第2話 決戦の金曜女子会
金曜日の夕方――
うちに2人のお客さんが来た。
一人は眞智子、もう一人は佐那美である。
それぞれうちの両親に手土産持参でご挨拶するといった気合いの入り方であり、服装もまるで都内にお出掛けする様な出で立ちで、とてもうちで女子会を開く感じに思えない。
美子がジトッとした目で2人を見る。
「色目使ってんじゃねえよ」
「だって、明日はふぁっきゅうーを迎えに行くんでしょ?」
――とそういう佐那美であるが、今朝までは「どうせふぁっきゅうーなんだし、ジャージでいいや」と言っていた。
その時に眞智子が「その前に礼君の家に行くから私はちゃんとした服装で行こうかな」とボソリ呟いて以降は、急に自分の意見を引っ込め眞智子に『右へならえ』に転じた。
「でも、女の子3人がいて、本当に大丈夫なの?」
母が僕と彼女らに視線を行き来させながら心配する。もし僕が彼女らに手を出す方で心配しているとしたら、それはないので安心して欲しい。
――彼女らはヤンデレですから。
だが、その心配は違う方面だった。
「美子が眞智子さんらに何かしないか心配で――」
――そっちかい!
「大丈夫だと思うよ。彼女らも美子に負けていないから」
…と彼女らの前で言う僕も大変失礼な男である。
眞智子が僕の言葉に反応して白い目で僕を見る。
「コホン…一応、二人からの貞操は守ってあげるから」
一方で佐那美が違う事を宣う。
「何言っているの?若い男女よ! 一時の快楽に溺れてはいけないわ!」
ほうほう、言っていることはご立派ですが――その後の言葉が酷かった。
「今は少子化よ! 一時と言わず、何発も――(以下略)」
――やっぱり彼女はアホな子である。
うちの母が呆れてか佐那美と美子を見比べ、その後大きくため息をついた。
「な、何よ。何で私とこの馬鹿を見比べるのかな、かな!」
美子は不満を母に訴え、次に佐那美に文句言う。
「佐那美、お前帰れ! これ私のだから!」
美子はそう言って僕の腕に抱きつき引き寄せた。
「まぁ…、近親相姦されるよりはだいぶマシよねぇ――」
母はそう呟くと、眞智子の両肩にポンと手を置く。
「…あなただけが頼りなのよ。最悪の場合、あんたがモノにしなさい!」
――あのぉ、火にダイナマイトを投げ込むような発言はどうかと思う。現に眞智子はニタッとほくそ笑みながら小さくガッツポーズを決めているけど、その横で出遅れた美子と佐那美が死んだ魚のような目…通称ケロロ目になって顔を引きつらせているじゃないか――
それにしてもホント、元ヤン眞智子は2人が残念な分だけ得をしている気がする。
「眞智子さんがいるから大丈夫ね」
母はそう言うと父と一緒に荷物をまとめ旅行支度を始めた。
「えっ? ちょっと、嘘でしょ…こんな状況で僕を残してどこかに出掛けるの?」
「悪いな。折角だからお母さんと温泉にでも出かけようかなと思って」
お父さんが筑波山の温泉宿のチケットを見せる。
「何ソレ?」
美子がそのチケットを覗くように見る。
「地端の奥さんからもらった。地端が『夫婦水いらずで温泉行ってのんびりしてこい』って渡すよう頼まれたって」
なお、うちの父は地端の親父と小中学校時代の同級生で非常に仲が良い。
――って、これはどう考えても『うちの娘と地端プロダクション、よろしくね』という袖の下って奴だよね?
さっきまでガッツポーズを決めていた眞智子が「してやられたぁ~」と苦み潰した顔でウーッと唸っている。
眞智子さん。小野乃の親父に迷惑掛ける袖の下はいらない。僕を守って下さい!
そんな僕の気持ちを代弁してか、お母さんが、口を挟む。
「――冗談はさておき…学生の男女なんだから羽目外さないでよ。」
だが、つまんないことで揚げ足取る身内が1人――
「ハメ外さないっていうことはハメてもいいんだぁ♪」
美子さんや…それ字が違うよね? そしてニタニタしない! あの顔で母が何度ぶち切れた事か!
