第21話「ラストダンス」

 とんだ雑魚じゃん?




「むっきーーーーーーー!!」


 顔面を真っ赤に染めてサティラが怒り狂う。


「と、とととととと、取り消せぇ!! 今行ったことを取り消せぇぇぇ!!」

「ぶふーーーーーーー!!」


 ゲラゲラと笑い、敵を前にしてエミリアが転げまわる。


「あははははははは! アンタ道化の才能はわるわよぉぉおお。あはははははは!!」

「こんのぉぉぉおお!! ダーーークエルフ風情がぁぁぁあ!!」


 殺せぇぇぇええ!!


 サティラが指示を飛ばすと、スケルトンどもは草木や石から剣に弓を顕現させる。

 それをエミリアに指向するも、未だ彼女は笑い転げている───。


 やれ!!!


 剣に、弓矢がエミリアを一斉に襲う──────……アレ?


「やれやれね……。サティラ───」

 スケルトンの一体にいつの間にか取り付いたエミリア。

 小柄な体で、そっと彼の者の頭骨に触れ───抱締め、キスをする。


(ごめんね───)


 ゴシャァアア!

 と片手で頭蓋骨を握りつぶすと、肩を蹴って跳躍───その鼻先で、砕かれたスケルトンの体がボロボロと無に帰っていく。


「んな?!」


「───サティラ、アンタごときが束になっても、私には勝てないわよ」


「舐めるなぁぁぁああ!!!」


 ポケットに入れた手からサティラがさらに何かをばら撒く───。

 

 エミリアが目を細めてそれを確認すると、

(…………歯?)


「祖霊たちよ!! 彼の者に天罰を!!」



 キラキラとした光───それが空中にばら撒かれた歯に纏わりついていく。

 そして、地中からドンドンドンと土の手が伸び、その歯をつかみ取るとそのまま人型を象っていく。


「いけ! 祖霊の宿るクレイゴーレムたちよ!」


 やや痩せぎすなゾンビのような顔をしたゴーレムが複数───……計20体、現れた。


「ふふふふ……結局一対一じゃ勝ち目がないってことを、認めたようなものよ───」


 この雑魚が。


「黙れぇぇぇぇぇえええ!!」

「語るまでもないわ───」


 ブン!! と大剣を振りかぶりサティラ目掛けて思いっきり投擲!!

 

 あわや命中と言うところで、スケルトンが二体割って入りそれを防ぐ。

 だが、一体は粉々に、二体目が武器で止めようとしたようだがあっという間に折り砕かれ顔面に剣を受ける。

 そのまま深々と突き刺さった剣の切っ先がサティラの眼前に、それも相当にギリギリに───……。


「ひぃぃぃいいい!!」


 ドスンと腰を抜かしたサティラの目の前で、スケルトンがガラガラと崩れ去っていく。

 残り2体と、クレーゴーレムが20体。


「うああああ……! 畜生、今がチャンスだ! やれぇぇぇえ!」

 エミリアが武器を失ったとみるや、自らも魔法武器らしき弓を取り出し彼女を狙うサティラ。

 そして、クレイゴーレムとスケルトンが一斉に襲い掛かる。


「───誰が剣だけが武器って言ったのよ」


 ヤレヤレと肩を竦めたエミリア。

 猛然と向かってきたクレイゴーレムに向かってスパァァンと脚線美を見せつけるような綺麗に廻し蹴りを放つと、一撃の元に粉砕し、更に追撃。


 蹴り抜いた足の軌道を変えて、マントの中の裸体が見えることも厭わず、高々と振り上げた足をぉぉぉおお!!


 振り下ろす!!


 ズドン!! と衝撃が伝わるほどの勢いで踵落としを食らったクレイゴーレムが木っ端みじんに粉砕される。


「あああああ……馬鹿なぁぁあ!」


 更に同時に全方位から飛び掛かってきたグレイゴーレムを薙ぎ払うように頭を地面に擦り付けるようにして、舞うように───ブレイクダンスのようにグルグルと回転を加えて次々に足技で薙ぎ払っていく。


 黒いマントがバタバタと空気を含み彼女の動きに必死で追従するが、変幻自在のエミリアの動きについていけず彼女の裸体をついつい晒してしまう。


 だが、エミリアは一切に羞恥を感じることなく、クレイゴーレムたちを薙ぎ払っていく。


 そして、

「時には武器も使うッ!」


 さっきから黒マントの下に見え隠れしていた二挺の短機関銃トミーガンと、足のホルスターに収められた拳銃コルトガバメント。そのウチ、トミーガンをスパァと抜き放つと二手に構えて──────。


 トパパパパパパパパパパパパパパパパッパパパ!!


 ちょうどクレイゴーレムが並んだところを目掛けて腰だめに構えた二挺マシンガンで乱射!!


 50連ドラムマガジンに収めされた45ACP弾(11.43mm拳銃弾)が、これでもかというぐらいに吐き出され、クレイゴーレムを薙ぎ倒していく。


 そして、その反動を逃がすことも受けることもせずに、むしろバックステップの補助として活用し、銃を乱射しながら舞うエミリア。


 正面にいた10体のクレイゴーレムをあっという間に薙ぎ倒すと、弾の切れた二挺を投げ捨てバックステップのままバク転し、背後から忍び寄っていたスケルトンの頭の上に着地する。


「残りちょっとね」


 バンバンバンバンバンバンバン!!


