第4話 祖母と二人
高校3年の春、兄は北九州の親戚に預けられた。
仕事も紹介してくれるとのことで兄は不満を漏らすことなく家から出て行った。
兄が居なくなって私はホッとしていたが、祖母は兄のことが心配でよく名前を呟いていた。
ある日、バイトが終わり携帯を見ると和枝ちゃんから何件もの着信が入っていた。
すぐに電話を掛けるが、繋がらない。
私は自転車をこいで自宅には向かわず、和枝ちゃんの家に向かった。
インターホンを鳴らすとしばらくしてトミエおばさんが玄関を開けてくれた。
家の中に入って、何があったのか尋ねる前にトミエおばさんが口を開いた。
「めぐちゃんのおばあちゃん警察に保護されとるよ。今、和枝が迎えに行っとる」
「ウチも迎えに行ってきます!場所は?近くの警察署ですか?」
「和枝が迎えに行ってから時間経っとるけん、此処で待っとき、お腹空いたやろ?ラーメン作っちゃるけん」
時刻も22時を回って遅い時間の為、高校生が夜道を歩くには危ないだろうとトミエさんは気遣ってくれたのだと思う。
トミエさんが作ってくれたラーメンを食べ終えた頃くらいに和枝ちゃんが祖母を連れて帰ってきた。
「ばあちゃん!なんばしよったと!」
祖母は出されたお茶を呑みながら
「ケンちゃん帰ってこんけんが、探しに行っとった」
「兄ちゃんは北九州に行ったやろ!」
「北九州?なんで北九州に行っとるとね?」
祖母は不思議そうに私にそう問いかけた。
祖父の死から祖母の痴呆症が目につきだした。兄が居なくなってから祖母の痴呆症は益々進行したようにも思えた。
「ウチとばあちゃんに……いや、兄ちゃん働きに行くって言っとろ?」
「そうね…そうやったね」
私と祖母に手を出すと言えば、嫌なことまで思い出させてしまうだろうと言うのをやめた。
時間も遅い時間なので祖母を連れて帰ろうかと考えていると祖母はその場に横になって寝始めた。
「今日は泊まっていくね?」
迷惑になるだろうと結構ですと答えたが、和枝ちゃんが布団を出し準備を始めた。
「明日も学校やろ?起こしちゃるけん、お風呂に入ってきい」
お言葉に甘えてその日は和枝ちゃんの家に泊まることになった。
一泊だけのつもりだったが、祖母が和枝ちゃんの家から出ようとしないので一週間近く祖母は世話になったと思う。
その間に、自宅の家の玄関の外側から鍵をつけた。
私がいない時に祖母が夜徘徊しないようにする為だ。
祖母は最初ドアが開かないのを不思議そうに私に尋ねてきたけど、しばらくしてそれが普通のことだと受け入れてくれるようになった。
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