第5話 入学式、新たな出会い


 準備を整えナビィのナビで会場へ向かう。地図を出してもらうだけって事も出来るのだが音声付の方が間違えなさそうだったのでお願いした。


 正解だ。入学式は学院の講堂で行われるのだが、敷地内があまりにも広すぎて地図だけじゃ絶対に遅刻していた。出来るだけ卒業まで目立たないようにしていようと思っているのに最初から遅刻なんて悪目立ちにも程がある。

 終わり良ければ全て良し。なるべく目立たずひっそりと過ごす事が作戦なのだ。


 無事講堂に到着すると空いている席に詰めて座るよう指示を受け、人の流れのままに着席する。


 すると左隣から猛烈な視線を感じ、チラッと目を動かしてみる。


 ───ヤバイ。


 顔が完全にこっちを向いている。二つの目で真っ直ぐこちらを凝視しているのだ。


 ───何なんだっ


 変な汗が頬を伝うがあまりにも過ぎて無視もできない。


 ───俺はまだ他人との接し方が分からないんだよ!! 勘弁してくれ……


 そう思いながらハァと大きく息を吐き出し、意を決して視線の方へ顔を向ける。


「何だ?」


 と声を掛けると同時、相手の顔がずいっと近付いてきた。


 思わず体を仰け反らせて距離を取るとさらに覆い被さるように近付いてくる。


 驚きで目を見開くと───


「キレイ……この目の色、見るの初めて」


 どうやら俺の瞳に興味深々な様子だが、息が掛かる程に顔が迫り俺の背はどんどんと仰け反っていく。


「ちょっとナナ、いい加減にしなさい」


 そう注意されて目の前の顔が離れていく。


「行動も言動も、あなたの悪い所が全部出ちゃってるわよ。いつも言ってるでしょ」


「……ごめんなさい」


 ───俺にじゃないのか!?


 心の中でつっこみを入れながら唖然としていると、今度は右隣から声を掛けられる。


「おいおい、ヤローに寄り掛かられても全く嬉しくないんだよね。だから早くどいてくれるかい?」


「あ、あぁ。悪い……」


 ───何で俺が謝ってんだ……


 椅子に座り直して相手を見やる。彫りの深い端正な顔立ち、赤髪に褐色肌の随分とキザそうな男が隣にいた。


「何ならその可憐な美少女双子ちゃんの隣を譲ってくれると嬉しいんだけど」


「双子?」


 そう言われてまた左側を見やると、確かに瓜二つの同じ顔が並んでいた。


 くりっとした大きな目にルビーのような紅い瞳が輝き、真っ白でキメ細やかな肌に薄桃色の唇がなんとも可愛いらしい。幼い顔立ちと華奢な体躯が相まって確かに美少女と呼ぶに相応しい風貌だ。

 二人の違いと言えば……ナナと呼ばれた少女は薄紫色のショートボブに左目下の涙ボクロ、もう一人の少女は薄桃色のツインテールに右目下の涙ボクロだ。決定的に違うのは二人の着ている制服だろう。


「はぁ……ルル=ヴァレンタインよ。こっちは妹のナナ。この子が失礼して悪かったわね。でも貴方も失礼よ? そんなジロジロ見ないでちょうだい」


「……すみません」


 ───可愛い声して辛辣だな……しかもまた俺が謝ってるし……


「やぁ! 俺はゼルディア=フォン=デゥーイ。ゼルって呼んでくれ。愛らしい双子ちゃんと同級生なんて嬉しいね! 今日からよろしく」


 間の俺をいないものとして話している。こいつも中々にいい性格をしているようだ。


「ナナ、あなたと同じ黒制服よ。よろしくしてあげたら?」


「……興味ない」


「あら、やっぱり私達は双子ね。同じ事思ってる。と、言う事だからお断りするわ」


 ───うわ……俺ならトラウマになるかもしれない……


 でもどうやらこいつは違うらしい。


「そうか、まずは興味を持ってもらう事からか。任せてくれ! 女性に対して努力は惜しまない主義なんだ」


 なぜかニコニコしながら楽しそうに話している。ちょっと尊敬の念が湧いてきそうだ。


 そんなやり取りをしていると一本のアナウンスが講堂内に響き渡る。



『これよりセラフィスタ魔法学院の入学式を始めます』



 一気に静まり返り、皆姿勢を正して座り直す。


 いよいよ入学式の始まりである───





『新入生一同、姿勢を正して起立!!』


 号令と共にザッと一斉に立ち上がる。何百人もの生徒が一糸乱れぬ動きで号令に従う様は、まるで訓令を受けた軍隊のようであった。

 隣に立つ者達も先程とは別人のように真剣な顔付きになっている。


 ───俺だけじゃなく、この学院に来る者はきっと何かしらの強い思いを持ってここにいるんだろう


 それを肌でひしひしと感じた。


「新入生諸君、私は校長のシャルル=バルドイだ。まずは入学おめでとう! 今日という日を無事祝えて嬉しく思う」


 壇上に現れたのは、片眼鏡を掛けた少し神経質そうだが豪快な物言いをする中年男性だ。耳が尖っているのを見るに、エルフ族だろう。精霊とのハーフである彼らは個体数が少なく、その代わりヴィータの中でも魔力は膨大にして強大と言われている。


「さて、本来ならここで私の挨拶なのだが今年は特別な年である。素晴らしい御方から祝言を頂いているので皆しっかりと拝聴するように」


 そう言って校長が壇上の端に移動するとそのいた場所に円状の光が立ち上る。その中から現れたのは……兄、フリティラリアだ。

 正装した姿はうっすらと透けている。多分写し身なのだろう。


 会場に一瞬どよめきが走る。


「まずは皆さん、ご入学おめでとうございます。このヴィタリアの地にある全ての魔法学院が今年で創立500年目を迎え、皆さんはその節目の学生となります。

 魔法学院では節目年を希年と呼び、その年の新入生は希子と称されます。希な者が多く希な事が多い年とも言われ、その注目度はかなりのものでしょう。

 ですが皆さんのする事は歴代の先輩方と何ら変わりません。セラフィスタ魔法学院の一員としてしっかり勉学に励み、仲間と共に切磋琢磨し、有意義な学生生活を送って下さい。

 皆さんに女神の祝福があらん事を、祈っております───」


 天使のような笑みを携え、その場から兄の姿が消えていった。


 周りの音に耳をやると鼻を啜る音が至る所から聞こえてくる。どうやら兄の言葉に感動し、涙しているようだ。

 まぁ無理はない。カノンの話では、兄を拝む事やまして声を聞く事など滅多に出来るもんじゃないらしい。そんな人物がいきなり現れ声を掛けてきたのだ。そりゃ動じるなって方が無理だろう。



 皆が落ち着くまで少し間を置いて校長が戻ってきた。


「諸君、私からはもう何も言う事は無い。フリティラリア様の御言葉をしっかり胸に刻むように。以上!」


 そして壇上から消えていく。随分とサバサバした人物のようだ。



『それでは新入生代表挨拶へと移ります。一同着席!! 代表者、前へ!』



 ザッと皆一斉に着席し、その中で立ったままの一人の人物が「はい」と言う返事と共に歩みだす。


 壇上に向かうその人物を見て、俺は目を見開いて驚いたのであった───


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