第10話  思い出の場所

 地元に戻ってきた。


 住み慣れた家にはもう帰れない。かなり古い家だったので取り壊しが決まっていた。


「めぐちゃんお帰り。ご飯作っちゃろうか」


 私はしばらく和枝ちゃんの家にお世話になることになった。

 他の親戚は私のことを煙たがって誰も声を掛けてくれなかった。


『もう辞めたと?情けなか』


 辞めた理由聞いてくれないの?


『常識がなっとらん』


 常識って何?教えてよ。


『すぐに辞めるくらいなら大学行けば良かったとに』


 大学に行く金なんてないよ…。



 他にも和枝ちゃんとトミエおばさん以外の親戚には散々言われた。


 和枝ちゃんとトミエおばさんはどんな時も私に対して優しく接してくれた。


 働かないと迷惑を掛けてしまうので私は福岡市内の求人を調べて面接に行った。

 その仕事についてはまたの機会に話そうと思う。



 貯金もだいぶ溜まって私は福岡を離れることに決めた。

 父親のことが気掛かりだったが日に日に弱っていく父親の姿を見ることが耐えきれなかった。

 この世界から居なくなってしまう姿を見たくなかった。


 祖父が亡くなって、もうすぐ父親の番。


 亡くなると抜け殻みいになってしまう姿を私は知ってる。


 体はそこにあっても何もない空っぽな器。


 祖父が亡くなってまだ何年も経っていない私には身内がもう一人亡くなろうとしている現実を受け止めきれなかった。


 現実から目を背けてしまった。


 少しでもその場から離れたい。


 もっと遠くへ


 誰も親戚の居ない場所。


 父親がもしもの時に駆けつけられる距離。


 昔、一度だけ家族で行ったことのある場所。小さい頃だったから鮮明には覚えていないけど楽しかったことは覚えている。

 家族との思い出がある場所で、ひと時でも辛い現実から目を背けられて楽しく過ごせるんじゃないかと私は大阪に行くことに決めた。



 また逃げてしまった。


 当時の私には耐えきれなかった。



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