第9話 風邪
環境の変化でストレスが溜まっていたんだと思う。
体調を崩した。
寮の真下に工場があるので朝一番に工場長に体調が悪いと伝えに行った。
「最近忙しいけん、薬でも飲んで仕事してくれんね?熱だけやろ?」
救急箱から飲み薬一日分とマスクを渡された。
「わかりました」
昼過ぎ頃、私は作業中に床に座り込んだ。
目眩と怠さと気持ち悪さが一度に襲ってきた。
私が働いていた洋裁の工場には椅子はあまりない。
立って作業することが基本だ。
立ち仕事は苦ではなかったが体調が悪い日は別だ。
体調が悪い日だけでも椅子に座って作業さえ出来れば床に座り込んだりしなかったと思う。
心配してみんなが私の周りに集まってくる。
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
大丈夫?立てる?と声が聞こえたが、一人だけ違った。
「どうせ仮病やろーが。それとも夜遊びのし過ぎで疲れとるとね?」
副工場長だ。
工場長は基本、工場内にはあまり入ってこない。副工場長が工場を仕切っている。
私はこの男が大っ嫌いだった。
今なら訴えたら勝てるレベルのセクハラ発言やセクハラを平気でしてくる。
「胸大きかね」「彼氏と毎晩楽しんどると?」「尻大きかけん、子供産むのも楽そうやね」
私が直接言われたわけではない、20代の若いお姉さん方がよく副工場長に言われているのを聞いていた。
作業中は話すの禁止なのに平気でやぶってくる。
私は副工場長が嫌いすぎて入社したばかりの頃に副工場が私の後ろを通る度にさりげなく通る度にお尻を触ってこられてムカつくって気持ちよりも凄く怖かった。
1度ならず2度、3度も触られて和枝ちゃんに相談しようと思ったけど心配かけてしまうのでその考えは捨てた。
4度目、我慢できなくなって工場長にそのことを話してしまった。
工場長が注意したのか次の日から私のお尻を触ってくることは無くなったけど代わりに私の悪口をみんなに話すようになった。
『あいつは挨拶せんけんね。人として終わっとる』
どんなにムカついていても挨拶はしていた。副工場長は挨拶を返してくれない。
挨拶しないのはお前だろ。
『偶然少し触れたくらいで俺が悪いみたいにチクるからあいつの後ろは通れん』
『仕事の覚えが悪すぎて使い物にならん。風俗で働いた方がこの仕事より向いとるやろ』
発言が全てキモい。
嫌われてはダメな人に嫌われた。
私は工場長に連れ出されて工場長の車で病院に行った。
私が悪口に対して免疫ついていたら辞めるって道は選ばなかったかもしれない。
今思うと言い返せばよかった。
けど、
当時の私は言い返す度胸なんてなかった。
あの副工場長とこれから何年、何十年と同じ空気を吸って共に仕事をすると考えただけで気分がもっと悪くなったように感じた。
我慢の限界だった。
辞める
辞める
その言葉しか頭にはなかった。
数日後
退職願を工場長に渡した。
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