第41話 一発勝負
「夢の中で生きた方が楽なのに…なんで目が覚めちゃうのかな」
「ヨゾラ…」
寂しげな声で呟いた後、顔をあげた彼女と目があう。怒りや悲しみは感じない。まだ出会って間もなかったしな俺たち。感化魔法のこと知りたかったけど、あまり話すことすらできなかった。
「私はずっと夢を見ていたい。励ましてくれたあなたにこれからもずっといてほしい」
トルネードが消え、可燃性の泡が小さな雲のように教室に広がり焦げ跡を残して消えた。俺もお前たちの心に傷を残して消えていく。自分の夢を叶えるときにお前たちが隣にいないとは思っていた。だって、俺は今回の件がなかったとしてもノートと旅をするために世界へ出ていくつもりだったから。でもそれを裏切りではなく別れとすることができるのではないかとどこかで思っていた。
多様な選択肢の中で俺だけが焦り、俺だけが時間に追われて、みんなの思い出さえも汚してしまう。
「ごめん」
複雑な心境。語りたい言葉の多くを代弁するのはたった3文字。この文字数でどれだけの思いが伝わるだろう。伝わるはずもない。もっと言葉にしなければ、焦る心に反して固まる拳。口が動いても声がでない。なんていえばいいのかを考えてしまう。非力な自分が悔しい。
「…いや」
首を振るヨゾラ。しまいには手の甲で顔を拭き始めた。泣いている。余計わからなくなってしまった。
「そーだヨゾラ!もっと言ってやれ!困らせてやれ!このクソ男ってな!」
ヨゾラの隣を突風のように通り過ぎ、固まっているルーク博士に文字通り鉄拳を食らわせる嵐のような男レグ。魔法が通用しなかったあの巨体が床に倒れた。よく見ると、彼の拳だけでなく肘まで全て鉄で覆われるように進化している。
「学長がよお、あらゆる不自由さの元凶は魔王にあるって言ってその疑いがある者を捕らえるのが学校システムのもう一つの目的だって言ってたぞ」
強くなるのは俺だけじゃない。
「でもよお、魔王がいなくても灰は降るだろって話だ」
倒れた博士の衝撃で床の埃が散る。
「俺は魔王を言い訳に使わねえ。だからお前が魔王の子だなんて関係ねえ」
そう語ってはいるが、レグの瞳は怒りを帯びていた。何も抵抗しない俺はそのまま彼に頭を押さえられ頭突きをされる。
「いっ…!」
声が漏れた。こいつ頭にも魔法をかけているんじゃないかという硬さだ。
「けど友達泣かせる奴は許さねえ。俺は全力でお前を止めてやる」
涙を拭うヨゾラを背後にレグの魔法が発動する。
「≪失われし記憶のかけらよ。我に力となる断片を授け給え≫龍尾」
彼と同じ横幅がある尻尾が現れ床を試し打ちとばかりに叩きつける。様々な薬に耐えられるよう衝撃に強い存在となっているはずだがヒビが入り砕けたことがわかった。焦げ茶色の尾が持ち上がる。
「勝負だ。リア」
悪いがそれはできない。俺はお前との勝負に決着をつける必要がないし、戦う理由もないんだ。
「俺がすべきことは博士を止めることだ」
「やってみろ!」
尾をバネにして飛び掛かるレグ。彼が向かってくると同時に止まっていた博士の時間が動き始めた。真下に下ろされた拳がレグを潰す。緊急回避で尾を体に巻いたからか彼の体に怪我はない。
「なんで今起きるかな」
「レグが殴ったから…」
「俺のせいなの?!」
「嫌な魔法だ」
博士はゆっくりとヨゾラに視線を移す。やられる、その直感が俺に先手を打たせていた。
「≪聖なる水よ我が力を糧に友を守れ≫水の大壁」
大量の水がヨゾラと俺たちの間を隔てるのと博士が薬を飲み炎を吹き出すのは同時。属性有利のおかげで防ぐことができたといえる。
「僕に過去の記憶をみせるとはね。それで心も若返るとでも?否、憎しみが更に膨れるだけさ」
博士は嵐のような咆哮をあげる。また地震が起きた。しかも今度は理科室の天井が崩れ落ちる。俺たちを照らすものは最早月だけではない。
学校は既に真っ赤な炎に4割ほど浸食され、この機に乗じて反乱を計画した一部の者達が教師と争っている。追いコンが催しものではなく、現実の事件として起こっていた。博士は理科室から一気に飛び上がり校庭から本館へ向かう。
「魔法使いを消す。世界の事象は説明できるから素晴らしいんだ」
彼の思考に違和感を感じ始めるが追うにはまずレグをどうにかする必要がありそうだ。
「説得なんて聞かないんだろ?」
「負けた方が勝った方の言うことをきくでいいだろ」
のった。あいつは勿論俺の残留を命令にあげる。
俺の命令は勝ってから語ろう。
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