第9話「帝都攻防前哨戦(中編)」


 一方、竜騎兵部隊では、



 ぎぃぃぇぇえええええええん!!



 竜騎兵たちの駆る飛竜が大声で鳴く。

 仲間たちの危急を伝えているのだ。


「……全くなんてことだ!!」


 事態に気付いた竜騎兵長は愛竜の首を海岸に向けると、盛んに軍団旗を振る。


 《集合》《緊急》の二つの信号だ。


 ほどなくして、全ての竜騎兵が集まるだろうが、空中集合にはいましばらく時間がかかる。

 その間に偵察を済ませておこうと、再び海岸───そして、眼下の帝都を見下ろした。


 海上には巨大な鉄の城が浮いており、何度も何度も火を噴き空を圧倒する大音響を立てている。


 耳にビリビリ響くこの感じは、何かが発射されているのだと言う事だけは分かる。


 だが、それがよく見えない。


 投石器の類なら、空を飛ぶ岩石が見えそうなものだがその姿は見えない。


 それでもわかるのだ───長らく空を仕事場にしている竜騎兵長は、空気にも音と質があることをよく知っている。


 その感覚を肌で感じるのだが、その感覚をもってして、確かに何かが発射されていると───「あッ!」


 一瞬だけだが、何か見えた!


 何か円錐形の巨大な塊が、目の前をものすごいスピードで航過していったのを……。


「な、なんだあれは───?!」


 竜騎兵長がその弾道を追うように眼下を見下ろすと、街が……帝都が燃えている。

 ゴウゴウと火を噴き、あちこち延焼しながら今も盛んに燃え広がっている。


「わ、我が帝都が!!」


 そして、それを助長するように、航過していった塊・・・・・・・・が地面に落下し──────ドカーーーーーーーン!! と派手に爆発した。


「な、なんてことを!?」


 なんてことを!!

 なんてことをぉぉぉおおお!!


 あの下に、いったい何人暮らしていると思っている!?


 銃後の非戦闘員が大半なんだぞ?!

 なんの罪もない女子供ばかりなんだぞ?!


「ひ、人でなしめが!!」


 戦える男達は根こそぎ動員され、帝都正面に布陣していた。

 そのため、帝都には女子供が大半だ。多少は男達もいるが非戦闘員ばかりである。


「なんて、卑劣なことを……! くそッ、くそぉおお!! まだか?! まだ集合は終わらんのか!!」


 近づいてきた僚騎に近づき大声で怒鳴る。

 そうでもしないと、上空では声がかき消されるのだ。


「今しばらく! 今しばらくです!」


 帝都中で大発生している轟音が、竜騎兵の伝達阻害のそれに拍車をかける。


「───兵長! もう少しです。全騎兵がともに信号を確認……───集結中です!!」

「ええい、遅いッ!! 50騎程つれていく───おまえは副長に連絡をとり、後続の指揮をさせろ、いいな!」


「はっ!!」


 敬礼を受け、竜騎兵はいち早く集合の終わった竜騎兵を引き連れ攻撃に移る。

 あの海の城を何とかして止めないと帝都が焼け落ちてしまう───。


「全騎我に続けッ!!」


「「「おう!!」」」


 頼もしい気配を背中に感じつつ、竜騎兵長は愛竜の速度を上げていく。


 ゴウ!! と空気を斬る音を感じながら、一直線に海の城を攻撃せんと一塊になる50余騎の飛竜部隊!


「行くぞ! 目標───先頭の海の城だ!」


「「「了解!!」」」


 竜騎兵長を先頭に、一つの槍のように三角錐型の戦闘隊形ととり襲い掛かる竜騎兵。


 見よ! この見事なまでの連携───そして練度を!!


「───帝都を焼いた罪は重いぞッ! 知れ、身の程を!!」


 グゥゥオオオオオオオオン!!!


 聞いたこともないような空気を切る音が頼もしい、我々竜騎兵の突撃の音だろう。

 さぁ、帝都を焼いたように、お前たちも焼き殺してやる───!!


 グゥゥゥォオオオオオオオオン───!!


 竜騎兵長はぐんぐん速度を上げ急降下しつつ、白波を蹴立てて驀進する巨大な海の城に突撃する。


 そして、見た──────。


 城の先端に立つ黒いマントの少女の姿を!


「あれは───まさか、魔族なのか?!」


 そうか……!

 これが噂の、魔族の残党どもか!!


