第7話「アメリカ軍召喚」
男達は小汚い恰好だった。
唖然とするエミリアと帝国軍の前に、突如として現れた青い服の男たち。
まるでアンデッドの召喚の如く、本当に突然の出来事だ。
ポカンとするエミリアは呟く。
「ど、どち──ら様?」
だが、彼らは答えない。
意思の強そうな目をして、ただ控えるのみ。
エミリアに寄り添うように立ち───何かを待っている。
「な、なんだ、こいつら!」
「きゅ、急に出てきたぞ!!」
同様する帝国軍とて完全に無視。
ヨレヨレ帽子を被った十数名の男達と、大量の
さらには、軍馬と細長い剣を携えた青年がおり、彼だけは鉛筆の様にスラ───と立っている。
他の男たちは一様に青い服を纏い、腰にベルト。
そして、ベルトには妙な鉄の塊をぶら下げており、体に沿って控える手には木と鉄の混合した杖の様なものを持っていた───。
えっと……。
「ど、どちら様……ですか?」
(───ど、どうみてもアンデッドじゃないわよね?)
ぽかーんとした、エミリアと帝国軍。
当然誰も彼も答えられるはずもなし……。
問われた彼らは、ピシッと背筋を伸ばして立ち黙して語らず。
ガッシリとした体格はどうみてもアンデッドではない生者のそれ。
こ、
これは、まさか───。
彼らは、死霊術で呼びだした霊魂のようにボンヤリと青白く輝き、棚引く白い光を纏っていた───。
そして、
彼らの背後に、あるのは───
アビスゲートとは少し違うようだが、紛れもなく当初そこにはなかった───
つまり───!!
そのとき、ブゥン! と、空気の震える音がした。
それは見慣れた、死霊術のステータス画面だった。
アンデッドを呼び出した際に現れるそれであり、エミリアの前に文字を連ねる。
やっぱり───こ、これは…………!
やはり、死霊術のステータス画面。
ならば、彼らは死霊術の産物で、エミリアの愛しい
あぁ……。
……来てくれた。
来てくれたんだ!!
やっぱり冥府の奥から来てくれた───!
アンデッド。
アンデッド……!
アンデッド!!!
私の──────愛しい、アンデッド!!
エミリアの愛しい死霊たち。
あぁ───やっぱり、来てくれたんだ!!
「ア────────────」
アメリカ軍
Lv0:合衆国陸軍(南北戦争型:1864)
スキル:歩兵(
砲兵(
騎兵(
工兵(
備 考:南北戦争で活躍した北軍部隊。
軍の急速な拡大にあわせて、
輸入品や鹵獲品を活用している。
制服の色は青。
染料が安く入ったからとの説あり。
南軍からみて、「ヤンキー」とは
彼らを刺す蔑称───。
※ ※ ※:アメリカ軍
Lv0→合衆国陸軍(南北戦争型:1864)
→合衆国海軍(南北戦争型:1864)
(次)
Lv1→欧州派遣軍(第一次大戦型:1918)
大西洋艦隊(第一次大戦型:1918)
Lv2→????????
Lv3→????????
Lv4→????????
Lv5→????????
Lv6→????????
Lv7→????????
Lv完→????????
……………………は?
あ、
「…………アメリカ軍??」
『
指揮官然とした一人の青服の男が一歩進み出て手を前に翳して見せる。
と、同時に───。
ガガガガン!! 背後の男達は靴を鳴らして直立不動。
は?
え?
「はぁ?」
いや、
誰やねん?!
エミリアも帝国軍も唖然とするのみ。
アビスゲートからスケルトンが出てきても動じない帝国軍であっても、さすがに生身の人間が出てくれば驚く。
彼らの背後には木製の
っていうか──────『アメリカ軍』
『アンデッド』じゃなくて???
…………………………えええええええ?!
エミリアには見えないだろうが、彼女の背中の死霊術の入れ墨はボンヤリと光っていた。
──────『ア&%$#』。
『アンデッド』ではなく、『アメリカ軍』として──────。
燦然と輝く死霊術の刺青に刻まれた文字。
勇者パーティに切り刻まれ、ボロボロになったそこに、特殊インクが流れ込み文字が変化したらしい。
『ア』しか読めない『ア&%$#』がぐちゃぐちゃにされたせいで『アメリカ軍』に?
