第3話 新たなる場所

 

 目の前にメイド服を着た少女が立っている。


 ───誰だ!?


 と驚き固まっていると……


「クロス=リーリウム様。主様の命により、これから魔法学院セラフィスタへお連れ致します。荷物は馬車へ積んでありますのでどうぞそのままお乗り下さい」


 無機質な表情、無機質な声でそう伝えながら馬車の扉を開いてくれる。


「えっと……今後の事とかあまり把握してないんだけど……」


「詳しい説明は移動中にさせて頂きます」


 だから早く乗れ───


 彼女の表情がそう言っている気がして、俺は大人しく従う事にした。




 揺られる事しばし……。彼女と話して分かった事は、彼女は兄の魔法なのだそうだ。人型をしているのは今与えられている命令が関係しているらしい。


「それではクロス様の今後のご予定を主様を代弁して伝えさせて頂きます。大まかにご存じでしょうが、確認のためにもお聞き下さい」


「分かった」


「ではまずこれからの流れをお伝えします。この後14時より学院の入学式及び説明会がございます。その前に学院付属の寮へと入所手続きを済ませ、荷物の搬入を行って下さい。そこでの詳しい説明は手続きの時にして下さいます」


「それはカノンから聞いてるな。書類を渡してサインするだけで大丈夫だって言われてる」


「はい。この学院は全寮制になっていますので入寮時に書類と交換で学生証が渡されます。本人確認も兼ねてるとの事です」


「それは聞いてないな……大丈夫かな……」


「くれぐれもご自分の身分は明かされませんようお気を付け下さい。クロス様はこれより三年間、まずはリーリウム様として学院を卒業、次に大学院への進学を目指して頂く事になります。学院から大学院への進学率は1割程度です。狭き門である事をしっかりとご自覚下さいませ」


「それは心配いらない。俺にとって学生生活は通過点に過ぎないんだ。進学でつまずいてなんていられないんだよ」


「……愚問でしたね。さて、そろそろ到着です。ご準備下さい」


 そう言われて外を見るともう目と鼻の先に目的の場所が迫っていた。





 ◆






「ありがとう。助かったよ」


 馬車を降りて荷物を降ろし、お世話になった彼女にお礼を伝える。


「主様の命に従ったまででございますので」


 無表情無機質な声音でだがお礼の言葉は受け取ってくれたようだ。


 ふと、魔法といえども人の姿をしたこの少女に感情等はあるのだろうか? と疑問に思う。


「あとこちらを。主様より預かってございます。“学生の生活を楽しむ事もまた勉強”との事です」


 差し出されたのは一枚のカード。受け取って見てみると俺名義の金庫カードだ。

 頼る者がいない中、お金にだけは困らないようにって事なんだろう。正直、世間知らずな自分にはありがたい。稼ぐ方法も分からないのだ。

 ここは意地を張らず素直に受け取っておく事にする。


「有りがたく受け取らせて頂きますと伝えてくれ。甘えてばっかで申し訳ないんだけど……」


「……甘えれる時は甘えた方が宜しいかと。その方がきっと主様も喜びます」


 そう言う彼女の声が少し優しく感じた。

 きっとさっきの疑問の答えもこれから学んでいくのだろう。そう思い、今一度気合いを入れ直す。


「それじゃあ行ってくるよ」


 頭を下げ見送ってくれる彼女に背を向け、俺は新たなる場所へ足を踏み出したのだった───





 案内板を見ながら何とか寮まで辿り着くと、すぐさまエントランスに備え付けられた受付へと並ぶ。窓口がたくさん設けられていたため直ぐに自分の番が回ってきた。


「書類をお預かりします。この水晶に左手を乗せ、今からする質問にお答えください。お持ちの武器はこちらに乗せてください」


 言われた通りに水晶に手を乗せ、剣を指定された位置におく。


 ───これ……もしかして嘘発見機的な魔道具か? 左手なのはきっと心臓が近いからで……武器もスキャンされて調べられてるしな……


「ではお答えください。黒魔法使いダークウィザード、クロス=リーリウム。出身はアークエデンの外れにあるシュッツァ村。所持武器は剣一本。間違いないですか?」


「……はい」


 ───半分は間違いだよ!! 嘘発見機だったら一発アウトだよ!!


 冷や汗が止まらない。次の言葉を待つ時間が永遠のようだ。


「……確認しました。入学おめでとうございます!」


 ───あれ? 大丈夫……なのか?


「剣の検品も終わりましたのでお返し致します。そして、こちらが学生証になりますね。腕輪になっていますのではめてください。本人以外が付けても起動しませんので万が一無くしても心配いりませんが、ルームキー等色々な機能が付いてるので再発行までは時間がかかります。気を付けて下さいね」


「分かりました」


 俺は返事をして左手首に腕輪をはめる。すると自分の腕のサイズにピッタリとフィットしてきた。きっとこれも魔道具なのだろう。


「それでは後程、腕輪のガラス部分にお好きな指を一本当てて下さい。後は指示に従って頂ければ大丈夫です。良い学生生活を送って下さいね!」


「…………」


 すごく良い笑顔であっという間に手続きが終わってしまった。


 ───これでいいのか!? とツッコミたいところだが……まぁ助かったから良しとしよう。それよりも腕輪に指? だったか


 とりあえず言われた事をやることにする。


 俺はお辞儀をしてから列を出てエントランスの端に行くと、人差し指を腕輪のガラス面に当ててみた。


『魔力の流れと指紋を同一人物として登録しました』


 と、腕輪から機械音が流れる。

 そして腕輪のガラス面が発光し、妖精のようなシルエットをした物体が浮かび上がる。


「やっほー! 今日からクロス=リーリウム、貴方をナビするナビィよ! よろしくね☆ まずは部屋まで案内するわ! そこでゆっくり話しましょ♪」


「────っ!?」


 今日何度目か分からない驚きに冷静さを取り戻すまでしばしの時間を有するのだった───




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