 そして、アイツがそうなのか?!


 魔族最強の戦士───、

「エミリア・ルイジアナぁぁああ!?」


 竜騎兵長の目に映る魔族の少女が、ニヤリと口の端を歪めたのが良く見えた。


 不敵なその笑み───そして、美しさ!


 魔族め……!! 舐めやがってぇぇえ!


 ───グォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


「なるほど……! あれが死霊術。道理で見たこともない敵がいるわけだ───だが、断じて許せん、」


 総員、

 突撃ぃぃぃいい──────!!


 グォオオオオオオオオオオオオオオン!!


「───竜の炎ドラゴンブレス用意……ってさっきからうるせぇな!! なんだこ」


「「「へ、兵長ぉぉおおおお!!」」」


 僚騎達の絶叫。


「なん、だ?! やかま」


 頭上を圧する音に、思わず空を見上げると──────……!!



 な、なんだあれは───!!



 頭上の太陽の中に何かいる。

 多数の何か──────……!!


「バカな! わ、我らよりも高く飛ぶものなど……」


 それが竜騎兵長の最後の言葉になった。

 彼の目に移ったのは太陽を背に負った、深い青色をした鳥の様なもの───F6F艦上戦闘機ヘルキャットの姿だった。

 

 そして、ソイツが火を吹いた!!

 噴きやがったのだ!!



 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!



 まるで火山の爆発の様に、凶悪な光の火箭が6条も伸び竜騎兵長の姿に食らいつく。

 それはヘルキャット戦闘機の機銃、12.7mm機関砲の咆哮だ!!


 この艦上戦闘機は、重機関銃の部類になるM2ブローニングを元に開発された航空機関砲をなんと6門も搭載し、前方に集中配備している。


 その火力たるや!!


「へぶぁ?!」



 ぐしゃぁぁっぁあああ!!


 

 あっという間に竜騎兵長を血の染みに変えると、その下の飛竜すらズタズタに引き裂く。


「うわぁ!!」

「兵長ぉぉおお!!」

「な、何が起こった!?」


 一瞬で隊長騎を失った竜騎兵達はパニックを起こしそうになるも、そこは流石に手練れの精鋭たち。


 すぐに秩序を取り戻し、先頭騎を次級者に引き継ぐと、竜騎兵長の意志を引き継ぎ突撃を再開した。


 だが、彼らは分かっていない。


 竜騎兵長は、不幸な事故で死んだわけではない。

 それはそれは明確な敵意をもって、喉元を食い破られたのだ。


 すなわち──────。


「お、おいッ、待て!!」

「馬鹿野郎! 兵長の仇を───」


 勘のいい兵は気付いたようだがもう遅い。

 いや、気付いたところで何ができようか……!


 竜騎兵50余騎は、とっくに捕捉されているのだ。


 空母ヨークタウン級から発進した艦載機。

 地獄の猫──────グラマン社製の艦上戦闘機F6Fヘルキャット20数機に!!


 グウォオオオオオオオオオオオン!

 グゥオオオオオオオオオオオオン!!


 グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!


「な、なんだこいつら!!」

「は、はやい!!」


 2000馬力エンジンが、数トンもの機体を強引に加速させ、竜騎兵たちに一斉に襲い掛かる。



 ズドドドドドドドドドドドドドドドド!!

 ズドドドドドドドドドドドドドドドドン!


 そして、空を埋め尽くす12.7mm機関砲の炎の嵐が!!


「うぎゃあああ!!」

「ひ、ひぃいいい!!」

「逃げろぉォおお!!」


 たちまち竜騎兵たちは大混乱──────そして、次々に空に血袋をぶちまけた様になり飛散する。

 その姿たるや、飛散し悲惨だ!!


「た、助けてくれ──────!!」


 散り散りになり、海上を低空飛行で逃げ惑う竜騎兵。だが、その時彼らは聞いた──。


 美しい旋律で歌うな少女の声を……。


《逃げられると思うの───? 逃がしはしないわ……。皆、等しく死になさい》


 ただの一兵たりとも、等しく悲惨に……。


 そう、お前たちはただ、ただ。



 だだ、

「───飛散せよッ!!!」


 悲惨せよ! 飛散せよ!!


 旋回し急降下しそれぞれの獲物の背後を取ったヘルキャット───。


 その視線に怯える竜騎兵たちは、あっという間にその火箭に囚われ今度こそ全滅した。

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