第7話 お父さん

 私が地元を離れる前、お父さんのお見舞いに行った。

 一ヶ月に1、2度は訪れていたが暫くは仕事が慣れるまで会いに行けないだろうと病室に入る。


 なんとか食事は食べられるが呼吸器をつけて息苦しそうにそれでも生きようと頑張っている父の姿が目に映る。

 私が来て父は視線を私に向けて目を見開く。

 会話は出来ないが、声は聞こえるらしい。


「お父さん、元気?ご飯しっかり食べてる?」


 父は何かを言おうとしているが全くわからない。


 手を握ると握り返してくれる。


「お父さん、高校無事に卒業できたよ!」


 父は手を強く握ってくれた。


 私は涙を堪えて話続けた。祖母の話や和枝ちゃんトミエおばさんの最近あった話や、高校を卒業する前に赤点とって補修でどうにか卒業できた話。


 父は強弱をいれて手を握ってくれた。

 何かを言っているが言葉がわからないので耳を口元に近づけると一言だけ聞き取れた。



「がんばったね」


 堪えていた涙が溢れたが袖で拭って笑顔を父に向けた。


「ウチ頑張ってるからお父さんも頑張って元気になってくれんと困る!そういえばトイレ何処やったっけ」


 何度か訪れている病院だが、お父さんの病室はころころ移動するので場所をあまり把握できていなかった。

 お父さんは首を左に倒し視線を真上に向ける。


「部屋を出て左?」


 父は小さく頷いたようにも見えた。


 私はありがとうと言って病室を出る。

 部屋から出て左に進むとトイレの表示が見えた。

 私はトイレの個室で思いっきり声に出して泣いた。


 父の余命は残りわずかだと知っているから。


 私が中学3年の頃、医者に3年程だと言われた。

 最近は安定してきてはいるが、体は以前よりもやつれて、声も出せなくなってきている。


 もう時間は短いだろう。


 叶わないと分かっているけど


 成人式まではどうにか生きててほしい。

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