第22話「ロケットパンチ(前編)」

 ブゥーーーーーーーーーーーーーーーーーン……。


 低い唸り声の様なものを聞いてサティラは覚醒した。

 身を切るような寒さ、そして、息がつまるほどの風圧を感じる。


「な。なに?」


 え?

 どこ……ここ───。


 気が付いたサティラはどうやら拘束されているらしく、何かに吊り下げられているようだ。

 しかし、この空気の薄さはまるでグリンと駆けた高空のようで──────。


「え? グリン…………」


 …………じゃない?!

(ぐ、グリンじゃない?! え、でもどーやって飛んでるの?)


 首をひねって吊り下げている物を確認してギョッとするサティラ。


「ちょ、ちょっとなによこれ!?」

 見上げた先には鉄板が。そして、鉄板の下に細長い金属の鏃の様なものがついていた。


「ちょっと、誰よ!! 離しなさいよ!!」


 ジタバタと暴れるサティラ。

 そこに、

『ザ……余り暴れると落ちるわよ』


 サティラの耳に直接話かける声があった。

 よく見れば何やら頭に耳あてのような物が被せてある。


「エ、ミリア───?!」

『はぁい、おはよう───景色はどう?』



 景色……?


 ふと視線を前と下へと───……白いモヤモヤのようなもを周囲を覆っているが、不意にゴウゥ……! と景色が晴れた。


「ひぃ!!」


 晴れた視界の先は、恐ろしいほど開けていた。

 この景色───見覚えのある視界……!!


「そ、空?!」

『ご名答。気持ちいいでしょう? 空を飛ぶのって───』


 き、きもちいいものか!!

 な、何で私が空を飛んでいるのよ!?


「何の真似よエミリア! いるんでしょう!!」

『うふふふふ。そんなに探さなくても、もうすぐ見えてくるわ』


 からかうようなエミリアの言葉にイライラとしつつも、わけのわからない状況にどうすることも出来ずにジタバタと暴れる。


「見えてくるって───何を言っているのよぉぉぉおお!!」

『ほら、すぐそこ───もうすぐよ!』


 視界が開け、焼け野原になったエルフの大森林。


「ああああ……森が……森がぁぁぁああ」


 シュウシュウと所々白煙が立ち昇っており、いくつかの集落が防火帯を築いたらしく、何カ所かで森が大海の小島のように残っている箇所もある。


「あああ……少しは、生きているのね!」


 よかった。

 良かったよ!


 高空から見下ろすなか、サティラは涙する。

 森のエルフの生き残りがいると───。


 彼女とて、自分のみが安全なら一族の安寧を望むもの。

 もちろん一番大事なのか自分ではあるけど……。


『大丈夫よ。丁寧に、綺麗に、スッキリと滅ぼしてあげるから───』


 え?


『見なさい───エルフ達であると言うだけで殺される、その末路を』



 グゥゥゥオオオオオオオン!!!


 

 突如、聞き覚えのある獰猛な唸り声を聞き思わず首を竦めるサティラ。

 その目の前をアイツが飛んでいった───。



 そうとも、親友であるグリフィンのグリンを殺した悪魔───P-51マスタングだ。



 グゥゥゥオオオオオオオン!!!

  グゥゥゥオオオオオオオン!!!

   グゥゥゥオオオオオオオン!!!



「あいつ!!」

『うふふふふふ……暴れないの───アイツ・・・が、アナタを落としちゃうわよ?』


 え?

 ええええ!?


「まさか!!」

『そうよ───アナタを抱えているのは、P-51マスタングよ。しばらく仲良くね』


 そう言われて大人しくなどしていられるか!!


 精霊魔法を使えばなんとか……。


『見なさい』

「あ」


 飛び退っていったP-51が森の生き残りに向け急降下───シュパパパパパパパパパン!!

