第4話「焼夷弾」
「なんだあれは!?」
「おい、若い衆はあつまれ!!」
ざわざわと騒がしくなる集落において、サティラは一人怪訝な顔をして空を仰いでいた。
(鳥?…………まさか、ハイエルフが使役するという、
世界で、唯一無二のハイエルフであるルギアは、世界中を不死鳥で飛び回れるという妙技を使う(彼女が遭難したのもその不死鳥が原因であるのだが───)。
稀にではあるが、帝都に彼女が不死鳥で乗り付けていたこともあり、サティラは不死鳥に見覚えがあった。
(そう…………)
あの鳥は、確かに───雪のような純白の羽をしていた。
だから、ちょっと違う。
それにあれは──────……。
「お、おい……! な、なんかこっちに来てないか?」
「そう言われてみれば…………来てるような───? いや、来る。来る、来るぅう!」
わーわーわー。
わーわーわー!
集落が段々と不安げな声に支配され始める。
なにせ、正体不明の鳥だ。
不気味な鳴き声を上げ、空を圧しているのだ。
その偉容を、無視しろという方が無理というもの。
だが、
「狼狽えるなッ!! 我らが故郷───大森林の精霊が守って下さる。無用な心配よりも、すぐに里の防備を固めよッ!」
そうだ。
デカイ鳥なんぞの些事に関わっている場合ではない。
それよりも、今は…………。
グオォォオオオオォォォォオオオオオオオオオオオオン!!!!
「ひぃぃい!!」
「ま、真上にきた!!」
「で、デカイ!! ま、まるで───」
───ドラゴン!!!
誰かがそう叫んだ時、ついにそれは始まった───…………。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!
銀色のドラゴンは、腹に何かを抱えており、それを───。
ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる………………。
ばら撒いた。
※ ※
『
爆撃照準手が、真下を狙う水平爆撃用照準器でエルフの集落を確認している。
目いっぱいに広がる大森林にポツポツと小さな小屋掛けが見えたかと思うと木々が途切れた場所に大きな集落が飛び込んできた。
そして、景色が流れる様にゆっくりゆっくりと照準器のマーカーに近づいていく。
『
照準手の目に移るバッテンに、集落のど真ん中がピッタリと収まった───。
ここだ!!
『───
『
爆弾倉から、大量のE46集束焼夷弾が──────……ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるる───。
と、
エルフの集落に降り注ぐ……。
「あは♪ あはははははは!!」
あははははははははははは♪
───あはぁぁぁあ♡♡
見て見て!!
爆弾がいっぱいあるよー♪
爆弾がいっぱいあるよー。
爆弾がいっぱいあるよー♪
ひゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。
40発のE46集束焼夷弾が空で弾ける。
そして、E46集束焼夷弾に一発当たり38本のM69焼夷弾が内臓されており、それをばら撒くのだ!!
そして、1520本となったM69焼夷弾が制動用のリボンをパタパタとはためかせながら──────……!!
ひゅるるるるるるるるるるる……!
ひゅるるるるるるるるるるる……!
ひゅるるるるるるるるるるる……!
ズドン!!
ズドンズドンズドンズドン!!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!
エルフの森に突き刺さった───。
※ ※
「ぎゃああああああ!!! あ、あしが───!!」
「ああああああああああああああああああああああ!!」
「だ、だれか!! 家が家が────!!」
それは、本当に何の前触れもなかった。
いや、前触れはあったのか───。
だが、誰が想像しうるだろうか。
まさか、空から鉄の矢が降り注ぐなど───……!!
いや! それよりも、何だこの匂い!!
無数の鉄の矢は負傷者や非戦闘員を問わず無茶苦茶に貫き、家を串刺しにした。
だが、サティラはそれ以上に妙な胸騒ぎに襲われた。
そして、目の前で無造作に鉄の矢を引き抜こうとした若いエルフに注意を促そうと───。
ボンッ!!
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
そいつが……!
あの鉄の矢が突然火を噴きやがった!!
直撃を受けた若いエルフはたちまち黒焦げになり、それでもなお火が吹き続けるッ!
それだけではない!!
降り注いだ無数の鉄の矢の全てが火を噴いた!!
その数───1520本の鉄の矢から!!
ボン、ボン、ボン、ボンッボボボボボボボボボボボボボボボォォォン!!
ブシュウウウウウウウウウウ!!!!
ブシュウウウウウウウウウウ!!!!
と、凄まじく明るい火の玉がそこかしこに吹き出し全てを焼いていく。
「「「ぎゃぁあああああ!!!」」」
「うぎゃああああああああああ!!」
「に、逃げろ!! 逃げろ!!」
「あああああ! 俺の家がああああ!!」
たちま集落が、ゴウゴウとした炎に包まれていく。
───く! なんてこと!!
「お、落ち着きなさいッ! 火を消し止めるのよ───……くそ! 誰も聞いていないか。ならば、水の精霊よ!!」
サティラは長老の首を引っ掴んで右往左往している若い衆をまとめさせるのと同時に、被害を食い止めようと精霊魔法で消火を図る。
延焼を食い止めるより、まずはこの鉄の矢───!!
「───精霊よ……。この地に住まう精霊よ……我に力を、力を!………………って、何で消えない!!!」
おかしい!
おかしい!!
おかしい!!!
サティラの目の前には水の精霊が舞い踊り、ドンドン水を生み出している。
い、いるのに…………!
そう!!
水の精霊が顕現するほど強い力で水をかけ続けているのに、消えない。
消えない!!
消えないんだよぉぉおお!!
それどころか、水の上を滑るようにしてドンドン燃え広がるじゃぁないかッ?!
く、くそぉぉおおお!!!
「さ、サティラさま!! 火が、火が消えません!!」
「防火帯を作るしか───……!! このままでは森に燃え移りますッ!」
くそッ!!
一々報告にくるな!!
「───そう思ったなら、さっさとやれやぁぁああ!!」
普段の冷静な彼女とは思えない程の乱暴な口調に、長老たちがビクリと震える。
だけど、そんなことに構っていられない───。
だって、こいつが!
こいつが!!
こいつが、
「───消えないんだよぉぉぉぉおお!! さっさと消せ、クズ精霊がぁぁああ!!」
ぷしゅう………………。
「あ、……き、消えた──────私の勝」
サティラがささやかな勝利に心を踊らせたとき、そいつが来た。
空の上から来やがった!!
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン……!!
バタバタバタバタッと、木々が揺れるほどの物凄い風圧。
「な、何んなの─────って、デカッ!」
見上げれば、恐ろしく低空をあの巨大な鳥が飛んでいた。
上空50mほどだろうか?
いや、っていうか鳥、か───??
あ、あれが鳥………………?!
と、
「───鳥なものかよ、あれがぁぁあああああ!!」
銀色の……、
そう……銀のドラゴン───。
って、違う───!!!
違う違う違う、そうじゃない!!
それどころじゃない!!
そんなことよりもぉぉおおおお!!
「あ、あ、あ……。ああああああ!!!」
あ、アイツは!
アイツは!!!
ドラゴンの先端の昆虫の顔のようなところに、見覚えのある奴がぁぁあああああ!!
あああああああ、アイツっっ!
アイツはぁぁぁあああ!!
「───エミリア・ルイジアナぁぁぁぁぁあああああああ!!」
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