第9話「帝都攻防前哨戦(後編)」

「な、何が起こった!」


 竜騎兵たちの副長は、ようやく集合の終わった兵を引き連れ、本隊を形成していた。


 その数、帝都中からかき集めた竜騎兵のほぼすべて───。


 なんと、100余騎の精鋭達だった。


「わ、わかりませんが……! 見てください、アレを!!」


 若い竜騎兵に促されて視線を投げると、その方向では竜騎兵の先行50余騎が、何か鳥の様なものに追い回されている。


 深い青色をしたそれは、ともすれば海と混ざり見失いそうになる。


「青い───怪鳥ガルダだと!?」


 竜騎兵には劣るも、巨大な鳥を飼いならした航空部隊も存在する。


 どちらかというと、南方諸島群やエルフ達が森で多用することが多いと言うが、帝国の平地でも多少ないし使っている。


 だが、いずれにしても飛竜に敵うほどの脅威ではない───ないが……。


 本隊が見守る中、あっという間に兵長以下が空の滲みになった。

 ブチャァ……と、赤い血潮が撒き散らされていく。


「ば、ばかな!! 全滅! 全滅しただと?!」


 眼下で繰り広げられる空戦は、一方的かつあっという間に終了した。


 いや、空戦と言っていいのかどうか……。


 そうだ。

 あれは、ただの殲滅だ。


 ワナワナと震える手を握りしめた副長が、隷下の部隊に叫ぶ!


「くそ!! 全騎聞け!」


 よく通る大声で副長は言った。

 彼に取れる選択肢は二つ。


 退くか

 征くか


 だが、当然ながら───。


「……我々は退かない! 見ろ! 敵は高度を失った───今こそ絶好の機会であるッ」


 そうだ。

 空を飛ぶものなら、何をおいても同じこと───。


 下から上に上がると言うのは、多大な労力がかかる。

 いかに、飛竜を圧倒した怪鳥といえど、それは同じこと。


「───我らは一丸となって、敵を討つ! 続け、兵長の仇をとれぇぇえ!!」


「「「おう!!!」」」


 高所が有利。

 それは間違いない───。

 副長の読みは正しいだろう。


 だが、


「目標!! 奥の4つの城だ!! 全騎一斉に攻撃開始」


「「「おう!!」」」



 そう。間違ってはいない───。

 だが、間違いだ。



 海上の4隻のノースカロライナ級が無防備に見えるのだろうか?

 ただただ、火を噴き───肩を寄せ合う烏合の衆に見えるのだろうか?


「突撃ぃぃいいい!!!!」


 副長は竜騎兵を引き連れ、ノースカロライナ級に一斉に襲い掛かった。


 上空からの急降下。


 そして、ドラゴンブレス───……。



 襲い掛かった?


 誰が何に?


 竜騎兵が4万トン級戦艦・・・・・・・に?




 逆だろう!!!!!!




 クゥィィィイイン……。


 ノースカロライナの備える高角砲と機銃群が、一斉に空を指向する。

 4隻合わせて、数百にのぼる対空砲が整然とした動きで飛竜たちを見上げていた。


 今か今かと時を待ち、

 ───連装5インチ高角砲が涎を垂らす。


 さぁ来いさぁ来いと手をこまねき、

 ───1.1インチ75口径機関砲が満面の笑みを浮かべる。


 やぁやぁヨロシクと、

 ───ブローニングM2、12.7mm機関銃が余裕綽々と手を差し伸べる。


 高性能の対空照準器は、とっくに彼らを捉えている。


 あとは待つだけ──────滅びの時を!


 そして、


「者ども───かか」

 れぇぇえ!! と言おうとしたときだ。



 ドォォォーーーォオオン……!



 あの副長が吹っ飛んだ。

 何の前触れもなく、一瞬で空に消えた。


 ちょっとした黒煙を残して────……。


「え?」

「あ?」

「ちょ……?!」


 出鼻をくじかれ、唖然とする竜騎兵100余騎───。


 次の瞬間。

 海上に火山が生まれた。


 比喩表現としてそれとしか言いようがない。


 ノースカロライナ級4隻。

 数百門の対空砲が一斉に砲撃を開始したのだ。



 ズズン!!

 ドガガガガガガガガガガン!!


 空に真っ黒な爆炎が花咲き───……。

 竜騎兵たちを押し包んだ。


 そして、あっという間に、間抜けで鈍い飛竜部隊は消滅した……。

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