第14話「空の仇花」

 ───抗って見せなさい!

 私達魔族の様にッッッ!!!



 ゴォォォオ──────!!



「……な、なんだあれは?!」

 サティラは驚愕の目で空を見上げていた。


 それは、そうだろう。

 空に花が咲く───。咲くのだ。


 ……それはこの世界、初の現象だ。

 

 いかに長命なエルフ族とは言え、こんな現象を見るのは生まれて初めて。

 目の当たりにした全てのエルフが驚愕に顔を染めている。


「さ、サティラさま!! あ、あれは何事ですか!?」

「サティラ様ぁぁあ!!」


 し、知るかッ!!───サティラはそう言ってやりたい。


 だってそうだろ?

 誰も、あんなもの・・・・・は見たことがない。


 それを何でサティラなら知っていると思い込めるのか? いっそ、小一時間くらい問い詰めてやりたいものだ。


 だが、理屈ではないのだ。

 所詮は、ここにいる連中もただの神官にすぎない。

 サティラのように選ばれしものとは程遠い。


 だから、あんぐりと口を開けるサティラの元に、神官たちが集まりやいのやいのと大騒ぎするのだ。


 たった今しがた、サティラによって、空から来る脅威はないと説かれていたばかりなので、「なんで、なんで?」と、問い詰めたくなる気持ちはわからなくもないが……。


 そんなことはいいから、まずは神殿に避難せよ! と───サティラは叫ぼうとした。


 だが、


 しかし、どうだこれは?

 これは避難するべき事態なのか?

 それとも、何か対処すべきなのか?


 空に花が咲いたからと言ってなんだというのだ……?


 ───正直、サティラにも判断がつかない。

 だが、そんな彼女の葛藤を知ってか知らずか、沈黙を続けることに業を煮やして場を取り仕切るべき侍従長までがサティラに詰め寄る。


「神官長どの、いかがなさるおつもりで? 避難ですか? それとも兵を集めますか?」


 わかるものかッ……!


 サティラとて、こんな事態は想定していない。

 いないともさ───!!


 予想通り、銀のドラゴンどもが火の雨を降らすと言うなら、ただ地下に逃げ込めばよかった。

 それで一時的に難を凌ぎ、ゆっくりとエミリアを待ち受ければよかった。


 元来、エルフとはノンビリ屋なのだ。


 先へ先へと考えるより、時間が解決することを望み、事態が好転するのを待つ傾向がある。


 彼らには悠久に近い時間があるのだから、時間が経って解決するなら、それに頼るのが種族的傾向なのだ。


 だが、これはどうだ──────?


 誰が一体こんな事態を想定する……。

 誰がいったい……───。


「───み、見ろ!! 花の……花の中に兵がいる!!」


 なに?!


「そ、空を飛ぶ兵士だと?!」

「バカな? 見間違いだろう??」


 いや、いる。


 兵がいる!!

 ま、舞い降りてくる!!


「「「さ、サティラ様ぁぁああ!!」」」


 うるさい、うるさい!

 私に頼るな!

 私だけに頼るな!!


 お前たちも少しは頭を使え!!

 私にばかり負担をかけるな! 首の上に載っているのはキャベツじゃねーだろうが!!


「少しはお前たち、も…………」


 え?


 ………………ちょ、


「な、なんで─────……」


 なんで!!


「何で、お前がそこにいる─────……」


 サティラに目に飛び込んできたのは、花の下にぶら下がる褐色肌のダークエルフ!


 つまり……。


 つまり!


 奴は剣を帯び、落下傘を背負った邪悪なる兵士!!

 そして、魔族最後の生き残りの───!!


 つまり!!!


 ───エミリア・ルイジアナぁぁぁああ!



※ ※


「エミリア・ルイジアナァァァ!!」


 ルイジアナァァァア……!


 アナァァァ……。


 サティラの叫びが聞こえてきそうで、エミリアは心の底から笑いたくなった。


 この込み上げる感情はなんだろう?

 この胸の中の思いはなんだろう?

 この──────。



 あは。

「あははははは! 驚いてる、驚いてる!」


 ビュウビュウと吹きすさぶ落下の風の中、徐々に近づく地上の気配にエミリアは期待に胸を膨らませていた。

 

 だって、御覧なさい? エルフよ?!

 エルフがいるよ?

 いっぱい、いっぱいいるよ!!


 あぁぁぁぁんなに仕留めたのに、

 まぁぁぁあだ、こんなにいっぱいいるぅ!


「エルフがいっぱいいるよ~♪ エルフがいっぱいいるよ~♪」


 そして、

「───あ~~~~♪ サぁぁぁティラ~、いい顔してるなーーーーと!」


 あのクソサディストの森エルフを見つけたよ♪

 サティラを見つけたよ♪

 私たちの仇を見つけたよ♪


 物凄くいい顔───驚いているのか、恐怖に慄いているのか……。あはは、エルフ百面相だよぉ♪


「驚いた? 悔しい? どうしていいか分からない?! あはははははははははは」


 もう着くよ。

 すぐ着くよ。

 いま着くよ。


 ほらぁぁ、

「───着っ地ぃぃぃいい!!」


 ドスン! という足から腰に突き抜ける衝撃に一瞬息がつまるも、ダークエルフの頑丈な体をそれを一瞬で正常値に戻す。


 直後、フワサッ……とパラシュートの布とパラコードが体に振り落ちてくるが、エミリアはたどたどしい手つきで固定具を外し、肩から振り落とすと、剣を引き抜いた。


 シュランッッ!


「さぁ、第二ラウンドの開始よッ!」


 まるで、皮膜を破り魔物が生まれ出てくるように黒いマントだけを羽織ったエミリアが現れる。


 パラシュートを引き裂き現れる……。


「私は、一切容赦などしない───」

 だから、森のエルフたちよ……!!

死ぬまで・・・・抗って見せろッッ!!」

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