第5話 逃げた
部屋に糞が落ちてた。
はじめて見た時はかなり動揺したがトイレットペーパーでソレを拾いトイレに流した。
祖母は悪びれた様子もなく朝食を食べていた。
「ばあちゃん、なんでトイレでやらんと?」
祖母は無言でご飯を食べ続ける。
この糞騒動は祖母が施設に入るまで続いたと思う。
一度、はいているオムツをトイレにそのまま流して詰まった時は私も我慢の限界がきて、怒鳴ってしまったこともあったが、何が悪いことなのか理解できていないのに怒鳴るのは逆効果なんだと知った。
祖母は私に怒鳴られてから家でトイレをしなくなってしまった。
尿意や便意を感じるとすぐに和枝ちゃんの家に行くようになった。
夜は私が窓から出て外側から鍵をかけている為、玄関に立って困った顔をしているので、祖母がいなくなったと思ったら祖母をトイレまで連れて行った。
時々、玄関に糞が転がっている時もあった。
今では怒鳴ったことを後悔しているけど、当時は毎日のように糞や尿の処理をしていたのが精神的にキツかったんだと思う。
私と同世代の学校の友達は楽しそうに部活を頑張ってる姿、異性に恋して土日はデートだのって話を嫌でも耳にするから、どうして私だけがこんなことをしなければならないのだろうと恨んだ時もある。
人生での高校生活は3年しかないのに、私は普通の青春を送れなかった。
なんで私だけ…
全てが嫌だった。
だから
私は逃げる道を選んでしまった。
高校の進路指導室の部屋には高卒求人のファイルが沢山あった。
自宅から通える求人も数多くあったけど、私は住み込みの洋裁工場の求人を受けることに決めた。
家から離れられる口実ができるから。
洋裁工場の試験は筆記と面接のみ。
面接では住み込みで働けるかを問われて私は「住み込みで働きたいので、この仕事を選びました」と即答で答えたと思う。
住み込みを重視する理由があったのは働いてから知ったんだけど…。
私はその日のうちに口頭だが、採用と言われ後日学校に内定の通知が届いた。
仲の良かった友達にはおめでとうと言われたが、全然嬉しくなかった。
自分がしたい仕事で採用された訳ではないから。
逃げる為に選んだ仕事だから…。
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