第3話 ちょっとだけ遠出
今日も電車で出勤中。
でも今日は少し早く家を出て、少し遠い場所へ向かう。会社ではなく、現場へ。
体と心がつながっていないように、仕事にもオフィスでの仕事と、現場での仕事、この二つが連結していなければ成り立つことはない。
どちらも、というよりも、何事も、繋がりが大事なことは言葉にせずとも明白なのである。
電車の中でスマホや新聞を覗き込み、にこりともしないおじさんたちも、一度仕事関連の人に会えば愛想笑いをする。会社でいばり散らしてみたり、その日のニュースで共感したフリをしたり。
サラリーマンは不思議だ、いろんなものに縛られて、服装も、髪型も、喋り方さえも型にはめられて、仕事内容さえも世の契約によって決められているのに、お金をもらうことで何故か自由になった気持ちでいたりする。
社宅に住んで、家をローンで買った瞬間に転勤されされて、借金に縛られて、会社を辞めるという選択もできずに、死を選ぶ人すらいるというのに、何故かそれでも家族を背負っているという自分へのプライドのようなものだけで毎日毎日同じことをやらされている。
あぁ無情。
誰かが言った。確かその誰かは無職ではなかったか。
そんなことを思い起こして、更にトコトコ揺られる。
朝の電車は満員だ。でも遠くに行けば行くほど、座ってゆっくり考え事ができる。マイインで蒸し蒸しした環境で、向こう側の窓さえ見えず、おじさんのベルトと睨めっこしながら、唯々、時を過ごすことを、心地いいと思えたら、あなたは間違い無く幸せだろう。
週末は気分が良い。
仕事が嫌いだからではない。それでも仕事を忘れられる気がして、なんとなく自由になれた気がするものだ。
時間の価値は人それぞれだ。
あなたの価値も人それぞれだ。
私の価値は、どんなものなのだろう。
そんなことを考えているサラリーマンは何人いるのだろう。
転職でも考えてみたらわかるのだろうか。
厳しい市場の中で、もがいてみたら、自分があまりに価値がないことに気付いて落胆するのだろうか。
それとも、以外とまともだと喜ぶのだろうか。
そう思って周りのおじさんを眺めてみると、みんなつまらなさそうな顔でスマホと格闘している。
白髪まじりのはげ始めた髪の毛、最近はリュックを持った人も増えた。くたびれたスーツ。ふと助けてあげたい気もしてくるが、彼らは実は自分より価値が高いと判断されているかもしれない。
互いに見下しあって、人は生きていく。
東京に生きるとはそういうことなのかもしれない。
この世界にはもっと色々な場所があるのに、もっととてつもない自由みたいなものがあるかもしれないのに、私たちはまだここにしがみついて生きている。
生きるってことは、どれほどに価値に依存しているのか。いやただ自分が価値に依存しているだけなのか。時々わからなくなる。
モノを描きたいと思っても、それ自体が、その行為自体が無意味に思えて、無価値に思えて、電車で移動しているこの時間が、誰かにとってかけがえのないものになっていたら。
どれほど嬉しいだろう。
繰り返される毎日の価値を。自分がどう捉えられるかなんて、わからない。
それはきっと。
わからないモノなのだ。
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