そんな例は聞いたこともない。
もちろん、エミリアには背中の刺青が見えていないので分からない。
きっと、彼女がそれを確認できるのは、この場を切り抜けた場合のみ。
それが果たしてできるのか──────。
愛しき
『ア&%$#』は『アメリカ軍』に!!
それは果たして、吉と出るのか凶と出るのか!!
悲しく、
寂しく、
静かで、
孤独な優しいアンデッド。
それがどうだ。
今はアメリカ軍。
下品で、
喧しく、
猛々しいアメリカ軍!!
もう、全ッッ然違う───!!
敢えて言うなら真逆の存在。
アンデッドをむしろバンバン薙ぎ倒しそうな連中───それがアメリカ軍だ!!
「──────いや、アメリカ軍って……」
……何?!
血だらけで満身創痍なエミリアが呟くも、そんな答えは誰も持ち合わせてはいない。
いや、アメリカ軍ならば知っている──。
この青い軍服の男達なら知っている!
『
命令?
命令ですって……?!
『
『
『
命令していいの?
貴方達を頼っていいの?
アンデッドの様に私を守ってくれる?
アメリカ軍よ───……。
『『『
いいの?
言っていいの?!
ねぇ、
愛しき───アメリカ軍。
いいのね?!
なら……。
───……してよ。
───ろして……。
殺して……!!
「───アイツらを殺してぇぇぇええ!!」
『
エミリアは叫ぶ。
力の限り叫ぶ。
だからアメリカ軍は応えた!!
ああああ、答えてくれた!!
『『『
彼女の拠り所。
そして、誇りであり、死者との最後の繋がりの死霊術───。
エミリアに残った、最初で最後の宝物!!
その死霊術の欠片すら変質してしまった。
もう、エミリアには何もない!!!
優しい家族も、
敬愛する人々も、
寄るべき魔族達も、
帰るべきダークエルフの里も、
勇者シュウジへの妄執染みた愛ですら、もうない!!
何もない!!!
何もない!!!
何 も な い!!
だけど!!!!!
だけど、アメリカ軍が来た。
アメリカ軍が、自分の言葉を寄越せと言ってきた!
───
「──
『
「な、なんだこいつら!」
「ゆ、油断するな───死霊の類かもしれん!」
「一旦退けぇぇッ。総員、全周防御ッ!! 盾を全面に出せ」
帝国軍は素早く動く。
正体不明の敵にいきなり斬りかからないだけの分別はあるようだ。
だが、それが命取りだった───。
「
エミリアは真っ直ぐに立つ。
アメリカ軍らの目を見て立つ。
血が流れようと、激痛が走ろうと、裸体を晒そうと───立つッ!!
すぅぅ…──、
「
『『『
ズジャキ、ズジャキ、ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキッッ!!
十数名の男達が一斉に杖を構える。
まるでそれが武器であり、帝国軍の鎧を貫かんと言わんばかり───。
「ぬ?! 魔法使いどもか! 詠唱させるな───弓兵、射撃よ」
『
ババババババババババババババッバン
ババババババババババババババッバン
ババババババババババババババッバン
「きゃぁ!」
突然、耳をつんざい大音響!
大抵のことに驚かないエミリアであっても、さすがに驚いた。
まさか、炸裂魔法の使い手たちだったとは───。
これがアメリカ軍?
Lv0のアメリカ軍。
───合衆国陸軍なのか!?
バタバタバタッとまるで見えない死神に命を刈り取られかのように倒れ伏す帝国兵。
「うぎゃああああああ!!」
「あーあーあーあーあ!!」
「目が、目がぁぁぁあ!!」
「だ、だれか、お、俺の足がぁぁああ!!」
一方で、帝国軍は大混乱。
一撃で、前列の盾持ちが全滅。
オマケに指揮官もどこかに消えた。
反撃どころか、腰を抜かしている奴らが大半だ。
これがあの帝国軍?
