第14話 「 」
ウィッグ屋で働きはじめて半年くらい経ち、完璧ではないがミスも減って接客も最初の頃よりマシになった。
面接をしてくれた店長さんは私が仕事を覚えたタイミングで福岡店に帰っていった。
店長は元々福岡店の店長で結婚して子供もいるのであまり大阪店には長居することを望んでいなかったらしい。
なので大阪店は私とオーナーの親戚のお姉さんの2人でお店を回していた。
時々、オーナーも手伝いに来てくれた。
オーナーの家は福岡にあるので滅多には来ないけど来た時は接客をメインにお客さんと楽しそうに話していた。
よくお店にウィッグを買いに来る同年代のお客さん数人と仲良くなって仕事が終わった後や、休日遊んでくれる友達が出来た。
共通の趣味の友達と遊ぶのは本当に楽しかった。
大阪に来て良かった。
そんなある日、3件の留守電が携帯に表示されていた。
仕事中だったのでお客さんが帰ってから確認しようと思っていたけど表示された名前は
『和枝ちゃん』
三件も留守電を入れてるのは余程大事な事なんだとカウンターの下にしゃがんで留守電を聞いた。
一件目
『めぐちゃん!お父さん大変!留守電聞いたら電話掛けて!!』
二件目
『めぐちゃん、今お父さんの病院に向かっとるけん。電話ちょうだい』
三軒目
『めぐちゃん……お父さん亡くなったよ』
最後の留守電を聞いて私はゆっくりと立ち上がった。
ぼんやり壁掛けの時計を眺める。
最後の留守電が入っていたのは1時間前だ。
今の時刻は13時20分
1時間前は12時20分
お客さんはウィッグを選んだらようで「すみません」と声を掛けられた。
私は呼ばれてお客さんの所へ向かう。
「この型のこの色が欲しいんですけど」
ウィッグの在庫は商品の飾ってある棚の下に目隠しのボードで隠して保管してある。
しゃがんで言われた色を探している最中に涙が溢れ落ちた。
商品を手に持ちお客さんに渡す。
お客さんも私の異変に気付いて周囲を見渡すが店員は私しか居ない。
「どうかしたんですか?具合でも悪いんですか?」
私は首を横に振って大丈夫ですと言葉を口にしたが一度涙が出ると抑えることが出来ず止まらなくなった。
「他に店員さんいないんですか?」
私が首を横に振るとお客さんは背中をさすってくれた。
私が落ちくまでお客さんは側にいてくれて、一度もお店で会話したこのない人だったけど私は口を開いた。
「……お父さんが亡くなったんです」
お客さんにそんな話をするのもどうかと思うが、自然に言葉が漏れ出たんだと思う。
亡くなったと言葉を口にすると実感が湧いてきて、また泣いた。
その後、オーナーに電話をいれてお父さんが亡くなったことを伝えると「すぐに折り返す」と言われて電話が切れた。数分待って折り返し電話が掛かってきてオーナー親戚の娘さんに出勤を代わってもらえることになった。
私はだいぶ落ち着いてきたのでお客さんに謝ってだいぶ待たせてしまったが、お会計を済ませた。
お姉さんが到着するまでお客さんは側にいてくれた。
1人になるとまた私が泣くと思ったのかもしれない。
お姉さんが到着した。
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