第14話 記憶が呼ぶ繋がり

「なるほど、それでまた私の元へきたと」


悪しき魔女の家をテーマに作り変えられた図書館はオブジェにジャックオランタンが積み重なり、机は黒く枯れた木でできている。本当によく空間魔法の実験にされているらしい。この魔法が上手くいっていないのは椅子だと思い腰かけたものはただの幻想先ほど尻もちをついたことから伝わってくる。

この空間に紫の髪が似合うフィオだが、どこか機嫌が悪いように見えた。

「嬉しいけど女とくるとはなー女と」

机をバンバンと叩きながらクキュネを睨む。そういうことか。一方のクキュネは全く気にしていないように冷静だ。

「私の方が早くに出会ったから」

「ほお…?」


気のせいだったようだ。本を閉じて立ち上がるフィオと向かい合うと炎と氷がせめぎあっているように火花が飛ぶ。

「ここで決闘をしてもいいんだぞ。その制服を奪ってあげましょうか」

「やれるの?パンピーに」


パンピー…馬鹿にしているとしか思えない。意外と煽りスキルは高いみたいだ。

「毎年いるのよね、入学初日に制服を手放す愚か者が」

上空から枯れ葉でできた烏が本を持ってやってくる。俺にも見せてくれた黄色の本が金色に輝きだした。それを見てクキュネは腰に隠し持つレイピアを取り出す。水色に光り始めた。


「それって、魔法使う合図なのか?」


純粋な疑問を口にしてみる。それ?と聞き返したフィオの本を指す。

「これは…私の装具」

「装具?」

「魔力を増強させる武器…」


2人の装具が輝きを失っていく。

「座りなさいリア。私が授業をしてあげる」


フィオの隣に座った俺のすぐ横にクキュネは座ってきた。

「あんたはあっち行ってなさいよ」

「平民の授業は信じられない」

「こいつ…!」

そんなこと言ったら俺は地下層とやら出身なんだが、ここは面倒だから黙っておこう。フィオはぐっと拳を堪えると黒い木の机にペンで図を書き始める。


「まず、装具とは48番目の魔導士が生み出した魔力増強アイテムを皆が真似して作り出した物。私たち魔法使いは空気中を漂う魔力により分子を自在に操ることができる…と言われている。だから無から物質を生み出すことができる…らしい。正直ここの真相はわかっていないからただの仮説でしかない」


白いインクが見やすい。

クキュネはうとうとし始めた。魔導士の中では基本中の基本の話をしてくれているんだろう。


「魔力をギュッと、ギューッと凝縮すれば魔力を持った物が誕生すると48番目は考え実践した。何年も時をかけて彼は様々なものに魔力を染み込ませ続けた」

『先生、これならきっと無力な民も魔法を使うことができるようになります!』


きた。

俺の記憶は突然フラッシュバックする。声の直後、雷が落ちたように目の前が白くなる。眩暈の中見るようなぼやけた景色。なぜか第三者からの視線だ。足元しか見えない。古びた床、隠れていたのか…?

『君は本物の天才だよ』

『いいえ、先生が私に教えてくださったんじゃないですか。大切にしている物に、心は宿ると』

『…』

ああ、駄目だ。転んだように視線が下がる。沼の中に落ちていくようにズブズブと落ちていく。


「つまり、装具になるのはその者にとって特別なものさ。って、具合でも悪い?」

「いや、すんません。大丈夫」


クキュネはもう完全に寝ている。そういえば、入学式が終わる時には空が赤くなっていたような…

「48番目の魔導士は、女なのか?」

フィオは目を丸くするとうーんと悩みながら眼鏡を持ち上げた。


「魔導士は変わり者が多い…学長のように何者か名乗って過ごす者もいるが、大半は隠居生活を送っているよ。誰が生きていて、誰が死んでいるのか。どこで何をしているのか。行方知れずになった者もいる」

「つまり?」

「48番目の姿は誰も知らない。任命式の時も全身を黒いフードに纏ってきたからね。そして、式以降どこにも姿を現していないんだ」


もしも、本当に今聞いた声の主が48番目だとしたら若い女性だ。

若い…あ。

処刑の前、唯一泣いていた女…?


「折角魔導士になって自由を得たのに隠れて暮らすなんて、皮肉なものだ」

呟くフィオの首筋からも刻印がチラリとこちらを覗く。

そうだ、たとえここで前世に関するどんな大きな知識を得ようと、ここから出られなければ何の意味もなさない。


「魔法を使えるようになりたい」

「ん?」

「どんな魔法も使える最強の魔導士になりたいんだ」


幸いにも、俺に土台はある。前世で使えた魔法は体が…いや魂が覚えている。

ならばあとは詠唱を知るのみ。フィオは俺を見て微笑む。


「私は特待生じゃない。他の人に教えてもらった方がいいんじゃない?」


いや、フィオ。彼女は絶対に凄まじい魔法の才能とセンスを持っている。俺の勘なのか、前世の経験に基づく自信なのかはわからないがそう確信することができた。それに、階級のことをとやかく言う資格など俺にはない。

「関係ないな」

「フフッ」

初めてフィオが声を出して笑った。女性らしい柔らかな髪が動く。頬がわずかに赤い。


「じゃあまず、私に敬意を示してもらおうかしら。これからあなたの先生になるわけだし」

「え…」

お前自身はそういうの気にするのかよ。


「だって、私たち歳も結構離れてるでしょ?友達感覚で頼られるのは少し屈辱的なのよね。ほら言ってみて?敬意といったらやっぱりせん…」

「フィオねえ」


俺に基準を合わせると全て地下層基準になる。地下で親しみを込めた敬意を示す呼び方と言ったら兄貴やお姉だった。餓鬼のたまり場だし。しかし、フィオは黙っている。まずかったか?


「も、もう一回呼んで!」


ただ興奮させただけらしい。喜んでくれて何よりだ。

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