 スケルトンの頭部に、至近距離で全弾撃ち込み粉砕する。

 そして、崩れ落ちるスケルトンに任せるまま身をゆだねて位置を変える。


 その頭上をサティラの必殺の弓矢が掠めていったが、エミリアはチッとも慌てず、寧ろ「ふふん」とほほ笑み挑発。


 スケルトンの残骸の上で悠々と弾倉を入れ替えると、動作を終えると同時に一気に疾走し、サティラに迫る!


「ひッ!」


 猛烈な勢いで迫るエミリアの鬼気迫る様子に思わず構えていた弓矢を取り落とす。

 だが、それでエミリアが手心を加えることはない。


「最後まで根性見せなさいよ───サティラぁぁああ!!」


 右手にガバメント。

 空いた左手は無手のまま──────さっと、地面に転がる大剣を拾い構える。


 サティラを守るべく彼女の眼前に立ち塞がったスケルトンを蹴り上げて体をバラバラに吹っ飛ばすとエミリアも蹴りの一撃と共に跳躍し、空中でクルンと反転し、天地を逆にする。


 そのまま、空に舞い上がった祖霊の遺骨とやらの頭蓋骨を足場に、ドン!! と一気に急加速。

 胸の前で剣と銃を交差させ──────……ブン! と左右に構える!


 そして、地上でへたり込むサティラに飛び掛かる。


「ひぃぃぃいい!!」


 慌てて魔法具らしき短剣を構えるサティラ。

 そして、彼女周囲に集まった最後のクレイゴーレムの集団!

 サティラの左右に集まり、援護する──────。


「あああああああああああああああああ!!」


 バンバンバンバンバンバンバンッ!! と左のクレイゴーレムを殲滅し、


 どりゃあああああああ! と振り下ろした大剣の一撃が右のクレイゴーレムの叩きつぶし、全ての雑魚を一蹴すると、ズダァァァァアン!! と土埃を立てて着地。


 サティラを至近距離で見下ろす。


「ひぃぃぃぃぃい」


 サティラはと言えば、あっと言う間に無力化された祖霊たちに愕然とし、目の前のエミリアに恐怖していた。

 短剣を構えているのに、それで反撃するなど思い至らないらしい。


 間近でエミリアのふーふーという荒い息を聞いているだけで、顔がみるみる内に青ざめていく。


「一対一なら何だって?」

「ひゃああああああ!!」


 ジャバーーーーーと、ついにはお漏らし……。


 起き上がったエミリアに大剣を突きつけられて、断続的に漏らしつつズルズルとはい回る。


「や、やめて……! ち、違うの!!」

「何が?」


 ズルズル、ドズン!!

「ぐえ!!」


 逃げるサティラの腹に、足を思いっきり叩きこみ組み伏せる。


「だ、だだだだだだだ、だから、その─────グスタフよ!! あのドワーフ達が悪いの!!」

「はぁ?」


 エミリアの反応に脈ありと見たのか、サティラが聞いてもいないことを勝手に囀り始めた。


「そ、そうよ!! 全部ドワーフが始めたことなの! 帝国に進言し、魔王領侵攻を望んだのはドワーフなの! エルフは関係ない!! そうなのよ!!」


 だから、私は悪くない。

 何も悪くないととうわ言の様に繰り返す。


「燃える水やオリハルコンの鉱石が欲しいと、ドワーフの王が進言し、それを調査し、十分な価値があると認めたのがグスタフなの!」


 そうよ!!


「アイツらが戦争を望んだの!! エルフは悪くない! 帝国が……ドワーフが悪いのよぉぉぉおお!!」


「はッ!!!!」


 聞くのもバカバカしいと、エミリアは吐き捨てる。

 それが事実だとして、エルフが無罪という意味が分からない。


「あーそー……。で? なんでダークエルフは、……魔族は皆殺しにされなきゃならなかったの? ねぇ? 私達があなた達に何かした? ねぇ? 北の僻地で貧しいながらも必死で生きてきただけなのよ? ねぇ?」


 ねぇ?

 ねぇ?


 ねぇ?


 ねぇぇぇぇえええ?!


「ひぃ!! だって、だから、そんなこと言っても──────私は悪くなぁぁぁぁぁい!!」

「だったら、思い出せ!! そして、思い知れ!! そして、思い続けろ!! お前が殺したダークエルフの青年を、ダークエルフの幼子を、ダークエルフの老人をぉぉぉお!」


 そして、そして、そして───……!!


「積み上げられた死体の前で犯されて、入れ墨を剥がされ、汚い帝国の男達の玩具にされた私気持ちをぉぉぉおお!!」

「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 エミリアが高々と剣を振り上げる。それを叩きつけんとサティラに振りかぶって──────下ろす!!!


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 だが、その刃は寸前でとまり、サティラの髪を数本斬り飛ばすに留まった。

 エミリアが寸での所で止めていたからだ───。

 






 だが、サティラの精神はこれ以上もたなかったらしく、ぐりんと白目をむいて失神してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る