第13話 1人目の友
道行く人々が俺を見つめる。誰一人声をかけてこないが、俺は今非常に困っていた。
道がわからない。
知らない人に声をかけるのに勇気がいるなんて知らなかった。しかも俺はまだまだ餓鬼で、年上が大半だ。
話している雰囲気からするとどうも歓迎されている気もしない。
「学長に顔を覚えられた男」
俺に向けられた言葉に振り返ると鉄の拳を作り戦った男にとどめを刺した白髪の女性が立っていた。俺と同じ制服を着ている。彼女も特待生に選ばれたのか。
「そんな強そうには見えなかったのに」
失礼なことも平気で言うな、と思ったが実際俺はあの時魔法を使えると知らなかった非力な男。的を射ている。
「あの時叩いてみるべきだった。でも…」
スッと細い腕が差し出される。ガラスのように透明な花でできたブレスレットが目を引いた。
「同じ生徒なら授業中にやり合えるわね。私、クキュネ。よろしく」
「リア…よろしく」
クキュネの声は静かで淡々としていた。しかし、根っから冷たい女というわけではないらしい。俺の手を握ったとき、優しく微笑んでくれたから。
「リアはもう自室の確認した?」
入学した者は皆ここで生活することになる。生徒には2人1部屋の寝室が与えられた。特待生といっても任務の内容や拘束条件が異なるだけで受ける授業や寝室、食事は変わらない。格差が生み出すのは目標ではなく嫉妬だと、ここの者はよく理解している。
「いや、してない」
「私もだから、じゃあ一緒に確認しに行こう。追いコンが終わったら混雑しそうだし」
クキュネの後をついていく。助かった、彼女に従えば迷うことはなさそうだ。でもなぜクキュネは校内の地図を持っていないのに覚えているんだ?
「えーみなさーん!!」
雑なマイク音が聞こえ始めたと思ったら大きな声が学校中に響きわたる。思わず耳を塞ぎたくなるほどうるさい。
「追いコンが終了しましたー!修繕作業兼入学式を始めますので至急校庭へお集まりくださーい。なお、これより校内全ての扉は転移魔法により校庭へ繋がります。トイレ行きたい人は我慢してくださーい。以上、生徒会放送担当からでしたー」
放送が切れた途端、校内のドアというドアが光り始める。
「…寝室はまた今度ね」
光へ向かって進む先、俺がいた校庭は更にボロボロになり、芝生は焦げ、遊具は鉄くずと化し、別館でさえも壁に巨大な穴が開いているようだった。
続々と集まる生徒の中にはまだ制服を着ていない者もいる。彼らが同じ新入生だろう。
「それでは、初めての子もいるので私がお手本に呪文を唱えます」
校庭の中央に立つのは先ほど放送で話していた者だ。
「これは物の形状を1時間前に戻す魔法です。本来なら役に立つことがない魔法も、組み合わせ次第で化けると覚えておきましょうねー。今回追いコンのフィールドになったこの地には学長の従者により時止めの魔法をかけ、さらに先ほど解除してもらいました。私たちの拙い魔法でも学校を元通りにできるってわけです。それではいきましょう」
女性は深呼吸をして魔法を呟く。それに続けそうな上級生も同じ魔法をかけた。
「≪あらぬ時の形状を保ちし片翼の天使よ、翼を授かり過ぎ去りし時のように天を舞え≫ギアフォート
」
彼女の足元から枯れた草が緑を取り戻し、焼け落ちた大地にも芽吹き始める。
クキュネも手を合わせ、祈るように唱えている。俺もその横で唱えてみた。目を瞑り、按邪の万華鏡で見た景色を思い出す。あのくらい自然豊かになればいい。
しかし、聞こえてきたのは鳥の囀りではなくざわついた人々の声だった。理由に気が付いたのは目を開けて、俺の場所だけ以上に草木の伸びが早かったからだ。
すごい、とクキュネが呟く。
「これが特待生の力」
「あんなに魔力を解放して大丈夫なのか?」
「自慢のつもりかよ」
つまらない声も聞こえてくる。そのざわつきを抑えたのは放送していた女性だった。
「おーい、やる気ある新芽を潰す気か?生徒会の前でー」
ぴたりと静かになる校庭。女性は俺をボールペンで指した。
「この位で思い上がるなよ少年。君くらいなら、いくらでもいる」
その発言と共に急成長する校庭の緑。
「新入生ってのが楽しみだね。さあやるぞー」
威圧感を与えたのもつかの間。すぐに女性は元の適当な調子に戻る。
1人でやると時間がかかることも学校中で取り組めばすぐに落ち着く。追いコンフィールドだった敷地には一面緑が戻り、なかったはずの噴水まで増設されていた。
その噴水の水から学長の分身が現れて実に分かりやすい学校の信条を伝える。
この学校は徹底的な実力社会で、学生は特待生に、特待生は従者に決闘を挑むことができるという仕組みまであるそうだ。望み、努力するほどこの学校での道は開かれる。
俺は既に追われる立場としてスタートしてしまった。
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