第6話「その名はア───」
ルーーーーギーーーアーーーーーーー!!
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
殺す、殺す、殺す!!
ぶっ殺してやるッッ!!
あーそうだ!
殺す。
殺していい。
殺さなければならない!!!
私にはお前を殺す理由が百とある。
私にはお前を殺していい意地が千とある。
私にはお前を殺さなければならない真実が万とある!!!!
───お前をぶっ殺す!!!
ああああああああああああああ!!!!
「ルギアぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」
裏切り者、裏切り者、裏切り者!!
あの、裏切り者めぇぇぇぇぇぇええええ!
慟哭するエミリア。
全ての理不尽が彼女を押しつぶそうとする。
だが、砕けない。
折れない──────。
折れてなるものか!!
「折れるのは、お前の首だぁぁぁぁああ!」
恩人であり、義理とはいえ両親であったはずのエミリアの父と母を簡単に縊り殺したルギア。
そして、勇者に与してエミリアの誇りである死霊術を汚し、潰したあのクソ女───!
「ぶッッッッッッッ殺してやる!!」
叫ぶエミリア。
だが、事態はそう簡単ではない───。
なんたって……、
「お、おい!!」
「なんだ、悲鳴がしたぞ──────! うお!?」
城から続々と集まりだした帝国兵。
彼らは勤務中であり、全員武装している。
当然、すぐに事態に気付いてエミリアを包囲した。
「こいつ───!」
「まて、迂闊に近づくな───! 弓兵を呼べッ!!」
そして、指揮官がいれば軍は強い。
優秀な指揮官がいれば、なお強い。
間の悪いことに、ここにいる指揮官は優秀らしい。
迂闊に近づくことをせず、
あとは弓兵で遠間からエミリアを射殺そうと言うのだろう。
「失せろッ!! お前らから血祭りにしてやろうか!」
そうとも……。
こいつ等も、等しく同罪だ!
何が帝国だ。
何が人間だ!
お前らの都合のために私達が死ななければならない道理などあるか─────アグっ!
威嚇するエミリアの肩に矢が突き刺さる。
見れば、盾の向こう側に弓を構えた兵がどんどん集まってきた。
クソ!!
「射てッ!! 足を狙え───殺さなければどこを打ってもいい!! 射てぇぇええ!」
バィン!
ババババババン!!
弦を叩く音が連続し、矢がビュンビュンとエミリア目掛けて降り注ぐ。
何本かを叩き落とし、数本を死体で防ぐも──────。
「あぅ!?」
ズキンと痛みを感じたかと思えば、矢が足に何本も命中する。
思わず膝をつき倒れるエミリア。
くそ──────! こんな所で……。
こんな所で──────!!!
「いいぞ! 多少傷つけても構わん、ひっ捕らえろッ!!」
ワッ! と、盾の人垣が割れ、兵士が一斉に群がる。
斬り殺さないためだろうか、鞘付きのまま剣を振り上げエミリアに振り下ろす!!
「あぁッ!」
成人男性の力で強かに叩かれ、地面に潰される。
足に力が入らず、腕だけで体を起こそうとすれば腕を突かれる。
「ぐぅ!!」
抵抗する間もなく、次々に殴打を浴び身動きができなくなったエミリア。
その様子を見て、嵩にかかって打ち据える帝国軍。
「おらおら!!」
「ざっけんなよ、薄汚いダークエルフが!」
「オメェは黙って玩具になってりゃいいんだよ!!」
おらぁぁぁぁあああ!!
ガツンッ……!!
手痛い一撃を頭部に受けクラリと視界が明滅する。
(ぐぅ……。ダメだ。意識を……手放すな───)
今ここで意識を手放せば二度と反撃の機会は訪れないだろう。
絶望したエミリアが無抵抗であったから、こうして無防備に城の隅に放置されていたが、一度でも抵抗の意志ありと見れば今度は拘束される。
鎖に繋がれ、牢に入れられ、死ぬまで甚振られ続ける───。
そしてその間に、勇者とルギアは結ばれて、二人は永遠の愛を──────……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
ふざけんなッ!!
ふざけんなッ!!!!
「ぶっざけんなぁぁぁぁああ!!」
ガシッ!!
