第17話「人造死霊術(前編)」


「ヒュゥ♪ あっと言う間に殲滅ですか───」


 パチパチパチと、乾いた拍手で白々しく笑うロベルト。


「───これがS級?……こんなものがアンタの隠し玉?」

 ……違うでしょ?


 そう言って、堂々とロベルトの前に立つエミリア。


「あっはっは! いやはや、大したものです。彼等とて、人類最強の一角ひとかどなのですよ。それをまぁ……。ふふらさすがは元魔族最強の戦士───エミリア・ルイジアナ」


 フルフルと芝居がかった仕草で、首をふるロベルト。


「あーら。ありがとう───アンタに褒められるなんて光栄だわ」

 

 じゃあ、


「そろそろ、死んでちょうだい。賢者ロベルトぉぉぉぉおおお!!」

「───大賢者・・・だ!! 言い間違えるな売女がぁぁぁああ!!!」


 突然激昂するロベルト。

 権勢に囚われた哀れな勇者パーティ──。


 奴が懐から伸縮式の魔法杖スタッフを取り出すと、シャキン!! と伸ばし構えて見せる。


 そして、魔法行使の構え──────!!




 ふ──────遅いッ!




 そのな物を待つほど、

「──────私は優しくないぞッ!!」


 チャキリ……!


 エミリアの持つコルトガバメント45口径自動拳銃が、ロベルトを射抜かんとする───。



 だが……。




 ──────ぞわっ!


「う!?」

(な、なに?! この感覚はッ!?)


 突如、エミリアを襲った悪寒───。

 彼女の五感が最大限の危機を伝え、思わず真横に飛び退る───!


 そこに、ブゥン!! と大剣が叩き込まれ、エミリアの過去位置を刺し貫いた。


「な、にぃぃ」


 こ、こいつは……?!


 エミリアに奇襲をかけた下手人は───。


「お前……! 何で生きてるの?!」


 全身穴だらけで、出血多量───そして、まちがいなく急所を撃ち抜いたはずのS級冒険者の戦士・・・・・・・・が立ち上がり、エミリアに立ち塞がった。


「ふふふふふふふ……。くははははははははははは!」


 突如笑い始めたロベルト───……こいつの仕業か!




「アンデッドマスターのエミリア! 私も、アナタの真似をさせてもらいましたよぉぉぉぉおお!!」


 見なさい。

 倒した敵が蘇る恐怖!


 ───そして、数の暴力を!!


 バッと両腕を広げて大袈裟に空を仰いで見せるロベルト。


 すると、倒したはずのS級冒険者どもが次々に起き上がり始めた。


 な?!

 ま、まさか───、

「し、死霊術……!?」


 ば……か、な!

 バカな!!


 もう、私の他に死霊術の使い手など──!


「言ったでしょう!───私は『大賢者』だと!!」


 ロベルトが凄惨な笑みを浮かべて、クルクルと舞い踊る。


「さぁ、さぁ♪ 起き上がりなさいッ!」


 私の愛しい死者たちよ──────!


 あははははは! と、歌うように唱え、笑うのはロベルト!!


 き、

「───貴様ぁぁぁぁあ!! 私の愛しい、死霊たちを愚弄するなぁぁぁああ!!」


 こんな奴が死霊術だと!!


 私の……!

 私だけの死霊術がこんな奴に!!


「うぁぁあ……、あうー……」


 ついには、今しがた倒したばかりの森エルフまでもが起き上がる。


 ダラダラと涎を垂らし、ドロリと濁った目のまま、脳漿を零しながら森エルフの弓使いが起き上がる。


 そして、エミリアに掴みかかる───。


 だが、

「───触れるな下郎ッ!!」


 パン、パン、パンパンパンパンパンッ!!


 剣とは別の手に握る銃を乱射し、撃ち倒す。


 しかし……!


「……く! 効いていないッ、だと?!」


 少しばかり、ヨロヨロとよろめきはしたものの、倒れることなく再び歩き出したエルフ。


 ならば!


「私の愛しい!アンデッド達よ────……ゴメン!!」


 ズバァァ!! と、大剣をもって頭から股間まで真っ二つに切り裂くと、エルフは二枚に開かれた状態でドシャリと潰れる。


 なるほど……死霊術とはかくも厄介なモノなのか───!

 自分にその脅威が向いて、初めてエミリアは自覚した。


 なるほど……。

 帝国が、エミリアを危険視したのも理解できる。


 だが!!

 ───よりにもよってこんな奴に?!


「ふふふふふふ! どうです! すごいでしょう、私の死霊術は! これで、これで! 私が人類最強。そして、お前を捕らえて解剖し、さらなる死霊術の深淵にたどり着いて見せようじゃないか!」


 ああーーーーーーー!!!


 欲しい!

「欲しい!!」


 ───欲しい!!!


「エミリア・ルイジアナ!! 唯一の死霊術の使い手だった女ぁぁぁあ!! 私はお前が欲しい!!」


 そして、お前の中を見たい!


 身体をバラバラにして、犯して数を増やして、それらをさらに解剖してぇぇぇええ!!


 わははははははははははは!!


「───私は不死身の神となる!!!」

「はッ?! おためごかしを!!」


 こんなものが死霊術だと!?

 こんなものが?!


「……お前の死霊術はタダのままごとだ!」


 ───アビスはどこだ?

 深淵を知りもしないで語るな!!


 冥府の門アビスゲートはどこにある!!


 死者の声など、どこにも聞こえないッ!!





「───カラクリは何だ、ロベルトぉぉぉおおお!!」

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