その母はニコニコしながら美子をこみかみ辺りをアイアンクローで掴み持ち上げる。
「そうかツッコミたいのか? ハメたいのか…この近親相姦娘めぇ――っ」
メリメリメリ…
頭蓋骨がきしむ音が聞こえた。
あぁ――いわんこっちゃない。
これには眞智子と佐那美は美子の処刑風景を初めて目の当たりにしてオーッと歓声をあげ見入っている。
「スゲー、美和子さん半端ない」
「おーっ、これが噂の美子の処刑風景か、あたし見てみたかったんだぁ♪」
なにげに美子の処刑はショーと化している。
「ママ…ギブ、ギブ!」
美子が必死でトントンと母の左手を叩く。
ちょっと気の毒になってきたので助け船を出すとする。
「お母さん大丈夫だから。眞智子さんや佐那美さんがいるんだもの。多分牽制し合って大事にはならないハズだから」
「そぉう?君がそこまで言うならお母さんとお父さんは美子を除く君達を信じるから」
とりあえず、気分良く許してくれそうだ。
――それでも美子は信じないんだね。
「それとお兄ちゃん、もし貞操の危機がきたら…彼女らに男にしてもらいなさい(美子を除く)」
――うわぁ、なんでトラブル起こす言動をするんだよぉ!もし本気にされてそんな事が発生したら、うちの中が犯行現場になっちいますけど?!
頭蓋骨から軋み音がする美子も抗議する。
「何で、私だけを除くのよ!私が一番、お兄ちゃんとやりた…ギヤアアア――」
あっ。今、明らかに変な音がした!
そろそろ止めないとマジでやばいかもしれない。
僕と父は怒り狂う母をなだめ、とりあえず美子を解放した。
「あのぉっ、この痛みは生まれてきた時と同じくらいの痛みなんですけども!」
美子がこみかみ辺りを手で押さえながら抗議する。
――いや、妹よ。生まれたときの記憶はないだろう?
「だから、眞智子さん、佐那美さん頼むわよ。」
「あとよろしくね!」
母と父は頭を押さえてうずくまっている美子を放置してそのままクルマで出かけてしまった。
さて、お泊まり会に入る訳だが――
美子はちゃんと皆のご飯を作っていた様で、特に何かを仕掛けているとか差別したりするということはなかった。
お風呂の順番も若干のトラブルがあったのものの、決まってしまえば、皆すんなり従った。
――不気味である。これは嵐の前の静けさか。
とりあえず、一同は居間でのんびりくつろいでいる。
彼女らの服装は、学校指定のジャージで、前もって取り決めをしていた様だ。個人的にも見慣れた服装なので緊張感しないで済む。
ただし、僕は何も聞かされていなかったこともあり、1人だけ灰色のスウエットである。
「僕もジャージに着替えるか?」
「あ、いいよ。お兄ちゃんは。それにこいつらはそっちの姿の方が新鮮味あって大歓迎なんじゃないかな」
珍しく美子が、他の人の事を気遣っている。
――が、視線が何かおぼつかない。
眞智子も佐那美も「いいんじゃないの?」位で同意するが、その後の話が沈黙状態で妙な雰囲気を醸し出している。
――何かおかしい。
美子は台所で明日の朝ご飯の準備をして、時折こちらを窺っている。
眞智子はチラチラと周りを警戒しながらスマホで動画配信サイトを見ている。
佐那美はテレビを見ながら、皆の顔色を覗いている。
そして、僕が動く度に皆が僕に視線を向けている。
――なんか、既にそれぞれを牽制しあっている感じである。周りの空気が重い…今すぐ逃げたい気分だ。
「な、何か話さないか? トークだよ、トーク」
とりあえず皆にそう話し掛けてみる――が、「今は別にないかな…」と皆会話する気がないらしい。
ダメだ、気が持たない――
やはり、女の子のグループに僕1人だけいること自体が周りの空気がおかしくなる原因ではないか?
僕はそう思い、席を立ち上がり、
「ごめん、僕は眠くなったから先に失礼するよ」
と断りを入れて自室に戻ることにした。
――が、誰かが僕のズボンを掴み行く手を阻んだ。
振り返ってみると、掴んでいたのは佐那美であった。彼女の視線はテレビに向けられたままがっしりとズボンを掴んでいた。
「景品は逃げちゃだめだから…」
「景品?」
声が裏返ってしまったが、実際に彼女らに問い合わせる必要もなかった。僕はその意味をすぐに理解した。僕が彼女らの景品ということだ。
まさか、この中から彼女を選べということなのか?いや、景品と言うことはそう言う意味ではないハズだ。すると彼女らが僕に何かをさせたいということなのか?