うずくまるエミリアを見て、油断した帝国兵が大振りなスイングを掛けてきたが、そこをエミリアが掴み取る。
シュラン───!
惜しげもなく裸体をさらして、剣を引き抜くと瞬く間に数名を切り伏せた。
「ぎゃあああああ!!」
「くそ! 剣を奪われたぞ」
更には盾を奪い、シールドバッシュと組み合わせて周囲の兵を薙ぎ倒す。
「ぐ!」
だが、激しい動きで足の矢が傷口を押し広げる。
(長くは……無理か)
ドクドクと溢れる血───。
それが、無くなればエミリアの抵抗は終わりだ。
丁寧に治療され──────仕返しとして、これまで以上に弄ばれることだろう。
「退けッ!───槍で突けッ! 足の一本くらい落としても構わんッ」
指揮官も必死だ。
平定したあとの占領地で戦死者を出すなど無能の誹りを受ける事、間違いなしだ。
その上で、当分は生かしておけと厳命されているエミリアを殺してしまってはどんな処罰を受けるか……。
ザザザザ!
剣兵が退き、槍兵が前へ。
ガン!! ガンガン!!
繰り出される一撃をエミリアは盾で受け止め、剣で払う───。
だが、
ドス──────!!
「ぐぁぁぁあああああああ!!」
背後に回り込んで兵の一撃を膝裏に受け崩れ落ちる。
「剣を奪え! 縄を持ってこい!! 拘束しろぉぉおお!!」
槍で突くのではなく、振り下ろしでエミリアをブチのめす兵ども。
必死で奪われまいと、剣を手放してでも盾で体を守る。
四肢を縮こめ、頭を隠し、背中を盾で守る──────……!
ガン!! ガンガンガンガン!!
くそ!
このままでは──────!!
いくら魔族最強とは言え、エミリアは小柄な女性だ。
膂力に優れようとも、成人男性の体格で攻撃されれば、いずれ息絶える。
彼女を強者たらんとしていたのは死霊術。
エミリアの愛してやまない、愛しいアンデッドがあればこそだ。
くそ!!
クソッ!!!
アンデッド───。
私の愛しき死霊たちよ!!
もう一度……。
もう一度私に力をッッ!!
その声を聞かせて──────!!!
お願い、聞かせてッ!
もう一度助けてッッ!!
アンデッド!!!
私のアンデッド!!!
アンデッドぉぉぉぉおおおおお!!
「うわあああああああああああああああ!」
死霊の声……。
生まれた時から聞こえていた、彼らの声───。
悲しく、静かで、冷たく、──────優しい彼らの声……。
私の愛しいアンデッド────────。
(お願い。お願いよ! 助けて、力を貸して───……もう、一度!!)
貸して……。
力を貸して───……。
───力を貸してよぉぉぉおおお!!
たかだか、死霊術の刺青を傷つけたことで、もうアンデットを喚べないの?
私の愛しいアンデッド────!!
もう一度……!
もう一度だけ力を───!!
そのためなら、なんでもあげる。
私の身体、血、肉、誇り───。
そして、魂もッッッ!!!
ねぇ!
冥府の先から聞いているんでしょッッ?
あげる。
私をあげる!!
私の魂を持っていけッッ!!
持っていきなさいよ!
悪魔よ!
冥府よ!
アビスよ!
アビぃぃぃぃぃぃいいス!!
持っていけ……!
持っていけッ!!
今ここで、コイツ等を皆殺しにできるなら、私の魂なんてくれてやるッッ!!
コイツらを殺すッッ。
私はそのためだけに全てを尽くそう!!
だから、私の魂を喰らえッ!!
皆の無念を晴らすために──くれてやる。
私の魂をくれてやる!!
だから、寄越せ──!!
そして、
知れッッッ!!
私の思いをッッッッッッ!!
来なさい……死霊たちッ。
私のアンデット!!
「うわぁぁぁぁぁぁああああ!!」
どんな時でもエミリアに寄り添っていた死霊たち。
戦場を駆け、最後の最後までエミリアに味方をしてくれた優しいアンデッド……。
彼らの声がもう二度と聞こえない?
そんな理不尽あってたまるか!!
