3-2
––––ブーブブッ
翌朝早く、スマホにメッセージが届いた。
『やはりかいけ対馬せんでした。ごそう男子てもよろしいですか』
うん・・・?対馬の男子が・・・?
––––ブーッブーッブーッブーッ
「うおっ!?」
電話だ。
「もしもし?」
『あ、水野くんおはようございます。朝早くからすみません。その、メッセージをお送りしたのだけど、どうも文字の入力がうまくできなくて・・・お電話してしまったわ』
朝から
「ああ、えーっと、対馬の男子?」
『いえ、昨日お話ししていたご相談の件で。今朝になってもやはり解決しなかったので、ご相談したいと思って・・・』
「ああ・・・うん、もちろん相談にのるよ」
『じゃあ、申し訳ないのだけどこの後お部屋に来てもらえるかしら。今日は私が朝食を作るわ!』
「あ、ありがとう」
この一週間の間にもう一つ分かったことは、櫻木さんがスマホを持っていたことだ。家出の際に爺やから渡されたらしい。掃除の手伝いをしていたときに、桐箱にしまわれているのを僕が発見したのだった。気づかなければ、このまま後世に受け継がれるところだった。
***
「はい、どうぞ召し上がってね」
「ありがとう、いただきます」
あれからすぐに、僕は櫻木さんの部屋に来ていた。櫻木さんが作ってくれた朝食はコロッケのサンドイッチだ。櫻木さんはカズおじちゃんのコロッケを本当に気に入ってしまったようで毎日のようにお店に通っている。カズおじちゃんもカズおじちゃんで、櫻木さんには毎回タダでコロッケを渡していた。
「どうかしら?」
「うん、すごくおいしいよ!」
「本当?ありがとう。これ、カズおじちゃんに教わったのよ」
カズおじちゃんはコロッケを渡すだけにとどまらず、サンドイッチのレシピまで伝授していたらしい。
「ああ・・・そうなんだ、よかったね!これ、本当においしいよ」
櫻木さんに朝食を作ってもらえるなんて夢のようだが、その背後にカズおじちゃんがいると思うとなんだか複雑な気分だった。
「それで、相談って?」
「あ、あの・・・朝食が終わったらお話するわ」
櫻木さんの様子はどうも切羽詰まっているように見える。やはり、何か深刻な事態になってしまったのだろうか。
***
「ご相談なのだけど・・・」
朝食後、櫻木さんはまた例のもじもじを始めた。そしてバタっと立ち上がり、僕の横まで歩いてきた。
「あの、一緒にこちらへ来ていただけるかしら」
そういって僕の服の肘辺りを軽く掴んだ。
「あ、え!?」
僕は櫻木さんに連れられるまま、寝室と思われる部屋に入った。部屋の広さに似つかわしくない大きめの天蓋付きのベッドが置いてある。
––––やさしく・・・してね・・・
まずい、あの妄想が・・・!
「水野くん・・・恥ずかしいのだけど・・・見て・・・」
「え!?な、な、な、な、何を!?」
櫻木さんは上目遣いで話していたかと思うと、急に僕に背を向けて歩いていく。そしてクローゼットの前で立ち止まり、僕の方に向き直った。
「あの・・・これなのだけど・・・」
櫻木さんは勢いよくクローゼットを開けた。
「こ、これは・・・」
そこは・・・なんとほとんど空っぽだった。
「か、空っぽ・・・?」
「ええ・・・お洋服が・・・なくなってしまったの・・・」
「え!?なくなったって・・・まさか空き巣!?警察に通報しなきゃ!」
僕は慌ててスマホを取り出そうとした。
「待って待って!警察になんて連絡しなくて大丈夫よ!」
「え・・・もしかして何か心当たりがあるの?」
「ええ、まあ・・・」
そう言って櫻木さんは視線をクローゼットの隣にある大きな二つの木製のカゴに向けた。
「もしかして、このカゴが犯人の遺留品?」
そういって僕はカゴの一つに近づいた。
「あ・・・水野くんダメよ!」
「えっ?」
櫻木さんが走ってきて僕の腕を掴んだ。しかし、時すでに遅く僕はカゴの中を覗いてしまっていた。覗いてしまってからなぜそんなに櫻木さんが焦って止めようとしたのかわかった。
「お、お、おパンツ・・・」
そこには下着が無造作に入っていたのだった。
「水野くん・・・ダメって言ったのに見るなんてひどいわ!破廉恥だわ!」
櫻木さんは涙目だ。
「ごめん、本当にごめん!まさか・・・パンツが入ってるなんて・・・」
「もう、何回も言わなくていいわ!!」
「ごめんなさい!」
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