第4話 出会い


 ナビィのナビで無事部屋まで辿り着くと、荷物を置いてベッドに腰掛け一息つく。


 まるで腕輪の中に本物の妖精が入ってるみたいで未だに理解が追い付かない俺に向かってナビィが元気良く話掛けてきた。


「ようこそクロス! ここが今日からあなたの部屋よ! 壊したり傷付けたりしなければ自由にカスタムしていいからね☆」


 好きにして! と言われたが、正直そんな必要がないくらい全て綺麗に揃っている。シンプルな家具備え付けのワンルームって感じだ。


「それじゃあ今から約二時間は自由行動だよ! 荷物を片付けるもよし、色々見て回るもよし、自由に使ってね! オススメは食堂でお昼ご飯だよ! 一日3回、全施設共通で無料で定食を食べられるし、食堂利用の代わりにお弁当を買う事も出来るから毎日活用してね☆ 足りないお金は腕輪に記録して後日請求になるからその際はお店の人に腕輪を見せてね! それじゃあまた案内や説明が必要になったら呼び出して! バイバ~イ☆」


「………」


 ───キャッピキャピだな……とりあえず色々見て回るとするか。荷物も少ないし、腹も減った事だし


 そう思い、俺は色々見学しながら昼食をとろうと部屋を出たのだった。





 ◆





 ───参った……


 俺は人混みがダメなんだと初めて知った……。丁度昼時な事もあって食堂は人で溢れ返っていた。


 早々に定食を諦めて近くの売店でサンドイッチを買ってみる事にする。

 俺はフランスパンに具材がたっぷり挟まったサンドイッチと飲み物を手に取りレジへと向かった。

 学院も含めて施設内では全ての精算を腕輪でするらしく、腕輪のガラス面をスキャンされると無料一回消費と¥120と表示され、一瞬で初めてのお使いが終了した。



 部屋に戻ろうかとも思ったのだが、せっかくなので少し敷地内を散策してみる事にした。天気も良いのでどこか落ち着く場所があればそこで昼食をとろうと思ったのである。


 エントランスに行くと受け付けも終わったのか片付け始めている。人もちらほらいる程度だ。


 俺は外に出て正面入り口から裏側へ行ってみようと舗装された道を進んでいく。すると途中で小道がある事に気が付いた。


 気になって行ってみると、その先は綺麗に剪定された円形の庭園が広がっていた。木々に囲まれたそこにはベンチも置かれ、憩いの場となっている。


 誰もいないし丁度いい。ここで昼食をとる事にする。


 ベンチに腰掛け空を見上げると急激に体から力が抜けていく。はぁ……と深く息を吐き出すと思ったよりも気が張っていた事に気付いた。


「この景色だけは一緒だな……」


 空と木々の見慣れた光景に安心感を感じながら、俺は買ったサンドイッチを食べようと袋に手を伸ばした。


 その時───


「うわぁぁぁっ」


「───っ!?」


 ドサッと目の前に人が降ってきた。


 驚きすぎて思わず跳び上がってしまい、その拍子にサンドイッチも跳んでいく。


「いったたた……腰打った……って、えぇっ!! 人!? ご、ごめんなさいっ! 大丈夫ですか!?」


 落ちてきた相手は俺を見るなり血相を変えてガバッと起き上がる。


「えっ……あぁ。いや、俺よりもあんたの方が……大丈夫か?」


 そう声を掛けると少し目を見開いた気がしたが……立ち上がりながらパンパンと服の汚れを払い落とし、恥ずかしそうに笑い掛けてくる。


「いやー、恥ずかしい所を見られちゃったね。木の上で猫が鳴いてたもんだから助けようと登ったんだけど……自分は落ちるし猫は驚いて跳んで逃げてったし、いやはやお恥ずかしい」


 はははっと笑って後ろ頭を掻いている。


「魔法を使えば簡単に降ろせたんじゃないのか?」


「例え些細な魔法でも入学前に敷地内で使うのはどうかなと思ってね。あ、僕はセシル=エクレール=アクアマリン。水の都【水の庭園アクアガーデン】出身なんだ。今日この寮にいるって事は君も新入生だろ? 二・三年はまだ休みだからね。よろしくお願いします」


 にっこり笑って片手を差し出される。


「クロス=リーリウムだ。よろしく頼む」


 そっと手を出し軽く握るとしっかりと握り返される。


 ───なるほど、挨拶はこうやってするものなのだな


 その時初めて目の前の人物をちゃんと見たのだが……兄とカノンが基準の俺でも美しいと思う成りをしていた。


 薄水色の淡いストレートヘアは一見するとショートヘアだが後ろに細長く一本、髪が束ねられている。水面のように煌めく髪に透き通った白い肌、男とも女ともとれる中性的な顔立ちに宝石のように深い蒼色の瞳が優しげにこちらを見つめている。

 身近にあの二人がいなければ俺も見惚れてたであろう程の美形だ。


「クロス、僕の事はセシルと呼んでくれ。それと、さっそくだけど君にまた謝らなくちゃ……」


 そう言って芝生に転がったサンドイッチを拾い上げる。


「あー……まだ包みを開けてないから大丈夫だ。気にしなくていい」


「そういう訳にはいかないよ……じゃあこうしよう! 実は僕も丁度お昼にここへ来てたんだ。せめてものお詫びで君のと交換してくれ」


 半ば強引に胸元へ袋を押し付けられ、引き下がる気の無いセシルの様子に仕方なく受け取る事にする。


「……じゃあお言葉に甘えて」


「うん! そうしてくれると助かるよ。それじゃ、僕は先に寮へ戻るね。制服が白だから汚れが目立っちゃって……式の前に着替えないと」


 そう言って去って行くセシルの姿を見送りながらなる程と理解する。黒制服は黒魔法使いダークウィザード、白制服は白魔法使いホワイトウィザードなのだろう。

 混合の魔法使いもいるはずだが、魔力の根源はその見た目に顕著に現れる。黒魔法使いはある一定の魔力になるとそれ以上は見た目での力量を測るのが困難になるが、白魔法使いは逆に魔力が強くなればなる程その容姿も洗礼されていく。

 白制服にあの見た目だ。相当な白魔法の使い手なのだろう。


 そう思案していると唐突にナビィからナビが入る。


「やっほー! あと一時間で入学式が始まるよ! 30分後には会場に向かうから、しっかりと準備しておいてね☆ あ、武器は持ち込み禁止だよ」


 それを聞いて俺は慌てて昼食を済ませ、急いで部屋へと戻るのであった───




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る