来て……。
聞いて……。
感じて───!!
私の
「ちぃ! しぶとい!」
「いい加減諦めろッ! テメェは大人しく俺らの玩具になってりゃいいんだよ!」
「薄汚い、ダークエルフがぁぁぁあ!」
嘲罵する帝国兵の容赦ない打撃を受けつつも、エミリアは望む。
死霊よ来いッ、と───!
アビスゲートをもう一度と───!!
エミリアは心臓に指を差し入れ、魂を昇華していく。
ドクドクと溢れる鮮血にも関わらず、魂を魔力に……魔力を死霊術の刺青に───!
ジクジクとジワジワと浸透していく魂と魔力。
勇者の戯れで残された『ア&%$#』の刺青のうち、唯一のこった『ア』の文字が光輝き熱を持つ……。
哀れにも、裸体を晒すエミリアの死霊術が僅かに光っていた。
彼女にはそれが見えないが、微かに鼓膜を打つ
───聞こえる!?
帝国兵の容赦ない攻撃を受けつつ、エミリアを侮辱する『ァホ』の入れ墨。
汚れ切り、男達とエミリアの体液でドロドロになり、すでに余分なインクは落ちているだろう。
焼かれ、奪われ、切り刻まれ、引き裂かれた死霊術の入れ墨───『ア&%$#』…………。
古の言葉で不死者をあらわす『アンデッド』のなれの果て。
だけど、アンデッドは現れない。
エミリアには聞こえない───。
彼女には感じることができない。
「───腕だ! そして、足! いっそ四肢を落としてくれる」
「ハッ! おい、誰か斧を持ってこい!」
剣で指し貫かれるエミリアの足。
「ぁぁぁあああああああ!!」
貫かれる激痛にエミリアが声をあげて叫ぶ。
もう、ダメだ───……。
コイツ等に、
こんな奴らに……!!
クズどもにぃぃぃいいい!!
最後の力を振り絞り、死霊術に魔力を送り込むエミリア。
激痛と激情のなか、ありったけの魔力を送り込む───!
だけど、聞こえない───届かない!!
アンデッドは起き上がらないッッッ!!
嫌だ!!!!!!!
嫌だ、嫌だ、いやだ!!!
嫌だぁぁぁああああ!!!
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
魂を削り、残ったそれすら捧げる。
もう、いらない──────魂の欠片なんていらない!!
禁忌をおかし、死霊術の禁じ手を使う。
もう価値はないと知りつつも、魂を自食するように昇華させる。
その全ての魂を死霊術に捧げる。
そして、
じわりと輝いている『ア&%$#』。
エミリアには見えずとも、盾によって守られたそれは、かつての如く光り輝き……冥府へと──────!
持っていけ……。
連れていけ……!
私だ!!
───私こそが
だから、
来いッッ!
もどってこい!!
アンデッド……。
アンデッド───!!
「アぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあンデッドぉぉぉっぉぉおおおおおおお!!!」
ブワッ──────!!!
エミリアの叫びが周囲を圧倒した時、それは起こった。
出血と激痛の中、薄れゆく意識の先───確かに聞こえた。
エミリアの捧げた魂がしみ込み、死霊術の刺青が魔力を受け入れた確かな感触。
『ア&%$#』
───ア&%$#。
かつて戦場と月夜に輝いていた時と変わらず、あの美しい刺青が再び輝くッ!
霞んでいく視界と、薄れゆく意識の中、あの優しく頼もしい
幻じゃない。夢でもない。虚ろでもない!
来た!
あああああ、来たッッ!
やっぱり来てくれた!
門扉が現れ、続々と現れる彼らを霞む視界にとらえたエミリア。
あぁ、私の愛しい死霊たち……。
よくぞ、
よくぞ来てくれた……。
さぁ、行こう。
ともに、冥府の先へと逝こう─────。
ただし…………。
「……ぉ前たちを、道連れにしてなぁぁぁああ──────!!」
そりゃあ、そうだ。
「逝くぞ!! 私の愛しき、ア─────」
彼女の呼びだしたのは、アンデッドでは─────────なく?
ボロボロの、青い帽子と服を着た男達だった……。
え?
は?
「あ、あなた──達は?」
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