第9話「帝都攻防前哨戦(前編)」

 エミリアは座礁した戦艦の上に腕を組んだまま仁王立ち、眼下で行われる海兵隊の動きを注視していた。


 魔族最強と言われた彼女の目から見ても、彼らの動きの優秀なことといったら、このうえない。


 丁寧に、素早く、正確に!


 何一つ見落とさないとばかりに、帝都へと占領地を広げていく。


 さらに、砂浜に広がった後続部隊は続々と集結し、装備品を揚陸していく。


 対戦車砲に、軽榴弾砲。

 迫撃砲に、対空砲───とあらゆる火器が運ばれ仮設陣地の中に引き込まれていく。


 水陸両用車は搭載火器を振り回しながら帝都の残骸をバリバリと踏み割りながら奥へ奥へと!


 遅れて上陸した軽戦車もその後を追う。


 装甲車両の進撃に合わせて、海兵隊員も銃を油断なく廃墟の街に向けて前へ前へ。


 既に艦砲射撃は遠のいていた。


 味方の上に落とす程、海軍はバカじゃあない。


 ほとんどが無血上陸。


 今のところ抵抗らしい抵抗はないが──。


「来たか……」


 エミリアの目がキラリと輝く。

 彼女の優れた五感が!いち早く敵の存在に気付いた。


 こんなに早く動ける敵は───……。


「あれは、飛竜ワイバーンかしら?」

 

 空を圧する様な巨大な黒影───……なんと、帝国軍は飛竜を操れるのか!


 エミリアも噂では聞いていた。

 帝国の最速最強の部隊、ドラゴンライダーズのことは。

 だが、魔族領での戦いでは見かけなかったので、何らかの運用上の制約があるのだろうが……。

 

「ふふ。面白いじゃない───」


 私のアメリカ軍と、ドラゴンの亜種。


「───尋常に勝負だッッ!!」



 征けッッ!!

 我が空母艦載機よッ!!


 ───敵を叩き落とせッッ。



了解ッッコピー!!』


 連絡員が頷き、すぐさま空母が動き出す。


 連絡などしなくてもエミリアとアメリカ軍は繋がっているので、すぐに動けるだろう。

 彼らが無線でやり取りするのは、そういう組織構造だから。

 そこをエミリアはとやかく言うつもりはなかった。


 艦首を風上に向けたヨークタウン級空母の甲板で待機していたF6F艦上戦闘機ヘルキャットが頼もしいエンジン音を立て、発進位置につく。


発艦準備レディ フォ よし「ランチ───|3、2、1《スリー ツー ワン……発艦コンタック!』


了解ッッッコンタァァァック!!』


 ドドドドドド…………ウォォォオオン!!


 するすると滑るように飛行甲板を走り抜けると、甲板の切れ目で一度海に落ちそうになるもすぐに大馬力エンジンで機体を浮かび上がらせる。


 そのまま馬力にものを言わせてグングン高度を上げていく。


 飛竜部隊のど真ん中をぶち抜くのだ!!


 グゥオオオオン!

 クゥオオオオン!


 更にさらにと、空母から戦闘機が発艦していき。

 そして、お次はと順次艦内のエレベーターから艦上攻撃機、艦上爆撃機とドンドン甲板に並べられていく。


 大型爆弾を懸架したTBF艦上攻撃機アヴェンジャーは上空で仲間を待ち、

 急降下爆撃可能なSBD艦上爆撃機ドーントレスは翼をつらねて海兵隊の付近を旋回し、近接航空支援に備える。



 ふふふふふふふふふふ。



 ドラゴン……。

 ドラゴン……。


 ドラゴンよ──────。


 帝国に飼いならされた哀れな魔物……。


 今日! この日、この瞬間、

「───空の王者は誰か、その身をもって知るといいッ!!」


 あははははははははははははははははは!


 高笑いするエミリアは、マントだけを羽織って戦艦上から跳躍する。


 海兵隊のあとをお追うように、丁度眼前を走り過ぎた水陸両用車LVTの真上にスタンと降り立つと、ニコリとほほ笑む。


さぁレディ行きましょうかフォ ジェントルメン

『『『ハッ、閣下イエス マム!!』』』



 バタバタとマントをはためかせ、裸体を少しばかり見せながらエミリアが帝都に上陸する───。


 史上初、帝都に進撃した魔族……。


 そして、おそらく最初で最後の出来事だろう───。




 なぜなら、本日をもって帝都は終了するからだ!


 なぜなら!!


 なぜなら、

「───この、私が来たのだ!! 突貫、吶喊、特観ッッ!!───人間どもよ、特と観よ!!」



 これが魔族だ!!


 これが米軍アメリカ軍だ!!


 これが復讐歓喜だぁぁっぁぁああ!!



 すぅぅぅ……。

「───突撃ぃぃぃいいいチャァァァァアジ!!」



 ウーラー!!


『ウーラー!!!』

『ウーラー!!!』

『ウーラー!!!』


『『『『ウーーーーラーーーーー!』』』』

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