「僕は君たちに何をすればいい…の?」
恐る恐る彼女らに確認する。
「礼君、心配しなくていいよ。『まぐあい無しの同衾』するだけだから」
こう言う時に限ってまた眞智子が難しく説明してくる――正直、意味わかんない。
「…何それ?」
――って僕が聞きたかったのだが、これを実際に聞いたのは佐那美である。
「あんた、馬鹿じゃないの! さっき話したよね? お兄ちゃんとエッチなしの添い寝権を賭けて勝負するって!」
美子が台所から出てきて顰めっ面で佐那美を睨む。
「あ、そうそう。それならわかるし、実際そう約束したもん――ったく、眞智子は格好ばかり付けるヤンキーなんだから! もっと分かり易くいいなさいよ、馬鹿」
――あっ、馬鹿に馬鹿と言われた眞智子。握り拳を振るわせながら顔を赤にしている。いつもならパカンと佐那美を一発殴っている所のだが、今回だけは何とか堪えた様だ。
「ちょ、ちょっと、皆待ってくれ。それじゃ僕が生殺しじゃないか? 第一、僕の意見は?」
僕はその意見に承服しかねると告げると、眞智子からこのように言い返された。
「別にしたかったらしてもいいんだよ…でも、その場合は――」
美子がその続きをいう。
「残った子がどう思うかしらねぇ――」
続けて佐那美が付け加える。
「――きっと事件が起きるわよね」
…嫌な脅し文句である。
「それじゃあ、僕1人で寝るという考えは――」
眞智子がさらに告げる。
「きっと、皆暴走して乱交パーティになっちゃうよ。それじゃ私守れない――」
美子がその続きをさらに言う。
「他の子に渡すぐらいだったらね――」
続けてさらに佐那美が付け加える。
「――きっと新聞に載っちゃう事するわよね」
汚い! やり方が汚い。これではどっちにしても詰んでいる。
しかもなんでこう言う時に限って、みんな一致団結する。
その理由を眞智子が僕の肩に手を掛け説明する。
「これでも、昨日は揉めに揉めたんだよ――落としどころはどこにするかって。皆が納得したのはこの案だったわけ。一緒に添い寝するくらいは多めに見てよ」
美子がもう片方の僕の肩に手を掛けた。
「まぁ、これくらいならいいんじゃないの…ただし一発決めるなら私にして欲しいけどね――違う奴なら、どうなるかわかるよね?」
そして佐那美が僕の右手の上に手を掛けた。
「…かといって4Pするっていうのはね――そう考えたらそれしかないじゃん」
酷い…とりあえず僕の理性が保てれば何とかなるって言うわけであるが、仮に僕が抑えられなくなったら、かの有名な『ナイスボート』で三途の川を渡ることになるだろう。
これは罰ゲームそのもので、半べそものだ。
「それじゃ、僕は何すればいいの?」
半ばやけくそに尋ねた。
「あっ、だったらお兄ちゃんは自分の部屋で寝ていてもいいよ」
そう答えたのは意外にも美子であった。彼女はさらに話を続ける。
「勝者がお兄ちゃんの布団に入って一緒に添い寝すればいいだけなんだもん」
ただ、これには反対する者が1人いた。佐那美である。
「えっ、景品が目の前にないとテンションが上がりにくいんだけど――」
それに対して眞智子が止めに入る。
「私も含めてだけど――この連中、みんな礼君大好きだから、きっと暴走してつまみ食いしちゃう可能性もあるから、景品はしまっておくのが得策だと思う」
そうするしかないかな…そう思っていたら、眞智子から白い封筒のようなものを差し出された。
「気休めだから」
まさか、コン○ームじゃあないよね? そう思いながその袋を確認すると、その袋は小野乃医院の処方薬である。
ご丁寧に、その袋には『神守礼』様宛と眞智子の父親の字で記されており、在中品は薬1錠だけであった。
「なに、これ?」
「睡眠導入剤。これ飲んでいれば本能的な衝動に駆られないですむわよ。あっ、手続き上ちゃんとしてあるから問題ないから。皆にも処方して渡してあるから」
「――マジですか?」
「あっそんな事言うんだ…じゃあ、生殺しでいい?」
「…イヤ、マジですいません――、多分僕眠れませんので処方お願いします」
眞智子からとりあえず睡眠導入剤をゲットし、最悪の事態に備えることとした。
――が、何故か僕は美子の部屋に座らされる事となる。
「話が違う! 」
僕は彼女らに抗議するが、そんなの彼女らがすんなり認めるわけがなく――
眞智子が真顔でその理由を伝える。
「まだ寝ないよね。まだ午後8時にもなっていないじゃん」
確かにそうだけど…
横で美子がニヤニヤしながら答える。
「そう言えば、お兄ちゃん美子の部屋あんまり来ないよね、よね! お兄ちゃんとずっと何かお話しよう」
イヤイヤ、いつも居間でぶっ飛んだ話しているだろ?
