第4話 レトロ自販機

 趣味と言うほどの事ではないのだが、私は目的が有ってその場所に行くほどじゃない、それが趣味とは言えない。だがたまたまその地方に行く機会があると大体訪れる場所がある。それがレトロ自販機めぐりと言う趣味みたいなものになってしまっている。自分は中年男性。この年なら大体共有されるかな?と思う。


 昔は、いろいろな食べ物が入った自販機が多数置いてある24時間営業の無人の店が全国にちらほらあった。インベーダーブームの辺りと重なっていて、ゲームセンターが組み合わさった店が多かった。自分が高校生ぐらいまではこういった店がまだ存在していたのは覚えているのだが、ちょうどコンビニが出来る頃になる。


 いつの間にかそういった店が何時まであったのか?知らないほどご無沙汰になって時が過ぎてしまった。ふと何気ない会話でこういった話題になり、そういった店が最早今では絶滅寸前であった事を大人になってから知る。懐かしさで近辺調べてみるのだが、まだ10年以上前になるが、まだその頃はギリギリ近所でも見つけることが出来た。


 何時ごろだろうか?そういった店単位じゃなくて、そもそもなつかしの自販機として昭和の思い出レトロ自販機などと呼ばれるようになってしまった。私もそういったレトロ自販機愛好家として、同じ興味の人達と交流する事になってしまっていた。こういった交流での情報で今回はたまたま群馬に行くことがあり、愛好家の間では聖地とされる店に行くことになった。


 何故聖地なのか?と言うと、店側が昭和村のように記念館みたいに運営してるから、時代の流れとともに消えていくって感じがしないためである。良くそういった話をする相手としてAさんという人がいるのだが、Aさん曰く、


「正直言えばこういう残り方はちょっと違うとは思うんだけどね。生活の中で地元の人が過去の習慣として残していくって形が理想で、そういう店も多々あるんだよ。別の地域からのなつかしの観光客相手って何か違うでしょ?」

「なるほど確かにそれはあるね」


 同意しつつも、店じゃなくて、自販機単位の愛好家になってしまったので、そういうこだわりは私には無い。一度行って見たいなって思いから今回の機会楽しみにしている。Aさんの気持ちも分からないでもない。Aさんは文化としての受け止め方をしてるようで、私はそこまで思いいれはない。なんとなくがかなり大きいんだ。


 到着したその日別に交通手段が無いわけじゃないが、私はレンタカーを借りた。元はドライブインなのだ。なんだかんだ言って私はAさんに影響を受けている。行くのに面倒なのもあるだがそれはやっぱAさんの文化論には興味は無いとするポーズに対する言い訳みたいなもので、心のどこかでは私も自販機単体より場所としての昭和のノスタルジーに浸りたいというのがある。


 そもそも私が自販機単体に興味を持つようになったはAさんの影響が大きい。


「レトロ自販機と言うけど、実際は皆が共有してるイメージとしてドライブインの自販機に偏ってるんだよね。実際は普通自販機と言えば飲料だと思うんだよ。実際ちゃんと今でも古い型の飲料のレトロ自販機もちゃんとあるんだよ。ただ正確には現役じゃないけどね」

「どういう事?」

「マニアの人が維持してるって変り種が大半で、日本の秘境のような田舎で新しい自販機にするのもなんだからと現存してるわけじゃないんだよ」

「消費税とかでそれはそれで問題でしょ?」

「まーね、マニアの人は採算度外視で当時の値段でやってるよ。多分中の表示ぐらい変えるの簡単だからさ、イメージの問題で当時の値段でやってるんじゃないかな。幸い日本デフレだから。当時ちょうど物価が上がり始めたので、それほど痛手じゃないのじゃないか?とは思うけどね」


 いつか私も言ってみようとは思うけど、確かに意味合いが違って残ってるじゃなくて、残してるって自販機は何か違うなと思う思いがある。もちろん今から行く場所もそうなのだが、その店は昔からやってるのが違う。マニアの人は全国から集めて名物コーナーにしてるらしい。まだいった事は無いので詳しくは分からないのだが。元からその場所にあったものじゃないのは確かだ。


 早速見えてきた。車を止めて中に入ってみる。閑散とはしてないな。愛好家じゃなくても、関東なら興味本位でそれなりに人は集まるんじゃないか?とは思う。これは本当の田舎じゃ出来ないな。って本当の田舎ってなんだって話にはなるが、関東だってのがキーで、


 地方都市ってのはどこも似たようなところがあり、人口が密集する地域の地方都市と、ポツンとその地方都市だけが、孤立して人口が多い県では大違いになる。実際店などの新陳代謝がはやそうな関東がこの手の店がまだ残ってる数が一番多い。ただ西日本に較べると東日本の方が東北を含めて残ってるのですんでる人間の癖みたいのがあるのかもしれない。


 一度たまたま見たTVで東北のそういった店が取り上げられていて、データ的に数多く残ってるだけじゃなくて、多分何かしら住民の癖みたいのがあるのか?と考えてしまう。つい考えてしまうのは縄文系?こういったものを考えてしまう。西と東で違う住民性といえばついこれを連想してしまう。


