第28話 凍てついた炎
知れば知るほど大きなため息がでる。
一体どうしてこんなことになってしまったんだろう。何を思っていたんだ俺は。
「じゃ、俺そろそろ行くわ。結構な時間だしな」
鳥や虫の音も止み、まさに草木も眠る丑三つ時となっている。
「こんな時間に外居ることがバレたら危ないんじゃないのか?」
「懲罰房行きかもよ??」
俺たちの心配をそよに立ち上がったレグはニヤリと笑う。
「バーカ。ばれない様に動けってことだよ。≪変化:獣の型≫」
魔法を唱えると同時にレグが手を合わせる。パンと綺麗な音と共に、レグの姿は鼠に変わった。見るからに汚いドブネズミだ。
「うーわバッチイ!」
「失礼だな!この術は最も近くにいる獣に変わる術だぞ」
「シャドラ!鼠を追い払ってー」
鼠の姿になっても会話には問題がないのか。この術は使えるかもしれない。
「俺じゃねえってー!」
叫びをあげながらシャドラに追われ、扉の隙間から必死に逃げていくレグ。シャドラは彼が潜り抜けた扉をすり抜けていった。最も近くにいたのはシャドラだが、黒猫に変身しなかったということは召喚獣は獣ではないという認識なんだな。
それか、先生が言っていたように神として崇高な存在なのか…
「俺らももう寝るか」
「うん!」
すっかり食材がなくなったテーブルに手を伸ばす。
「≪守れ≫水兎」
この呪文は短くて覚えやすい。テーブルの上に弾む水球を作り、食器を中へいれた。呆然とこちらを見るパンプキンの隣で今日の合体魔法に関わる授業を思い出す。この水の中にリラックス効果のある魔法を混ぜた。なら、この中に別の魔法を入れることだってできるはずだ。
羊の書を呼び出して開く。風の攻撃型呪文で、今日知らない奴に教えてもらった魔法
「≪風よ。龍と化した蛇の如く蜷局を巻き、立ちはだかるものを蹴散らせ≫トルネード」
これで自動食器洗いの完成と思った。予想通りにいかないのが魔法というもので…
「キャ!」「うわ!」
食器と水が遠心力で弾丸のように飛んでくる。壁に当たっては割れ、飛び散った水球は服から布団まで濡らし、部屋は突風が吹いた後のように荒れる。
沈黙の中呟いた。
「ごめん」
「いいよ…」
…
翌日、クキュネと同じ授業に向かいながら食器洗いの魔法が失敗した理由を考える。使用者の魔力は同じなのに水球が風に負けていた。というより、あの程度の魔法に負けるような水球何の役に立つんだ?
従者も俺の反撃球を壊すのに初めて使った呪文なんじゃないだろうか。
「おはよう」
クキュネが俺の隣に腰を下ろす。周囲の人たちもある程度2人1組で固まって座っていた。
「おはよ」
「何かクマがひどいのね」
「昨日色々あってな」
食器の後片付けとか、拭き掃除とか。授業の鐘が鳴り始めると同時に鉄仮面がやってくる。
「ランダムで、と私は言ったのだが?」
低い声は怒りを帯びているようだ。一瞬で教室を支配した緊張を壊したのは立ち上がったクキュネだ。彼女は俺を指す。
「こいつに勝ちたい」
こいつ…?まっすぐとした瞳で鉄仮面を見つめる。本当に肝が据わっているな。いざという時に頼りになるだろう。
「貴様の私情ではないか」
「でも誰も彼に声をかけなかった。みんな負けるのが怖い、恥をさらすのが怖い。私は彼と力量差があろうと怖くないし、負ける気もない。授業というなら次のステップへ進むのに確実に活かせるこの機会を潰さないでほしい」
「なるほど、いいだろう。ならば今回ペアを組んでいる者全員認める。君の名は?」
「クキュネ・リガード」
「リガード家の者か。承知した。君の挑戦は皆にも見てもらおう。二人ともこちらへ」
また注目される。嬉しくない思いもあったが、それ以上にクキュネの覚悟が伝わってきた。彼女の思いに真剣に向き合うために、今持っている力を全て出そう。
俺が思う一番強い魔法…それは
「一応授業だから言っておくけど、私は氷魔法を使う。リアは?」
「炎の魔法だ」
「そう、なら…凍てついた炎を作りましょう」
皆の視線を感じる。あの時のことを思い出す。大丈夫だ、意志を強く持てば乗り越えられる。俺の壁を。
クキュネはレイピアを取り出しまっすぐに構えた。俺も羊の書を取り出す。
「≪大気に潜む水よ。我が魔力に従い意志の矛となり、悠久の時を超える氷塊と化せ≫」
桜色の目が俺を見つめる。
「ダイヤモンドダスト」
キラキラと彼女の周囲が輝きだす。そして氷は閃光となり、瞬きながら飛んできた。光が駆けた跡に大量のアイススパイクが伸びる。氷柱と反対に天へ向かって伸びる氷だ。
こんな立派な魔法にレベルの低い魔法をぶつけるのが申し訳ない。
「≪炎よ滅せ≫フレイム」
伸ばした手から渦巻くように炎が上がり、氷の閃光に衝突した。
俺はこの炎が怖い。
前世の俺を滅ぼした呪文。これからもずっと、この炎属性最弱魔法に俺は震え続けるだろう。
「馬鹿にしているのか…!」
クキュネの悔し気な表情がより強く氷に力を与えた。波動のようにぶつかりつづける俺たちの魔法だったが、僅かに押される。
「そんなことねえよ。確かに最弱魔法かもしれないが、お前みたいに思いが重なればその魔法は威力を増すだろう?俺にとって、この魔法は脅威なんだよ。他の魔法に特に思いなんてないし。気持ちを加えることができるこの魔法は今の俺にとって最強だ。一番嫌いな魔法だけど真剣にやってんだよ!」
炎が勢いを増す。皮肉なことだ…
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