残る佐那美が…何か嫌な予感がする――
「女子会なんてどうでも良いので、皆で王様ゲームしない?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。オールナイトで女子会って話はどうなった?」
「そんなのパスよパス! どうせ美子か眞智子が神守君の事で惚気て、怒ったもう一方と喧嘩になるだけだもの。そんで抜け駆けしようとした私が2人から袋叩きになって夜が明けるんでしょ? つまんないじゃん。」
――うぐぅ…佐那美にしては痛いところを突いてくる。
実際、その様に仕向けようとしたのだが、佐那美にすら読まれていたとは…何か自己嫌悪に陥りそう。
「あっ、いいね王様ゲーム!」
眞智子が前のめりに食らいつく。
ちなみに王様ゲームとは数字札と王様札をシャッフルして、王様札を取り出した人が、数字札の番号を指定して命令するというもの。
程度事前に禁止事項をつくっておかないと暴走しかねない。
特に男女間の王様ゲームはエッチな行為は厳禁しないとしゃれでは済まなくなる。
「えーっ、どうせうちのお兄ちゃんとイヤらしいことするつもりなんでしょ? 私は反対だなぁ」
美子が難色を示すが、眞智子の一言で挙手してOKサインを出した。
「お前だって王様になれば、礼君にあれやこれやお願いできるぞ!」
――ただ、美子のOKサインの一言って酷いんだよね…
「ヤラせて!」
明らかに字が違うよね?!
珍しく佐那美従う僕と2人。でもこう言う時には大抵ロクなことは起きない。
佐那美がいつの間にかどこかで買ってきたばかりのトランプを取り出し、1~3までの札と13の札を取り出して準備を進めている。
そして、美子がさりげなくどこかで入手したハリセンを横に置いた。
その脇で眞智子が持参したバックからビニールに入ったモノを取り出し準備を始めた。
――って、こいつら初めからグルだったんだ…
「君たちずいぶん手際がいいけど――」
眞智子は――
「どうせ佐那美がかっ騒ぐんだから、ちょっと遊んでやろうと思ってね」
眞智子の取り出したモノがやたら気に掛かる…
美子は――
「どうせエロいことになるんじゃないの? 革命用のハリセンを用意したわ」
これで王様の意見に逆らうつもりか…でも、自分が王様になったら速攻で隠すんだろうなぁ…
佐那美は――
「さてと、どうトランプに仕掛けをしようかなぁ…」
…って、明らかにいかさまするつもりなの?
これは美子に看破され、早速ハリセンの威力を目の当たりにすることが出来た。
「そんじゃ、いいかな」
佐那美の音頭で王様ゲームが開始した。
――そして、第一回目の王様は……佐那美である。
佐那美はニコニコしながら眞智子の用意した物の品定めを開始した。
「あった、あった!」
佐那美が袋から取り出すと、何かドリンク剤の様なものだった。
「なんで佐那美さんが眞智子さんの持参したものを確認しているの?」
僕が眞智子に尋ねると眞智子は「『病院から持ってこい!』って佐那美に言われたんだけど、うちそんなの置いていないし――」
――病院は薬局じゃないからなぁ…佐那美に言うだけ無駄だろうけど…
「結局、私が自腹でドンキで買ってきたの…別にいくらもしないからお金取らないけどね…」
「いつも悪いねぇ――」
「でもこれ買うときに店員が変な顔していたなぁ~何か笑っているんだよね」
眞智子が首を傾げている。
佐那美が皆の前にそれを置く。
確認するにパッケージに『マムシドリンク』って書いてある。
――何だこれ?