 私は、実際この手のは結構食べてるので懐かしさに心動くってほどじゃない。なんとなくスタンプラリーみたいな気持ちがある。早速店に入り自分の中での定番のハンバーガーを食べてみる。ただ待ってる間のワクワク感はまだあるね。子供の時の記憶がある。親戚のお兄さんに連れられてゲームセンターに遊びに行くついでに行った場所がレトロ自販機の店だった。


 目的はゲームを大人のお金で好き放題遊べるって方だった。あくまでついでに過ぎなかった。でも食べ物の自販機ってのが衝撃的だったのはある。お金を入れて蓋を開けて新鮮なサンドイッチやおにぎりなどを買うって自販機は小さな子供の頃に食べたことがある。ただそれは、店の人が一日ごとに入れ替えてるのがすぐ分かる。


 セットしにくる人はいるんだろうが、私はさすがにそこまでは愛好家ではあるが知らない。それでも24時間営業で放置してるというのはおそらく毎日ではないだろう。私の知っていたのは、店の前においてあったもので店員さんがいるのに必要あるのか?と言うものだった。入れ替えてる人の顔が見える。子供心にそれはなんとなく分かっていた。


 でもレトロ自販機は当時のSF感のような自動化オートメーション社会。そんな未来観を感じさせてくれるものだったんだ。悪く言えばゲームと組みあわさって人の温かみがしない場所だった。それが良かったんだ。それが今ではレトロって言うほんのり暖かい懐かしさのする場所に変わってしまうとは。


 実は味の方は、これ懐かしさは無い…。コンビニでミニストップなどハンバーガーを提供してる店じゃなくて、今でもあるのか知らないけど、レトロ自販機を探し始めた頃にあったコンビニの電子レンジで温める惣菜パンと一緒に売ってたハンバーガーとすごく味は似てた。多分思い出効果なんだろうな。


 子供の頃の好きな雰囲気もあり、そういった相乗効果で妙に上手かった記憶がある。当時から分かっていた事で、一緒に連れて行ってくれたお兄さんが自販機カレーを食べたときに、上手いな顔で食べていた私に言った言葉が


「これなただのボンカレーだぞ」


 信じられないってならなかった。それを言われたら


「あ本当だ」


 自分でも分かってしまった。ボンカレー独特の味。当時レトルトの種類が今ほど豊富じゃなくて、基本レトルトカレーはボンカレーを食べる機会が多かった。本当にただのボンカレーの味そのもので、私はボンカレー母親が作ってくれるカレーより美味しいと思った事は無かったんだ。外食で食べるカレーに匹敵するなんて思ってしまった自分がなんとなく恥ずかしかった記憶がある。


 それでもすべてのものが上手く感じれた記憶があった。それがコンビニで食べたら、ああこれ独特の味って電子レンジに近い何か熱処理してるんだな?と今は推測している。レンジでチンした感じがすごく似てるんだ。パンの独特の加熱感だけじゃなくて肉の味まで似てた。なんかいつでも食べられるとなるとどうもね。


 それでもハンバーガーは良い思い出が消えてしまって今日は久々食べる。コンビニのレンジでチンのハンバーガーを最近食べてない。今あるのか?しらないぐらい食べてない。それで久々食べたくなった。


 うん懐かしい味だ、上書きの上書きしてやったぞ。どーだコンビニハンバーガー!


 私は再度夜に行くことにして帰った。また夜になってその店を訪ねた。やっぱAさんの影響なんだろうな。人の違いをみたくなったんだ。昼の客が微妙に興味本位の客層の気がして、人が閑散と擦るだろう11時ごろにわざわざ出かけた。こんな時間でも人は要る。店内を見渡すと、何か利用してるという生活臭がする。


 何が違うの?モクモクと食べてる。私もがっかりボンカレーを彼らと共にモクモクと食べた。


「ああこれ懐かしいね」


 昼にはこんな感じの集団の会話がちらほらあった。何か当時のワクワク感がこれじゃ足り無いんだよな。珍しいレアものレトロ自販機もあって来た意味は有るのだが、それでもやっぱり私もAさんに言われたからが大きいが、そういうの意識するようになってしまったのがある。


 今なら多分大半の人は24時間営業のコンビニに行くだろうな。最近は駐車場を広く取ってドライブイン的な意味合いを持ってるコンビニが増えたから。いずれは絶滅する必然ってのはなんとなく分かる。何故ここが残っていくだろうと思ってるのは、やはりその差なんだよな。


 私はその光景と同化した事に満足して帰った。戻ってAさんと話した。


「Aさんの言う文化の継続って少し分かった気がする」

「でしょ?ただそこに珍しい自販機があれば良いってだけじゃ駄目なんだよ」

「いつまで残るのか?分からないけど、そういった生活臭やある程度繰り返し来てるような客の雰囲気を今度から感じ取ってみるよ」


 私は昔から、自分の好きな弁当がコンビニから消えてしまうので、嫌な気持ちになる事が多かった。私は売れ線の好みとずれている。なんとなくあれと同じものを珍品自販機を愛でる愛好家として興味本位で居たのに、今回の訪問で少し別の感情を持つようになってしまった。

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