第3話「進撃のエミリア」
──ギュォォォォオオオオオオオオオオオオオン!!!
無数のP-51が翼を連ねて飛ぶ退っていったあと、
生き残った僅かな物見櫓では、さらなる事態が彼らを襲う。
そこは地上にほど近い哨戒拠点であり、縄張り意識の強いドワーフ族が同じく縄張り意識の強いエルフの動向を監視するために設けていた地上拠点だった。
大森林や、帝国の各都市と繋がる街道を監視する場所であり、要塞化された物見櫓では比較的多数のドワーフ族の戦士が詰めていたのだが……。
もちろん、彼らは実戦経験が豊富、
先の魔王領侵攻にも参加したことのある猛者で構成されていたわけで──。
「おいおい! 山が……! 山頂の仲間たちが攻撃されているぞ!?」
「な、なんだ? 何が起こっているんだ?!」
「──空飛ぶ鉄の鳥だとぉぉお?!」
動揺こそ大きいものの、さすがは肝の据わった戦士たち。
パニックに至らず、淡々と報告し、危機を鉱山に伝えている。
森の火災は山頂程はっきりと見えるわけではないが…………。
それ以上に彼らの目には異常事態がはっきりと映っていた。
「……お、おい! アレを見ろ。す、すごい数だぞ」
ドワーフ謹製の遠見眼鏡で街道を監視していた歩哨が驚いて声をあげる。
「なん、だ……ありゃ? 人、か?……盗賊? いや……それにしては───」
次々に目に飛び込む情報。
街道からはボロボロになった帝国軍の兵士や、荷を担いだ女子供がヨロヨロと歩いている。
そして、
「おい! 止れッッ!! ここは我らが土地ぞ! 許可のないエルフはと通せん!」
鋭い
服は焼け焦げ、あちこちに傷を負っている。
武装している者はほとんどおらず、取るもの取りあえず逃げてきたと言った雰囲気だ。
「ど、ドワーフ族の英雄たちよ───ど、どうか……」
老いたエルフがハラハラと涙を流しながら懇願する。
何を求めているのか分からないものの、数が半端ではない。
場合によっては侵略行為と間違われて、問答無用で殺さねばならない程だ。
「ええい、
拉致が開かぬと判断したのか、櫓の周囲にある兵舎からドワーフの戦士がバラバラと飛び出し斧や槍を突きつけ火tの盾としてエルフ達を通せんぼする。
「お、お願いです……我らを救いください───」
そう言って平伏し、何度も何度も懇願する森エルフの長老らしき人物。
後に続く多数のエルフも虚ろな目つきで涙を流す。
「要領を得んわ! 一体なにがあった?! まず、わけを話せッ!」
この拠点の哨戒長が部下を押し退けて前に出ると、エルフの長老に詰め寄る。
その時点で彼も異常事態には気付いていた。
プライドの高いエルフ族が、嫌悪するドワーフ族に懇願するのだ。
異常事態というよりも、ハッキリ言って天変地異の前触れにも近い。
森を生活拠点とし、森の恵みを得て木々を大切に守り育てるエルフ族と、
山に生き鉄と火を愛し、技術と共に生きるドワーフ族は燃料としての木々を欲する。
その生活スタイルの違いから両者は相容れぬ存在として、長年いがみ合ってきた。
今でこそ、帝国が間に入り比較的良好な関係を築いているが、種族的に交わることはほとんどない。
そのエルフ族が、ドワーフ族に平伏するのだ……。
ドワーフ族の哨戒長の自尊心を満足させるだけの高揚感を与えるが、同時に違和感すら覚えていた。
あのエルフ賊が懇願するほどの何かがある、と。
「持てる財宝をすべて差し上げます───どうか庇護を……!!」
「庇護だと? 貴様らは難民だというのか? 一体何から逃げて───」
積み上げられる森の産物と財宝にゴクリと、喉を鳴らす哨戒長。
だが、次に瞬間驚愕する。
バキバキバキ──…………ギュラギュラギュラ──────。
妙な騒音が、燃える森の奥から響いたかと思ったその瞬間、
エルフ族全員が強硬状態に陥ったのだ。
「あ、悪魔だぁぁぁああああ!!」
──悪魔が来たぞぉぉおおおおおおおお!!!!
ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
突如大騒ぎを始めたエルフ族。
それに驚くドワーフ族は、思わず何名かのエルフを手に掛けてしまうが、エルフ達はお構いなしにドワーフ達を押し退けて先へ先へと逃げようとする。
そこに、街道からヨロヨロとやってきた帝国軍の兵士と荷を担いだ女子供が混じり現場は大混乱になる。
「ええい!! 退けッ!! この先は進ませんぞ!!」
「しょ、哨戒長!! 何名か───いえ、何百もの難民が突破しました!」
ワケもわからぬうちに剣を振るっていると、難民にもみくちゃにされたドワーフがヘロヘロになりつつ報告する。
「くそ!! エルフめぇぇええ!!」
恐慌状態に陥り、脇を駆け抜けようとしたエルフの首を撥ねる。
だが、彼らは全く仲間の死にも意に介さずただただ逃げ惑う。
「く、くそ!! 早く警報を送れ! 今すぐだ───!」
部下に言いつけ、哨戒長は拠点にいた全員を呼び集めると円陣を組む。
この状態では難民の方が数が多く、自らの命を守ることを優先しなければならない。
屈強なドワーフの戦士たちは難民に波に押されながらも、筋力を持って押しつぶされないように耐える。
それでも、どんどん増え続ける難民。
中には帝国軍の兵士もいるのだからわけがわからない。
たしか、先日帝都が堕ちたという噂が流れたが……まさか?
耐え続ける哨戒長がチラリとこんなことを思ったとき、ようやくサイレンが鳴り響く。
ガツンガツンと難民がぶつかる音を聞く中、櫓に飛び込んだ部下が手回し式のサイレンを鳴らし始めたのだ。
ウーウーウーウーーーーーーー!!!
心を不安にさせる警報音は次々に連鎖し、周囲に響き渡る。
爆散した山頂付近の櫓は別にしても、地上に設置された数々の哨戒拠点が異常事態に気付きサイレンを連動させていく。
ウゥーーーー!!
ウウウウーーー!!!
「よし……櫓まで後退する! この事態一刻も早く工房に───」
哨戒長がそう言ったとき、それは現れた。
突如として森が揺れる。
ガサガサと木々の樹冠が揺れ、エルフ達を強硬せしめる何かが来る───。
バキバキ、ガリガリガリ──────。
ドワーフ鉱山とエルフの大森林を繋ぐ道が地響きを立て、……そいつは来た。
「……なん、だ。ありゃ?」
木々を薙ぎ倒しながら現れたそれ。
深緑のカラーに彩られた鉄の塊が森を薙ぎ倒し、エルフを曳き潰しながらやってきた。
その上に、一人の小柄な少女が乗っており、ドワーフの戦士たちに気付くと、美しい笑みを浮かべて言った。
「こんにちわ、ドワーフ族の皆さま───………ご機嫌麗しく、そして──死ねッ」
──────ズドンッッッ!!
鉄の塊が火を噴き、ドワーフ達の物見櫓が一瞬にして爆散した……。
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