第7話「巨木の森」


「全くなんて日だ!!」


 今日という日は本当に最悪だ!


 里が焼かれ、死傷者を大量に出すわ。

 ドワーフどもに足元を見られ粗悪品を売りつけられるわ。

 そして、極めつけはエミリアだ!!


「あの、クソ売女がぁぁぁあ!!」


 サティラは苛立ちを隠すことなく、周囲に当たり散らしていた。

 物静かで知的だという評判のサティラ。

 だが、その姿は偽りのモノであり、もはやそれを隠す気もない。


 それを目の当たりにした長老たちは、ビクビクとしているが、素直に言うことを聞いているので、もうこのままの方がいいだろう。


 それにしてエミリアの奴……!!


 素直に魔族の地で朽ち果てていればいいものをッ!!


 お前ひとりが、男に嬲り殺されていれば、皆が幸せだったんだぞ!!


 近いうちに帝国は世界を征服しただろう。


 そうして、平和になった世で我らも繁栄を享受する───。


 大森林は豊かで美しく、私も良き伴侶を得て───うららかな昼下がりを楽しむ。


 ………………それでいいじゃないか!!


 何が、悪い?!

 何が、気にくわない?!

 何が、お前をそこまでさせる?!


 お前の一族の復讐だか、勇者様への思慕だか、ハイエルフ様への恨みだが───なんだか知らんが、そんなもので世界を滅茶滅茶にして何を得る?


「どうせ、ゴミのようなダークエルフどもの仇討ちといったところよね?!」


 ハッ!!


 仇討ちぃぃぃぃい───??……そんなもんは、犬にでも食わせてしまえ!!


 くそ!

 クソ!


 糞、クソ、くそ!!


 エミリア、

 エミリア、

 エミリア……。


 エミリア・ルイジアナぁぁぁぁぁあああ!


 ───あの薄汚い売女は、絶対に許さん!


 里を焼いて、銀色のドラゴン? の腹の中で笑っていたエミリアの顔を思い出すと、いかりてはらわたが煮えくり返る!


「覚えてらっしゃい!」


 その美しい顔が、真っ黒になるほどの憎悪に染めてサティラは唸る……。


 ぶっ殺す。

 ぶっ殺す。

 ぶっ殺す──────!! と。


 そして、多数のエルフを引き連れ向かった先は巨木の森。


 ここは、全長30mにもなる巨木が生い茂る場所。

 神聖な地であり、なんとこの巨木はエルフ達の砦も兼ねている。


 見渡せば、表皮を傷つけないように注意しながら、内部をくりぬいた山塞が構築されており、巨木の中には天辺付近まで階段と通路が設けられているのだ。


 そして、ちゃんと偽装を施しているため、上からも下からもタダの巨木に見える。


 まさに、隠れ里である。


「───どう? 兵の展開は終わった?」


 階段を上り切り、頂上付近の見張り台につくと、そこにいた若いエルフに訊ねる。


「さ、サティラさま!!」

「───いいから、報告しなさい」


 一々驚かれていて、しち面倒くさい。

 今まであまり下々の者と関わってこなかった弊害だろう。


 ───まぁいい。


「は……はッ! み、見張り台には全て弩を設置しました。その他、精霊魔法の使い手を集めております」


「よろしい……。あのやじりは配った?」


 高い金を出して、買い集めた新兵器だ。


「はい! 一人あたま5つほどを受領しております」


 そう言って、若いエルフが青白く輝く鏃を取り出した。


 ミスリル製の鏃。

 ───ドワーフ謹製の特注品だ。


「いいわ。惜しまず使いなさい」


 そうとも。

 私の矢は弾かれたが、あれはタダの素鉄の鏃だったからだ。


 このミスリルの鏃なら、きっとあの銀のドラゴンにも届き得る。


 見張り台に設置されている大型の弩も、射程内にエミリアが来れば大いに役立つだろう。


 ただ、武器はやはり全員に行き渡っていない。


 弓を持たない雑魚エルフどもには、取りあえず自前の武器を準備させたが……。


「まったく……酷い有様ね」


 眼下を見れば、何をするでもなく───不安そうな顔をしたエルフが、竹槍をもってウーロウロ。


 ハッ!!


 ───竹槍でドラゴンが落とせれば、苦労はないわ。


「───いい? 奴は油断している。……私達が森に逃げ込んだことを知れば、きっと低空から探しに来るはず」


 そうだ。

 その時こそチャンスだ。


 サティラ自身を囮にして、エミリアを誘い出すのだ。


 そして、巨木の森に差し掛かったところを、下から一斉に射掛ければよい。


 練度の低い者でも、数ちゃ当たる。


 さらに、精霊魔法の補助を得れば、矢の命中率も、威力も上がるはず。


 そこに、だめ押しのミスリルの鏃だ。


「ふ。エミリアめ……。見ていろ。叩き落としてからは、どうしてくれ───」


 ──────ん?


 違和感に気付き顔をあげると、隣にいた先ほどの若いエルフがガクガクと震えていた。


 いや、違う。

 コイツだけじゃぁない。


 いつの間にか、見張り台にいたものが全員震えている。


 山塞全体が、ガタガタと震えている……。


「な、なんなの?」

 どうしたってのよ??


「ひ、ひぃぃ!」


 若いエルフが悲鳴をあげ───。

 そして、空の一点と森を指さした。


「も、森が燃えている……。ど、ど、ど」


 ──────ドラゴン!!!!


「も、もう来たっての?!」


 バッと、振りかえるサティラの視線の先───。


 ゴオォン、

 ゴオォオン、

 ゴオオオォン、

 ゴオオォォオン。


 ゴォォオン…………!!





「ば、か……な」



 も、

 森が燃えている。


 森が燃えている……。


 森が燃えている!!!



 も、

「森が燃えているだとぉぉぉぉおおお!!」



 森の端から端───。

 遠くに見える森の切れ間から、ここに至るまでの森が、ゴウゴウ!! と燃えている。


 燃えている!!

 燃えている!!

 燃えている!!


 ───燃えているぅぅぅぅうう!!!


「ああああああああああ、アイツだ!!」


 アイツだ!!

 

 アイツだ!!


 アイツに違いない!!


「エぇぇぇぇぇえええミリア・ルイジアナぁぁぁあああああ!!!」


 ───ルイジアナぁぁぁあ!!


 ───ジアナぁぁぁあ!!


 ───ぁぁぁあ!!



『あははははははははははははははは!!』


 あはははははははははははははは♪

 あははははははははははははははは♪


『森に隠れれば助かると思ったのかしら?』


 キュィィーーーーーン……。

 とハウリングのあと、エミリアの声が森に響き渡る。


 そして、来た──────!!


 300もの、銀色のドラゴンが群れをなして!!!



『あーーはっはっはっはっはっはっは!』




 エルフの森をバーニング ザ 焼きましょうかエルフ フォレスト


 

 投下ッ


 投下、投下ッ!!



 ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる

 ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる

 ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる



「な、なにをしている!!!」


 あはははははははははははは!!



 すぅぅ……。

『──────絨毯爆撃であるッッ!!』

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