第4話 気がつく前

拳で殴られた続けたことがある。

まだ人の顔色を伺うことも、空気を読むことも知らなかった時。俺は上半身が崩れてなくなった石像を他の子どもたちと一緒に拝んでいた。気が遠くなるほど膝立ちをして右手と左手を握手させる。首を下に30度下げたこの姿勢が祈りの姿だ。俺は一律した姿を乱したと、言いがかりをつけられ顔も知らない者達に1人2発ずつ殴られた。祈りを捧げるように説いていた者は俺を見ず、祈り続けたいた。


あれは誰に何を祈っていたのだろう。


そうだ。人は他人で憂さ晴らしをする。他人に刺激を求める。

何かに気が付くのは与えた者ではなく、与えられた者だ。これをきっと進化と呼ぶ。


俺は殴りかかる男の拳に焦点を合わせるように自分の腕を伸ばした。

この球体は衝撃に反応して広がる。ならこの拳にだって反応するだろ?


パンと風船が割れる音がした。

球体はその場で盾のように広がる。投げた時よりもはるかに大きく。この球体、恐らく与えられた衝撃の強さで価値が変わる。

この球体自分の身の丈よりも大きく口を開いた球体に男は流石に動揺したようだ。

それを好機と捉えたのは俺だけではなかった。


「≪風に舞う花吹雪。凍て弾けて弓となれ≫紫雨夜」


男に向かってピンク色の細い氷が大量に襲い掛かる。男の腕や足は切れ、凍りついていく。

枷のように分厚い氷になったところで男は腕を動かせなくなり、戦闘不能となった。


氷が飛んできた先に立つ女性。

腰の長さまである綺麗な白髪。あまり派手でない、体にぴったりとフィットした服を着ている。シルエットだけで美しいスタイルに目を奪われた。短いタイトスカートだが、それを隠すように上着の裾は長い。氷のせいか服自体が星のように輝いて見えた。


彼女は俺と戦うつもりはないらしく、凍らせた男を見て立ち去っていく。

あれが進級資格を持たない上級生なはずがない。俺と同じ新人だろう。


球体が加えられた力と同等の力で反発する性質の物なら、先ほどのように弱く持続的な攻撃には相性が悪い。俺は散らばった3つの球体を手にし、足早に平地を去る。

100mなら走った方が早いだろ。

俺は物陰に進むのではなく、まっすぐと別館を目指す。


スラムの時もそうだったが人目につかなく、見つかりにくい場所は自分よりも上手がいる可能性が高い。

そして、先に一撃を食らうと勝てない。


木の陰から聞こえる叫びを声を無視したが、別館の入り口で待つのは見るからに不良上級生3人組だ。


「ようよう僕ちゃん、ここに入れるのは生徒だけだぜ?」

「部外者は帰りな」

「それとも俺たちとやりあうか?」


体は屈強。全員魔法を使える。3対1…いや勝てるわけがないだろう。

しかし門番がいるなんて中にお宝があるから守っているようなものじゃないか。どうにか侵入できないか?


「じゃあ取引を「3対1じゃないよ!!」


俺の平和な声を遮り飛び降りてきたのは少女だ。人差し指をビシ!おと男たちに向ける。

「3対4なのだ!」

彼女はピンとした猫耳のフードをつけ、尻尾のようなアクセサリーもつけていた。柄はピンクと黒のひし形。

「≪光に反する闇よ。影より現れたまえ≫シャドラ」


呪文を唱えると彼女の尻尾が揺れる。

ようやく立ち上がった上級生は黙って手を挙げた。何が起きたのかわからずにいたが、太陽を隠していた雲が動き、仕組みが明らかになる。


上級生の首に黒い鎌がかけられていたのだ。まるで死神のような影そのものが上級生自身の陰から伸びてきている。


「そんなんだから留年するんですよ先輩~」


女性はそのまま別館に向けて走っていく。

俺もそれに便乗して横を通り抜けた。なるほど、さっきの3対4の4に俺は含まれていなかったわけだ。


「なあ」


俺は彼女に声をかけていた。

振り返る女性。


「なんで俺には魔法をかけなかったんだ?」

「変なことを聞くのだねえ君は。これは追い出しコンパだぞ。出ていくのは先輩だけでいいんだよ」


その理論だとさっき俺に殴りかかってきた奴は上級生ってことになるぞ。と思ったが何も言わなかった。変なことを言って納得されて、襲い掛かられても困る。


「お互い頑張ろうね~」


彼女はもう別館の目的が決まっているらしい。

本当に色々な魔法がある。俺はひとまず適当に開けた教室の中に入った。


理科室だろうか。

机上には蛇とも蜂ともいえない何かが入った瓶が多数置かれている。

俺は黒板に書いてあった文字に注目した。


「≪何人も入るべからず≫鍵閉め…?」


その時先ほど固まった上級生3人が大声を出しながら俺を探しているのがわかった。理科室の扉が開いたから。だが、俺の言葉終わるタイミングもそれと同時だ。


「キーロック?」


またも大きな音を立てて扉が閉まる。

ここの教室だけではない。他の扉も閉まっていくことが見えないのになぜかわかった。まるで教室に神経が通ったようにどこに誰がいるのかわかる。


え、まさかこれ魔法なのか?




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