魔族を虐殺し、我が物顔でエミリアを弄んだ最強国家の兵ですって?!
『
『『『
男達は二列になっていた。
いや、指揮官の男を含めれば三列か……。
そして、一列目の男達が腰のポーチからソーセージの様なものを取り出すと端を噛み破り何やらゴソゴソを奇妙な動きをしている。
一体何を?!
早く帝国兵に追撃を───。
「ひ、怯むな!! 魔法が早々連発できるわけがないッ!」
「「お、おう!!」」
いち早く立ち直った帝国軍。
さすがに実戦経験者は違う───はやい!!
「「「突撃ぃぃい!!」」」
『
『『『
チャキ、チャキ、チャキチャキ!!!
前列は冷静に作業を続けていたかと思うと、後列の男達が腰から黒光りする拳銃を引き抜いた。
『
パンッ!
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパン!!
「ひゃあ!」
エミリアの近くで再び炸裂魔法。
さっきよりも小さいとは言え、連射力がすごい!!
「ぎゃああ!!」
「ぐぁあ……よ、鎧が?!」
「いでーいでーいでよおぉおお!!」
『
『
ズドドドドドドドドン!!!
再び前列が火を噴く。
もうその頃には、帝国軍は壊滅状態。
突進してきた連中はズタボロになって転がっている。
数少ない生き残りは、這う這うの体で逃げ惑う。
「た、助けてくれぇっぇええ!!」
「敵だ! 敵だあぁぁぁああ!!」
占領された魔族城に飛び込む帝国軍。
他の者は右往左往し、アメリカ軍に撃ち殺されている。
だが、これだけ大騒ぎすれば帝国軍とて黙ってはいない。
この地に残留する帝国軍は一個大隊約500名もいるのだ!
「死霊術だ!! あのガキが死霊を呼びやがった!!」
「出撃!! 出撃ぃぃぃいいい!!」
城は蜂の巣をつついたような大騒ぎ──。
そして城の正門から、雪崩を打って帝国軍が現れた。
「く……! なんて数!」
さすがにアメリカ軍とはいえ、この数は─────!
だが、アメリカ軍は不敵に笑う。
彼らはいつの間にか数を増やし、ゴロゴロと荷車を転がしている。
『
『
ゴト、ゴトゴト、ゴトンッ!
一見して妙な鉄の塊。
破城追だろうか?
鈍重で帝国軍の歩兵にはとてもかないそうにない───。
そもそも歩兵相手に攻城兵器を持ち出してどうする?!
「無理ね……」
ここまでか……。
せっかく、一時でも自由になれたというのに、悔しい……!
いっそさっさと逃げれば良かった───。
「でも、一瞬でもいい夢が見れた───胸がすいたわ、」
ありがとう……アメリカ軍───。
『
破城追に取り付いた男がクランクをグルグル回し始めた。
それが何になる?!
もういい。
もういい!!
もういいのよ!!
あとは、正門から沸きだす帝国兵に蹂躙されて終わり───。
あなた達は帰りなさ
パン……。
「ごぉあ!?」ドサッ───。
軽い破裂音。
そして、指向された何かが正門から雪崩出てきた帝国兵を打ち砕いた。
「───え?」
パン、パパパン、パパパパパパパパパパパパパパパパパ!!
「「「ぎゃあああ!!」」」
「えええ?!」
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!!
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!!
「「「「ぎゃあああああああああ!」」」」
一塊の暴力となって、エミリアを押しつぶさんと出てきた帝国軍一個大隊。
そいつらがバタバタと倒れていく。
血を噴き、頭を失い、手足を引きちぎられて倒れていく。
パパパパパパパパパパパパパパパパパパ───! カチャン……。
『
『
連射していたガトリング砲が上部からマガジンを交換している。
その間隙を埋めるのが歩兵たちの
凄まじい笑顔を浮かべた男達が腰だめに構えた拳銃を連続射撃。
さらには大威力のライフルが長射程をもって帝国軍をバキュン! バキュン! と撃ち殺していく。
『ハッハッハァァ!!』
『ヒィィィエァァァ!』
『ヒーーーハァァァ!』
一応言っておくが、悲鳴ではない……。
悲鳴なものか───!!
