第8話「絨毯爆撃」

『───絨毯爆撃である!!』




 キュイーンと、何かのハウリング音を立ててエミリアの声が森中に響きわたる。


 魔法か何かで声を増幅させているらしい。


 そして、声に被せる様に、猛烈な勢いで何かが……。

 何かが…………。


 何かって……───何だよあれは?!


 ひ、

「───火の雨だぁぁぁぁああ!!!」


 ひゅるるるるるるるるるるるるるるる

  ひゅるるるるるるるるるるるるるるる

   ひゅるるるるるるるるるるるるるるる


 Bー29一機当たり───集束焼夷弾が40発。

 そして、その焼夷弾からばら撒かれる子弾の数は全部で1520発。


 それが300機。

 300機である!!


 つまり───クラスター弾が、12,000発。

 そして、ばら撒かれる子弾の数はトータルで18,240,000発!!


 トータルで、18,240,000発である!!

 もう一度いう、18,240,000発である!!


 そんなの、

 そんなの、

 そんなのって、頭おかしいだろうがぁぁぁあああ!!!!


 あーはっはっはっはっはっ!!!


『燃えろ、燃えろ、燃えろ、燃えろエルフの森よ!!』


 あああああああ、いい♡!!


 快ッ感♡!!!


 濡れてしまうッッ♡!!


『ああああああああああ、いーーーーわーーーーーぁぁぁあんん♡!!』


 濡れる、濡れる、濡れるぅ♡!!


 エルフの森が燃えていく様が、私を昂らせる!!


 あーーーーー♡


 大空で官能的に叫ぶエミリアを見て怒り狂っているのは、サティラ!!


 い、

「───イカれてんのか、テメェェええ!」


 ぶっ殺す!!!!


 ぎゅりりりりり───と、弓を引き絞るサティラ。

 もちろん、彼女の声はエミリアには届かない。


 ……そもそも、見えてすらいないだろう。

 だが、私からお前は見えているぞぉぉお!


 そして、

「死ね───ダークエルフ!!」


 バィン!!─────…………………と、放つ矢ッッッ!


 ……だが、届かないだとぉぉお!!??


 サティラの渾身の一撃が全く届いていない。

 空には、圧倒的数を誇るB-29がいると言うのに届かない───!


 一機足りとも落とせない!!!


「な、なにをしているの! さっさと応戦しなさいッ!!」

「「「は、はははははははいぃぃい!」」」


 若いエルフたちが、ワタワタと弓を構えて次々に空に放つ。


 ビュン!!

 ビュ、ビュン!!


 ビシュンンン!!!


 次々に空に向かって放たれる矢。

 だが、届かない。


 精霊魔法を重ね掛けし、風の精霊が顕現するほどに、強力な補助を得ても届かない!


「くそッ!! だったら私がやる───全員補助魔法をかけよッ!」


 再びサティラが矢を構える。

 その間にも、B-29は迫りくる。

 

 エミリアの狂ったような嬌声を聞きながらも、迫りくる。


『あははははははははははははは』


 あははははははははははははは!


『燃えろ、燃えろ、燃えろ、燃えろ!』


「くそ、あの狂人めぇぇえ!!」


 ぎりりりりりりりり…………!!


 力の限り引き絞られる矢!

 そして、さらにそれを補助する魔法が次々に顕現していく。


「母なる大地、父なる森よ───我に力を」

「「「「「汝に力を───」」」」」


 歌うような詠唱がサティラを包むと、フワリと浮かび上がった透明な人影。

 

 なんと、風の精霊が顕現した。


 だけど足りない…………。

 もっともっと、もっと!!


「力貸せっつてんだろうが!!」


 もっと、もっと、もっと!!


『もっと燃えろ! もっと燃えろ! もっともっともっと!!』


「もっともっともっともっともっと───」


「『もっと、もっと!!』」


 ひゅるるるるるるるるるるるるるるる

  ひゅるるるるるるるるるるるるるるる

   ひゅるるるるるるるるるるるるるるる


 大量の焼夷弾が降り注ぎ、森を端から丹念焼いていく!!


「ぐぅぅぅう! なんてことを!?」


 ぐぅ!! 火が! 火がここまで!!

 だけど、上空まで来た!!


 奴の顔がみえる距離まで!!!


「───死ね! エミリアッッ!」


 バシュン!!


 はるか上空にいるB-29。その先頭機を狙ったサティラ。

 奴がそこにいると確信して───。


 そして、着弾!!!


 空と地上に着弾、着弾!!


 着弾着弾着弾!!!!!!


 着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾着弾!!!


 ドドドドォォオオオ!! と地上部分で猛烈に火災が発生する。

 砦の周囲もゴウゴウと音を立てて燃えていく。


 だが、


 だが、


 だが!!


「当た…………った?」


 見た。

 見えた。


 確認した!!


 当たった!!!!


 当たったけど、

「───何で落ちねーーーーーーーーんだよぉぉぉお!!」


 命中を確かに確認した。

 だが平気な顔をして奴は飛んでいる。


 ───銀のドラゴンは飛んでいる。


 まるで、虫に刺された程度に感じて飛んでいる……。


 そして、ついに!!

『───あは! みーーーーーーーつけたぁぁあ!』


 うぐッ!!


「ば、バレたわ!! こうなったら全員で一斉攻撃よ!!」


「は、はい!!」

「わ、わかりましたですじゃ!」


 まだ終わらない。

 こんなところで終わらない!!


「撃て、打て、射てぇぇぇええ!!」


 ドワーフ製の弩が、

 若者たちの精霊魔法が、

 ミスリル製の鏃が、

 老人たちの竹槍が!


 空に向かって一斉射撃!!


「─────って、竹槍ぃぃぃいいい?!」


 それだ!!

 それだ!!





 それだぁぁあああ!!

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