第3話 母の言葉

『子供はいらんけん』


 お母さんが出て行く時に言われた言葉だ。

 昔から殴り合いの喧嘩は日常茶飯事だったが、この日を境に兄との喧嘩は、暴力に変わった気がする。




 私は祖母を連れて祖母のお姉さんの家を訪れた。

 兄は外面は良いので祖母のお姉さんや娘さんの前では私や祖母に暴力は振るったり暴言を吐いたりしない。

 兄は高校を辞めた理由を「家に金を入れないと大変だから」と話していたと思う。

 親戚連中は兄の外面に騙されて「しっかり者」「お父さん入院して大変な時に家族の為に頑張って偉い」と言われていた。


 みんな外面しかみてくれない。


 私は今まで兄のことを親戚にそれとなく話してきたが「ただの喧嘩やろ?めぐちゃん大袈裟すぎばい」「1人しかいない兄ちゃんのことそげん悪く言っちゃいかん」


 誰も信じてくれない。


 信じるのは外面のいい兄のことだけ。


 私がもう少し、外面良くて社交的な性格で人から好かれる性格だったら信じてくれた?


 親戚の殆どは兄のことを信じていたけど、祖母のお姉さんと娘さんは私のことを近くで見ていたから私のことを信じてくれる。


「兄ちゃんが、ばあちゃんにパン買いに行かせて違うもん買ってきたみたいで、頭叩かれれとった」


 先程の出来事話を祖母のお姉さんの娘さんに話した。

 高校とバイトで祖母を見守ることは難しく、その間に祖母が兄に何かされるんじゃないかと思うと不安だった。


「そうね…ケンちゃん。最近目が怖いけんね…めぐちゃんとスミエさんだけじゃ不安やったし私から九州の叔母さんのとこに電話してみるけん待っとって」


 お姉さんの娘さんは九州の親戚と仲が良いので私の口から言うよりも、娘さんの言葉の方が信じてくれるだろう。

 よく名前が出てくる娘さんの名前は和枝さん。

 祖母のお母さんの名前はトミエさんだけど、おばちゃんって呼んでいた。

 和枝さんは私が小学四年の頃に家の近所に引っ越してきた。

 祖母の姉の娘さんだから、歳もかなり私とは離れていて当時は60歳くらいだったと思う。私は和枝さんのことを和枝ちゃんって呼んでいる。

 和枝ちゃんは娘が1人いるらしい。よく写真を見せてもらった。

 和枝ちゃんの旦那さんはもう亡くなっていて、トミエおばちゃんの旦那さんも和枝ちゃんが若い時に亡くなったらしい。


「お願いします」


 和枝ちゃんがすぐに九州の叔母さんに電話をかけてくれて、やんわりと私が話したことを話してくれた。

 何を会話したのか分からないけど、兄を九州の叔母さんの家に預かってもらうことになった。


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