こいつら───……。
アメリカ軍は笑っている!?
なんてこった……。
これは、
戦いの悦びに満ちた男達の叫びだッ!!
『『『『ヒャッハァァァアアア!』』』』
バンバンバンバンバンバンバンバンバン!
あれ程威容を誇っていたはずの帝国軍が何も出来ずに薙ぎ倒されていく。
悲鳴も絶叫も、アメリカ軍の出す喧しい音にかき消される始末。
そこに加わるガトリング砲の
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!!!
『
イィィィィエェェアァァアアアア!!
嗅いだこともない香りが鼻腔を刺激する。
エミリアは足の激痛も忘れて茫然と立ち尽くすしかない。
アイツらを殺せとは言ったが……。これほどとは───!?
「だ、ダメだ!! 逃げろッ!」
「出撃した連中は忘れろッッ! 早く中に入れッ!!」
遂に壊乱した帝国軍一個大隊……。いや、今は一個中隊くらいか?
城に逃げ込んだ連中は、無情にも城外にいた連中を締め出す。
「よ、よせ! 開けろ!!」
「開けろ。開けろッ!」
どんどんどんッ!
「貴様ら、ワシのために盾になれ! 早く開けんか───ワビュ」
ブシュウと、豪華な身なりの城主が撃ち倒される。
アメリカ軍の無慈悲なことといったらない!!
もう、だれかれ構わず、動く帝国軍は全て敵だと言わんばかり───。
『HAHAHAHAHAHAHAHA!!
『『
ガキン───……。
ズドォォォォォオオオオン!!!!
大音響ッッッ!!
空を圧せんばかりの大音響!!
「ひぃぃぃっぃぃい……」
さすがにこれはエミリアも腰を抜かした。
今までの轟音が川のせせらぎに思えるほどの大音響!
アメリカ軍が準備していたもう一個の破城追が、なんと火を噴いた。
火?!
いや、火なんてものじゃない!!
あれは
ヒュルルルルルルルルル…………。
ルルル──────。
ヅバァァァァァァァアアアアン!!!
「「ぐああああああああああ!!」」
そして、爆発!
強固なはずの城の正門を、文字通りぶっ飛ばした!!
「あわわわ……」
エミリアですら腰を抜かす威力。
中に入って一安心、と思っていたであろう帝国兵が粉々に砕け散った。
『
『『『
肩掛け鞄を担いだアメリカ軍が身軽になって駆けていく。
あっという間に魔王城の正門後に取り付くと、加えていた紙巻タバコに、線のようなものをおしつける。
遠くにいてもジジジジ……という、どことなく不安にさせる音が響いてきた。
『
『
駆けていったアメリカ軍が急ぎ足で戻ると、指揮官に報告。
指揮官は今までで一番大きな声で周囲に怒鳴る。
『『『
そして、楽し気に銃を乱射していたアメリカ軍もコレには素直に従うらしい。
無様に見える格好で、全員が地べたに這いつくばった。
エミリアは砲撃のあと、腰を抜かしていたがそこにアメリカ軍指揮官が覆いかぶさるとその体でエミリアを守った?
「え? きゃ!?」
突然地面に押し倒され、可愛い悲鳴をあげるエミリア。
反射的に、指揮官を押し返そうとしてしまう。
それは今までの経緯からすれば仕方ないことだが、指揮官は真剣そのもの。
一見間抜けに見えるも、口を開けて耳を覆っている。
だが、エミリアがボケッとしていることに気付いた指揮官は、自らの手でエミリアの長い笹耳を覆った。
『口を開けて、腹に力をいれなさいッ』
え?
な、なに?
だが、意味が分からずボンヤリしているエミリアに再度指揮官は言う。
口を開けろ。
腹に力を入れろ、と──。
言われるままに口を開けた途端────。
チュドーーーーーーーーーーーーン!!!
城が大爆発した──────……!
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