すると、美子が「あっ!」と大きい声をあげた。注目する一同。
「それ、精力増強剤じゃない!」
美子の指摘に眞智子がえっ?! という表情で佐那美の方に素早く顔を向けた。
「…さ、佐那美。お、おまえ…これ…私に徹夜用の疲労回復栄養ドリンクっていっていたよね…そうじゃ…ないのか…?」
「まあ、そこに書いてあるとおり栄養飲料っていうからリポDみたいなものよ」
「字が違うよね? じゃあ、なんで美子は精力増強剤って言ったんだ?」
眞智子の問いに美子が答える。
「いや、それ…いつかお兄ちゃんに飲ませてみようかなって思っていて…」
――こらこらこら…危なく僕の人生がおかしくなるところでした…ってそれまだ解決していないじゃん! 話は続いているし…
「ほら! 美子だって言っているじゃん! 徹夜するならリポDで良かったのに」
「徹夜するならどうせなら精力増強剤の方がいいじゃん。それにパパから『おまえの元気の秘密は、生まれるときのマムシドリンクが関わっている』って聞いたんだけど」
――別に君の出生の秘密はいいから!
それに娘に猥談するんじゃない、エロ社長!
「いやいやいや、言っていること意味わかんないんだけど、私これドンキで買ってきたんだけど? しかも制服姿で店員に平然な顔して聞いちゃったんだけど…」
眞智子が顔を真っ赤にしてプルプル震えている。
――そりゃ、女の子が精力増強剤なんて買っていたら皆が変な目で見るよなぁ…まるでうら若き乙女が性欲に溺れている感じで見られたかもしれない。
これは一種の罰ゲームみたいなものである。王様ゲームする前から罰ゲームって何だよ、それは…
だが、美子は彼女の本心を見抜いていた。
「何、言っているのよ! どうせあんたのことだから、『私は悪くない、佐那美の所為だから…どうせなら礼君に…』ってスケベったらしい考えに変わっているんでしょ?!」
「なっ?!」
眞智子は図星を突かれたみたいで、それ以上は何も言わず、モジモジしながら下を向いてしまった。
――頼むからもう少し反論してくれよ。
「それで、それをどうするつもりなんだい? まさか全部僕に飲んでくれって言うわけではないでしょ?」
半ばやけになり佐那美に確認する。
「あのね、うちの主力俳優さんにAV男優させるつもりは毛頭ないわよ!」
「――ん?どういうこと」
佐那美が両手を叩いて皆の視線を自分に向けさせる。
「はい、このドリンクはここにいる男子以外全員1本飲み干すこと!」
「はっ?」 「えっ?」 「んっ?」
佐那美以外の全員が理解出来ないで、困惑している。
「だから、みんなでこれ飲んで神守君の誘惑に負けないで一晩過ごすのよ」
…えっ、今なんと?
「あんたらは悶々としながら神守君に耐える、そしてうちの主力俳優は必死で彼女らからの誘惑に我慢する…これって最高のエンターテイメントよ!」
なんて酷い内容だ…眞智子と美子は『あとで覚えていろよ!』という目で佐那美を睨みながら、手を震わせそれを一気飲みした。
だが、あることに気がついた。
「佐那美さんも飲まなきゃ?」
「えっ、なんで?」
「だって、『男子以外全員』っていっていたじゃん」
しばらく考える佐那美、数秒後…
「……あっ、しまった!」
口を咄嗟に押さえて失策に青ざめていたが、彼女らは見逃すわけがなかった。
美子が佐那美の両腕を背後から掴み、眞智子がドリンクを開け彼女の口に注ぐ。
「これは美子の分! そしてこれは私の分だ!」
――気がつくと眞智子は佐那美の口にドリンク2本を注ぎ込んだ。
このドリンクの効果かどうかは知らないけど彼女らの目、特に佐那美が充血しており、ハアハア言い出してきた。
…でも、これって女子に効くのかな。
そう疑問に思いつつも、僕の貞操の危機が高まったのは事実である。
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