第16話 いざ、開校

「ここで学ぶのは人の殺し方だ」


黒い服を身に纏い、鉄仮面に青い羽を1つつけた先生が語ると重く心に響く。

「隣国のアルデバランとうちでで領土争いを続けている島があるのは知っているだろう。お前たちは命令があれば今からでもその地に行き、混乱を沈めなければならない。教官である我々は1人でも多くの有能な魔法を使いを生み出す義務がある」


国の命令で死ねということか?冗談だろう?これはとんでもない国だったことに気が付く。

鉄仮面の下、どこを見ているのかもわからない瞳が閉じられた気がした。


「…と言えと国から言われている。この内容を私風で語ると大切な人を守りたければ強くなれ、だ」


先生は鉄仮面に触れる。

「私は妻と共に戦地へ赴き顔と彼女を亡くした。あと一言早く、短く詠唱できていれば…あるいは全く違う魔法を唱えていればどちらも守ることができただろう。君たちに同じ思いをさせたくない」


先ほどの強張ったような空気から一転し、一部の心に火がともる。大方、彼らも恋人がいるんだろう。


「では授業を始める。おい、特待生の貴様」

鉄仮面はこちらを向いているのだが、誰を見ているのか全く分からず、キョロキョロと周囲を見渡す。特待生は俺のほかにいない。え、俺?


「そうだ貴様だ。お前、追いコン終了後の修復作業で結構目立っていたみたいじゃないか」

わざとやったわけではないがあの時は校庭の緑を一気に戻してしまい、生徒会から睨まれた。思い出している俺を見て鉄仮面は顎で指図する。


「こっちへこい。私の授業では特待生に全ての見本をやってもらう」

はーマジかよ、という誰かの声が漏れた。

「先を行く者として当然の責務だ。そして、一般生はこういう場で特待生の順位付けをするといい。弱いと思った奴に決闘を申し出ろ」


学校側でさえも決闘を推奨してくるのか。そこまでして欲しいこの服の意味はなんだろうか。


「では、まず水の属性魔法を何か唱えてみろ」

「≪闇を切り裂く水となれ≫破魔水」


パッと思い浮かんだ今は馴染みの魔法を唱える。破魔水は刃となると生徒たちの頭上を通って壁に衝突し、大きな凹みと亀裂を与えた。皆が壁を呆然と見る中咳払いをした鉄仮面が続ける。


「わかった。私の言い方が悪かった。この場に滞在を続ける水を作れ」


あと俺が知っている魔法は3つの球体のうち1つを破壊したあの魔法。

「≪守れ≫水兎」

巨大化したシャボン玉のように綺麗な円で現れた水球は地面につくたびに跳ねる。どれも戦った従者の魔法だ。あいつがいてくれて助かった。だがこの調子で知らない魔法を要求されたら困る。俺は昨日フィオからもらった本で覚えた魔法を思い出していた。


「なら次にこの水に感化魔法を当ててみろ。弱いものでいい」


あ、それなら丁度習得した魔法がある。寝室で3時間経ってもあまりにしつこく話すパンプキンに使ったものだ。

「≪安らぎを捧げよ≫ララバイ」


水には何も変化がない。水に染み込めーと思ってやってみたんだが失敗したか?いや、前世ではよく組み合わせ魔法やってたが…やってたのか。本当に記憶が曖昧だ。"リア"の思考にあいつの思考が自然に混ざることがある。

ふむ…と鉄仮面はコップをとり、水を掬い上げた。

そして一番前に座る生徒に差し出す。


「飲め」

一瞬嫌そうな表情をしたが先生にコップを押し付けられ受け取り、彼は一気に飲み干す。

コップを置くと同時に自分の頭も勢いよく机に打ちつけた。ひどい音と驚きが教室を支配する。


「おい、大丈夫か」

鉄仮面の問いにも答えず彼はいびきをかき始めた。起きろと揺さぶってもまるで目を覚ます気配がない。

鉄仮面はため息をついた。


「安眠効果があると言われる程度の低級魔法で爆睡するとは。流石特待生といったところか。貴様の魔法はよほど質がいいらしい。だから通常よりも効果がある。何十年修練したら手に入るかと思うが…これも才能か」


手をしっしっと払われ席に戻れと言われていることを察する。勉強しておいてよかった…それにしても全く起きる気配がないが、パンプキンはちゃんと朝起きて授業に出れたのだろうか。起こさずに出てしまった。


「このように、魔法と魔法は重ねてかけることで新たな性質を保有する。しかし、どちらの魔法も同じ強さでなければならない。そうだな、水と風は相性がいい。貴様風でこの水を霧のように分散させてみろ」


眠っている男の隣に座っていた女学生が指されて一瞬目をそらす。

「怖気づいたか。じゃあ貴様はどうだ」

その次の学生も首を横に振る。


「俺にやらせてください」

鉄仮面がその次を指そうとしたところで別の一般生が手をあげた。鉄仮面が頷いたことで彼は前にでてくる。

「≪風よ。龍と化した蛇の如く蜷局を巻き、立ちはだかるものを蹴散らせ≫トルネード」

男の腕輪が光り、水兎が地面に着地した途端暴風の渦が水球を切り刻んでいく。この魔法は攻撃性が高い魔法。チャプチャプと揺れる水。こいつ分散させるのが目的ではなく、俺の魔法に勝てるか挑んできたな。


これで水兎が散ったら俺の魔法は一般生と同等で寝ているやつが弱かっただけということになる。

そうなったら制服をかけた決闘の日々になるだろうな。まあそれはそれで多くの魔法を知る機会になるから悪くない。

鉄仮面も俺も水兎を見続けた。

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