楽しんでくれたようで、笑顔も見せてくれたから少し安心した。


「食べ歩きって楽しいわね!またしましょうね」


 商店街を抜けると、すぐに駅が見えてきた。


「あたし、こっち。家がこの近くなの」


 佐藤さんは駅には行かないようだ。


「そうなのね。じゃあ翔子ちゃん気をつけて、また明日。ごきげんよう」


「うん、また明日––––」


 そのとき、僕たちのすぐ横に大きな黒いリムジンがとまった。後ろの窓が開き、そこにいたのはやたらとイケメンの男子––––


「た、橘尊たちばなみこと!!」


 僕は思わず大声を出してしまった。


「ちょっと、あんた何大声出してんの!恥ずかしいでしょ!」


「ご、ごめん・・・」


 橘尊が僕の方をギロッと見た。


「君は?」


「み、水野です・・・」


「水野くん・・・ね」


 橘尊の視線が一瞬僕の左腕の腕時計をとらえたような気がした。


「そうか、覚えておくよ」


 そして橘尊は櫻木さんの方に視線を移した。


小鞠こまりさん、ご自宅までお送りするよ。どうぞ乗って」


「はあ?あんた何様?小鞠の気持ちも考えないで」


「翔子ちゃん、ありがとう大丈夫よ。尊くん、せっかくだけれど、結構よ。私、電車で帰りたいの」


「電車?あんな窮屈な乗り物に乗りたいなんて正気かい?」


 ・・・その点は同意見だ。


「ええ、だって、とてもおもしろいのよ。人が乗ってぎゅうぎゅうになったときの緊張感も、人が降りて余裕ができたときの開放感も、どちらもとても楽しいの」


 ・・・そうなの?


「そ、そうなのか・・・?」


「尊くんも乗ってみればわかるわ」


「いや私は・・・遠慮するよ。とにかく、電車に飽きたらいつでも私の車に乗っていただいて構わないよ。朝もお迎えに上がるよ」


「ご親切にどうも」


「ではまた」



***



「ほんとに何なのあいつ!ムカつく!偉そうなのにも程があるでしょ!」


 佐藤さんはご立腹のようだ。


「そうかなあ?清々しいぐらいに偉そうだから逆に好感度上がったなー、俺は」


「はあ?冗談でしょ?っていうかあんた誰なの?」


「今さら?一年A組の田中涼平です。陸久りくの幼馴染。お見知り置きを」


「ご挨拶どうも」


「佐藤さん、いつもそんなに怒ってばっかなの?疲れない?」


「余計なお世話」


「つれないなあ。そうだ、翔子しょうこって呼んでいい?」


「な、なんで!」


 佐藤さんは顔を赤くしている。


「理由が必要?」


 涼平は楽しんでいるようだ。


「勝手にすれば!」



***



「水野くん、今日はなんだかとても疲れてしまったわ」


 僕と櫻木さんは、二人で自宅へと歩いていた。


「そうだね。本当にお疲れ様」


「もう私・・・無理かもしれないわ・・・」


 櫻木さんが突然歩みを止めた。肩を落としている。


「そんな・・・」


「もう・・・カズおじちゃんのコロッケを食べなきゃ無理だわ」


「え?」


「あとラーメンもよ」


「・・・櫻木さん、やけ食いは良くないよ」


「今日は疲れているから、エネルギーをたくさん補給しなきゃいけないのよ。だからいいの。水野くん、おいしいラーメン屋さんを教えて!」


「うーん」


「ダメ・・・かしら?」

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