4-3
「
「
僕ともう一人女子が櫻木さんのあとを追っていた。櫻木さんは教室に入った。
「櫻木さん・・・」
「小鞠・・・」
櫻木さんは席について下を向いている。
「小鞠・・・大丈夫・・・じゃないよね・・・」
櫻木さんは黙ったままだ。
「信じられない!先生たちは何をしていたの!」
この女子は、先ほど櫻木さんと親しげに話していたショートカットの女子だった。
「それで、あんたは何?」
その女子が睨んできた。
「あ、えーっと僕は櫻木さんの・・・隣人です・・・」
「なにそれ。せめて友人とか言いなさいよ」
「あ・・・はい・・・」
「あんた、水野だったっけ?」
「え、何で僕の名前を」
「小鞠から聞いたの」
「ああ・・・」
「あたしは
「よろしく・・・佐藤さん」
「それにしても先生たち、なんであれを止めなかったわけ?ほんと頭くるわ」
「それは僕もおかしいと思ったよ」
「それはたぶん・・・」
櫻木さんが下を向いたまま口を開いた。
「それはたぶん・・・彼がTACHIBANAの御曹司だからでしょうね」
「そんな理由で!?信じらんない!」
「彼のお父様は信じられないことをよくなさるの。あの新入生代表挨拶だって、きっと彼のお父様の意志もあったはずだわ。それにきっと、彼が入学するにあたって、この学校に多額の寄付をなさったのだと思うわ」
「それってただの賄賂じゃん!ますますムカついてきたー」
佐藤さんは両手をグーにしている。
「ありがとう、翔子ちゃん。でもこれは私の問題だから、そんなに気にしないで」
「そんなこと言われても気にするの!水野もなんか言ってよ!」
「え・・・うん。僕も、これは櫻木さんだけの問題だと思えない。相手はなんか、権力を使ってくるみたいだし、先生たちも頼りにならないみたいだし・・・。櫻木さん一人で抱え込むなんて無理だよ。僕も何でも協力するから」
櫻木さんは顔を上げ、泣きそうなのを我慢した笑顔を見せた。
「ありがとう、二人とも・・・」
***
「ところで櫻木さん。こんなこと聞いて申し訳ないんだけど・・・あの・・・婚約者っていうのはそもそも本当なの?」
僕の質問に、櫻木さんは悲しそうな顔をした。
「ええ、本当よ。親同士が勝手に決めただけだけれど」
「そうなんだ・・・」
こんな時だが、櫻木さんに婚約者がいたことで悔しい気持ちが湧いてきてしまった。櫻木さんは傷ついているというのに・・・。
「あんた、何ちょっと落ち込んでんの?」
佐藤さんに睨まれてしまった。
「えっ!お、お、お、落ち込んでなんかないよ」
「あっそ」
「でも、おかしいわ・・・」
櫻木さんがそう言った。
「
「み、尊・・・くん・・・」
下の名前で・・・。
「だからあんたは何落ち込んでんの!」
「何でもありません!」
***
「で、小鞠、あの
「ええ、そう聞いていたわ。橘家は代々通う高校が決まっていたから」
「そう。でもあいつ、この学校に入学した理由は小鞠だって言ってたよね。小鞠がここに入学するって聞いて学校変えたのかもね。まあ、話聞く限り、その父親なら息子をねじ込むぐらい簡単にやってくるか」
櫻木さんはため息をついている。
「そうだ小鞠、一応聞いとくけど、あの婚約者とは結婚したくないっていうことで合ってる?」
てっきりそうだと思っていた。まさか実は違うなんてこと・・・やばい緊張してきた・・・。
「ええ、もちろんよ。あのご家族とは親族になんて絶対になりたくないわ」
「だよね!櫻木さん」
「あんたは何安心してんの!」
***
教室の外がざわつき始めた。式が終わり、生徒たちが戻ってきたようだ。僕たちを見てみんな気まずそうだったが、佐藤さんが睨みをきかせていたからか、誰も興味本位で茶化したりしなかった。
その後のホームルームでも、担任からのフォローは何もなかった。あの騒動はなかったことにされているようだ。
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