第6話「応報の刻」

「あははははははははははははははは」


 あー楽しい!!


 エルフの村を焼くのがこんなに楽しいなんて───。

 でもダメね……。


「───だって、取り逃がしちゃったもの」


 ぷぅ、と頬を膨らませるエミリア。

 焼夷弾は使い切ってしまった。


 自衛火器の、12.7mm重機関銃はまだまだ搭載弾薬に余裕があるが、さすがに運用に無理がある。


 さっきは少々無茶をして低空から銃撃してみたが、あれはサティラの生死を確認するためでもあった。


 簡単に死なれちゃあこまる。


 あの差別主義者は、自分のやった事を一つ一つ思い出しながら───くたばってもらわなければならない。


 そうとも…………。


 アイツは一族を殺した。

 笑いながら殺した。

 競いあって殺した。


 ただ、ダークエルフだという理由だけで。


 今も、思い出す。


 きゃぁぁああああ!

 ぎゃぁぁああああ!


 叫ぶ里の皆の絶叫と───。


 積み上げられた、ダークエルフの里の皆の頭と、体と、腕と、足と、指と、目玉と、腸とぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!


 あああああああああああああ!!!


 アイツは、笑いながら皆を殺していやがった……。

 アイツが、競い合うように殺していやがった……。

 アイツも、我先にと率先し殺していやがった……。


 そして、私の刺青を無茶苦茶に刺し潰し、致命傷を与えて与えて与えて……。


 日頃の鬱憤を晴らしやがった───。


 切られた骨───すごく痛かった。

 突かれた心臓───ものすごく痛かった。

 肺、腸、喉、頭───想像を絶する激痛だった。


 痛かった……。

 痛かった……。


 とても痛かった───。


 そして、

「───皆も痛かったよね……。苦しかったよね……。悔しいよね………………」


 ゴメンね。

 守ってあげられなくて……。


 ゴメンね。

 皆の声を聞くことができなくて……。


 ゴメンね。

 だけど、今日この日──────皆の恨みを少しでも晴らしてあげるから許して……!


 エミリアが体を抱きしめるのは、高空ゆえの寒さからだけではない。


 与圧の効いているB-29の中は思った以上に温かったが、それでも、乗員のようにジャケットを羽織らなければ凍えてしまうだろう。


 だが、エミリアは元々北の大地に住むダークエルフだ。


 寒さには強い──────。


 彼女が震えているのは、あの日の凄惨な現場を思い出し、死霊たちの声を脳裏に流しているからだ。


 でも、もう聞こえない、あの声───。


 だけど、思い出せる。聞こえる。


 そう、


 今も───!!!


 今も彼らは語りかける。

 呪い唱える。

 恨みつらみを吐き出し続ける!!


 応報せよ。

 応報せよ……。


 応報せよ───!!


「応報せよ──────!!」


 うん。

 うん、わかってるよ、皆…………。


「わかってる───」


 だから、容赦はしない。

 微塵の情けも与えはしない。

 慈悲など、クソ食らえだッ!


「───だから、私はエルフの森を焼く!」


 お前たちが、私達を根絶やしにしようとした───。


 ならば、甘んじて受けろ。

 だから、滅びを享受しろ。

 そして、泣いて伏して許しを乞え。




 ───だが、許さん!!




「さぁ、出でよ──────愛しきアメリカ軍よ!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。


 エミリアの呼び掛けに応じて、空中に『USゲート』が出現し、航空機格納庫のシャッターが開いていく。


 ゴォォオオオオオオオオオン

  グォォオオオオオオオオオン

   ギュォオオオオオオオオオン


 中から飛び出してきたのは、巨大な飛行機───!!


 銀色の機体。

 多数の銃塔と、数トンにのぼる爆弾を抱えた航空機!!


 そうとも、Bー29だ!!


 あまたの都市を焼き、山を焼き、森を焼く超空の要塞……エミリアが搭乗する同型機のB-29だ!!


 さぁ、おいきなさい───……。

 私の愛しいアメリカ軍よ。


 1機で足りなないなら、2機目を出そう。


 2機で足りないなら10機出そう。


 10で足りないなら───100機のB-29を出そう。


 100機でまだ不足だと言うなら3倍の300機のB-29を出そう。


 さぁさ、おいでなさい───私のアメリカ軍。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ──────。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ─────!!


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ────!!!


私は命令するアィ オーダー───」


 エミリアを中心に、無数のB-29が出現し、空を圧倒する。

 下から見上げるものからすれば、それは悪夢だろう。


 空が2割で、B-29が8割───……!


 もはや空などない。

 ここにあるのは、B-29が300機!!

 



 すぅ……。

「──────エルフのバーン ザ 森を焼けエルフ フォレスト




 そして、滅ぼせ。

 哀れなエルフどもを───!!




『『『『『任務ミッション 了解アンダスタンディング!!』』』』』

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