第22話 怪しい関係
フラスコの中に入ったオレンジ色の液体を揺らす。
これは博士が身体能力強化薬の試作にあったオレンジの液体と同じものだった。黄色の花…太陽花には免疫細胞を活性化させる働きがあるらしい。いい花を選んだと褒められた。そしてスネークアイに含まれるのは耐熱性。今回完成したのは風邪薬な気がするが回復薬と言っていいのだろうか。
3つ目の授業では煌びやかな水晶がまき散らしてある廊下を進み、使うことができるのかもわからない鍵穴だらけの廊下を進む。輝く床と異なり、壁の鍵穴は鉄すら錆びていた。各教室ごとに特徴はあるが、この授業はかなり癖がありそうだ。トンネルのような廊下を抜け到着するのは大量の学生が集まる食堂のように広いホール。中心には巨大な岩が飾られている。割れ目からは美しく輝く青い結晶が溢れ出て、光の当たらぬ中さえも宇宙に浮かぶ星のように瞬いていた。
「あー!リアじゃん!」
パンプキンの高い声と共に黒い狼程大きい猫が駆け寄ってくる。普通の猫と違うのは、それが実態を持たない影のように揺れ動くもので目が真っ白に光っていたことだ。尻尾も以上に長いだけでなく、鎌のように鋭くなっている。
避けようとするもあまりのスピードに思考しか追い付かず、見事猫のタックルを食らってしまった。
「駄目だよシャドラー」
後に続いてやってきたパンプキンに許しを乞うように顔を擦り付ける姿は猫そのもの。
そういえば、シャドラってパンプキンが別館の入り口を占拠してた上級生を戦闘不能にするために使った魔法じゃないか?
「って、そうだった!昨日はよくも私に魔法かけてくれたなー!おかげで1限遅刻しそうになったんだよ!」
指さしをくらうとシャドラも戦闘態勢に入る。
「あ、悪かった」
「全然悪そうにしてない!前言撤回、いくよシャドラ!」
影が逆立ち、尻尾が蠍のように持ち上がる。焦りが生まれてきた。本当に戦うつもりか?
「影移し!」
シャドラがドプンと地中に溶け、影となる。俺の方にまっすぐ向かってきた。
「≪光よ≫レイ」
嫌な予感がして反射的に影を退ける魔法を唱える。シャドラは光を強く嫌がってすぐに地中から抜け出し、パンプキンの背後へ隠れた。
「弱虫ー!光に負けるなよー!」
激しく腕を動かす彼女の元でシャドラは耳を垂らす。
「勝てないとその猫が感じたから逃げたのさ」
「ヨワイヨワイ!」
間に入る前髪が上がった青年は雷を迸る、その名の通りオウムの姿をした雷鳥を連れていた。
ここってもう召喚獣を連れている奴がくる場所なのかと思い周囲を見渡すが半数ほどは何も連れていない。
「君~」
面倒臭い感じがする男は俺を指す。上がりきっている前髪を更にかきあげ、顎を45度上げて含み笑い。
「召喚獣を連れていないようだが、授業内容を読んだかい?1回目の授業で召喚できなかった者は受講権限を剥脱するとあっただろう。召喚獣には召喚獣を、これ基本ね」
「はあ」
金髪といい制服に合う白いインナーといい、よっぽど目立ちたいようだ。
更に話を続けようとする口を黙らせるように鐘が響き、ホールの天窓から巨大なモモンガに乗った先生がやってきた。教師とは思えないほど小柄でペロペロキャンディーを舐めている。
「今召喚獣を出してる奴は帰ってもいいぞ」
第一声に驚く。彼女がモモンガの頭を撫で、床に魔法陣を描き、白紙を配る間に召喚獣を出していた生徒の多くが教室を出た。帰った者には先ほどの面倒な男も含まれている。
幼い教師は熊の耳がついたモフモフと柔らかい帽子をとり汗をふくと、ようやく長椅子に座って生徒と向かい合う。
「残ったのはこれだけか。じゃあ、次。召喚獣を出してみて」
出してみてってどうやるんだ。説明が漠然としている。パンプキンは早速シャドラを召喚し、触れ合っていた。周りの者にも似たような天才肌がいるが、俺と同じように召喚できない者も多い。
「この部屋にくるまでに鍵がたくさんあっただろう。あの中にはたくさんの魔物の好物が入っているんだ。だからこの部屋は元々色々な魔物が召喚しやすくなっている上に、私の魔法陣で魔物を呼び寄せることを可能にしているから波長が合う子はすぐに来てくれると思うよ。おいでーって言ってごらん。それぞれ友達になりたい召喚獣はいると思うけど、彼らの姿は浮かべない方がいい。当てはまらない子は拗ねてこなくなっちゃうから」
才能がある人に困るのはこういう雑な説明だ。おいでと言われても他に色々あるだろう。
うーんと頭を抱える間に何人かの生徒が本当に来た!と声をあげ始めていた。
毛むくじゃらの燃える犬や氷でできた烏がいる。
うーん…おいでーおいでー…なんつって…
「あれえ?今年はあんまり来ないなあ」
全体を眺めながら飴の棒を口で揺らす先生。そんな先生が突如俺の方を振り返り、俺は固まる。
いや、固まったのは先生ではない別の視線を感じたからだ。
何もいないはずなのに、何かがいる感じがする。
「我が主…よくぞ戻られた」
地鳴りのように低い声が響く。シャドラはおろか、烏や犬も慌てて塵のように消えてしまう。
枠線だけを描いたように現れる禍々しいオーラ。実態はないが透明な何かの存在を感じる。それに向かって先生が乗ってきたムササビは牙を剥き、威嚇を続けた。
「私は108の魂を喰らう者」
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