第27話 世界の姿
灰は雪のように溶けることがなく、柔らかくもない。
永遠に残り続け、さらさらとした軽い素材で空中を舞い、人々の中へ空気と共に侵入する。顕微鏡を使ってよく見るとその姿が鉱物から成り立っているいることもわかるのだ。雪と対を成す攻撃的な灰は儚さのかけらもない。
それはスノーランドも同じだった。
この地特有の石化症という存在についてレグは話し始める。石化症は子供に多く発症する病だった。理由は幼い子に灰の危険性が上手く伝わらないところにある。レグ自身も子供の時、道端の石像がかつては人だったなど考えたこともなかった。必ずつけるように言われていたマスクを外して遊んでいたという。
それが一夜にして地獄へ変わってから、彼は地下に引きこもったという。
「妹がいたんだって言えばもう想像つくだろ?」
俺もパンプキンも目をそらしてしまう。食後のお茶もすっかり冷めてしまっていた。
「想像通りだよ。あいつは、今も公園の噴水に手を伸ばしながら固まっている。一説には天使のようだと言われてるらしいがな」
くすっと笑ったかと思うと、その表情は悲しく歪む
「自分の妹が…そんな風に注目されるなんて、すげえ嫌だよ」
今も、自分が子供の時にしたように悪戯をされてしまっているかもしれない。実は体が動かないだけで感覚や思考は正常なのかもしれない。わからないことだらけの病気なのに伝染を恐れて医者はこないというのだ。
「石化を解く方法を見つける。それが俺の目標だ」
今は決意の表情が見えるが、彼が涙を流しながらこの地へ来たことがわかる。
レグ自身が一番感じているはずだ。自分は綺麗な言い訳をみつけ、あの街から逃れてきただけだ。という罪悪感を。
「下層からここまではどうやってきたんだ?」
「はあ?お前何にも知らないんだな」
「各層の各層の移動は基本的に大扉を使うんだよ。リアも使ったでしょ?」
「ああ、アンドニウスの扉か」
二人は首を傾げる。
「アンドニウス?」
「誰だそれ」
「あの扉の管理者だろ?29番目の魔導士」
「扉を入る前に目的地を決めよ。さすれば道は開かれる」
パンプキンが呪文のようにつぶやいた言葉にレギが頷く。
「扉の先はもう別世界ってわけ」
「じゃあ、2人はあいつに会ってないのか?」
「ないな」「ないね。むしろ生きてんだ―って感じ」
彼に出会う基準は一体なんだろう。出口を決めずに入ったからだろうか。
まるで呼ばれたようじゃないか。
「基本的にってことは扉を通らない例外があるのか?」
「ある。しかも色々な」
頷くパンプキンにシャドラがすりつく。
「狭間の世界に落ちるとか、冒険者用テレポを使うとか」
「狭間の世界って?」
本当に何もしらない俺にレグはノートを広げて意外にも上手な絵を描く。ひし形が描かれ、それを囲むように描かれた巨大な丸。一番上には楽園を、最も下には荒廃した街を表現する。
「お前の地下層がここ。天ノ都がここ」
「天ノ都?」
「世界の末端と頂点にはそれぞれ対なる魔法が存在すると言われている。天ノ都は常に陽が指し草木が歌い、世界の全てが存在しているって話だ。ここに現国王がいる」
「天ノ都から下の層は池を覗き込まないと見れないらしいよ。でもわざわざ下を見る人なんていないし名ばかりの国王様だよ」
下に行けば行くほど闇に近づいていくのか。対なる魔法も気になる。
「で、話戻るけど狭間の世界はこの世界そのものを覆ってる別の世界。もし入ることができればどんな場所にも行くことができるらしい。その世界から抜け出すことができたなら」
含みのある言い方だ。シャドラを撫でながらパンプキンは答える。
「ここは、召喚獣の住処なの」
ああ、なるほど。俺はマーラを思い出す。あんなのに襲われても正直勝てる気がしない。しかも、1匹や2匹じゃなくうようよいるということだろう。出口を探して彷徨いながら、恐怖に打ち勝たなければ帰ることはできない。
「帰ってこれたら英雄だな。32番目の魔導士は狭間の世界によく潜り込む奴だったらしいけど」
「すごいな」
「天才召喚士なんだよ。狭間の世界で何匹も新しい召喚獣を従えてきてたんだ」
「でも、ある日突然戻らなくなり彼の魔導書が読めるようになった。狭間の世界で死んだんだ魔導士さえも」
わざわざそんな恐ろしい場所に行くなんてどんな感覚の持ち主か疑いたくなる。
俺はマーラを思い出した。有害な魔物は魔法使いに討伐依頼が出され、今の俺たちのような学校に通う魔法使いが倒しにいく。魂を喰らうというのにあいつは全く存在を知られていないようだったから討伐依頼にはあがってないということだ。しかも、過去に悪さもしていないのだろう。
1つの可能性が浮かび上がる。
「パンプキン、召喚獣とはどうやって出会うんだ?」
「んー?基本的には彼らの遺物を身につけて祈ることかな」
「遺物…?」
召喚獣についてはレグも詳しくないようだ。顔が引きつる。
「遺物に思いが宿って特別な力を持った召喚獣が来てくれるの。私たちの思いを餌に力を貸してくれるんだよ」
「じゃあ、あの授業にいた奴は全員…」
「あーあれは特別だね。来る途中に鍵穴がたくさんあったでしょ?あの中全部に遺物が入ってるんだよ」
目が点になる俺たちは顔を合わせる。
「で、先生の魔法陣で召喚獣を呼びやすくするってわけ。あの方法だと強い召喚獣は手に入らないけど、自分に合う末端の召喚獣と仲良くできるの。彼らとの絆を深めれば更に上級の召喚獣とも会えるってわけ」
なるほど。だから俺に向いていないと言ったのか。
それにしても時間がかかりそうな授業だ。俺がマーラを呼ぶことができた理由は他にありそうだな。
考えていることを悟ったのかパンプキンが続ける。
「最後は直接彼らに会って契約する方法」
「契約?」
「win-winの法則だよ。力を貸せばお互いにとって良い関係になることを提示して説得するの。相手はなんだかんだ言って魔物だし、人間の思考を理解する魔物は上級だから難しいっていうけど」
なるほど。これに違いない。
前世の俺はマーラに他人の魂を差し出すから力を貸せと、悪魔の契約を結んだんだ。
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