 と翼から炎を噴く鏃を連射した───。


「な!!」


 そして──────ズドーーーーーーーーーーン!! と、森の生き残りに命中。ゴウゴウと炎を噴き出し始めた。

 だが、それでも納得できなかったのか、P-51は旋回し、銃撃を繰り返す。


 ただの、一人も逃さないとばかりに───。


『これが私の殺意───。そして、お前たちの末路だ』


 魔族を殲滅し、生き残りすら探して殺していったお前たちの末路。

 ダークエルフであるという理由で殺された者たちと同じ道───……。


『お前は言ったな───ダークエルフであることが罪だと、』

「そ、れは!!」


 あぁ言ったよ。

 言ったさ!!


 今さら誤魔化さない!!


「言ったわよ……」


 もう隠さない。

 だから、言う──────。


 言ってやる!!


「世界はお前を認めない!! ダークエルフの生存など、世界は認めない!! 魔族は死ねぇぇぇえええ!!」



『結構──────その言葉を聞きたかったの』



 だから、ね。


「エ……ミリ、ア?」


 グングンと高度を下げるP-51。

 その向かう先は神殿跡地。


 数多の同胞が撃ち倒され、骸を晒すその地で──────。



 エミリアが一人立っていた。

 小さな機械を手にして、たった一人で佇んでいた。


 そして、ニコリとほほ笑んで、何かを、その機械に話しかけつつ───……そこにいた。




『世界が魔族を認めないなら──────……』


 エミリアがぐぐぐ、と腰を落とし正拳突きの構え。


『───私も世界を認めない・・・・・・・・・!!』



 ブシュゥゥゥーーーーーーーーーーー……!


 な?

 え?

 あ?

 

 って、これぇぇぇえ!?


 突然、煙を噴きだしたものにサティラは驚愕に目を見開く。

 それはサティラをぶら下げているもので、先ほどエルフの里に撃ち込まれた炎の鏃と同じもの───。


 全長 約3m

 初速 約880km/h

 射程 約1.5km


 そう、

 これは、戦闘爆撃機用の空対地ロケット弾───「タイニー・ティム」である!!



「ちょぉぉぉおおおおおおおお!!!」



 発射ッッッッッッ!!


 シュパーーーーーーーーーーーーーーーーーン、とサティラをぶら下げたままぶっ放されたロケット弾。

 そいつがエミリア目掛けて飛んでいく。



「いーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」



 ごぉぉぉぉおおおお! と物凄い風圧を受けて、サティラの顔がびよーーーーーんと風によってビロンビロンに捲られる。



「やーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」



 ……スッゴイブサイク。


『だからね、サティラ──────……』


 あーーーーーーーーーーれーーーーーーーーーーーー!!!!

 ロケット推進によってカッ飛んでくるサティラに、エミリアは腰を落とした拳を構える。


 間近に迫りくるロケット弾と化したサティラに向かって優雅に微笑み、無線機をポイっと投げ捨てた。


 そして、

「──────これは宣戦布告だぁぁぁああああああ!!」




 うおらぁぁぁぁぁあああああああ!!




 『ロケット弾化サティラ』に向かってエミリアが拳を振り抜く、

「ほぎゃややああああああああああああ!!!」


 刮目して見よッッ!!


 これが本物の、

「───ロケットパンチだぁぁぁぁああああああ!!!」



 ぶわっっっっっっっっっきぃぃぃぃぃぃぃいいんッッッ!!!!!



「ひで───」


 メリメリメリメリメリメリメリ───……!!


 拳がサティラの顔面に突き刺さり、メリメリと沈み込んでいく。

 ロケット推進を受けてさらにさらにとエミリアの拳を頂戴し、顔面陥没───かーらーの……体の中までシェイクするように、拳をめり込んでいき───最後にケツから、


「───ぶッ」


 と、拳が突き抜ける!!


 そして、グッチャグチャになったサティラが、そのままロケット弾ごと駆け抜け神殿跡にスポーンと飛び込んだ。

 あとは着弾するのみ──────……。



 ズドォォォォォーーーーーーーーーーーーーン!!!



 くぐもった爆発音が起こり、神殿がガラガラと崩れていく。

 そして、サティラだったものがバラバラと降り注ぎ──────……。


 森エルフは誰もいなくなった……。

 


「あは、きったない撒き餌───……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る