第19話 ひかげの夏祭り
人間という生き物は不思議なもので、今まで仲良くしていた特定の誰かと離れ離れになると、時間の経過と共にその人への想いが小さくなっていきやがて忘れ去ってしまう。
もちろんこれは一般論ではなく持論だ。というより、私自身の事だ。例えば、私に彼氏ができたとする。最初はお互いに愛し合い、思い出を作り、楽しい日々を送るだろう。しかし、数日会わなくなるだけで私は彼に抱いている想いが小さくなる。興味がなくなる。好きじゃなくなる。そして別れ、忘れるだろう。
それが私だった。最近までは……。
***
「花火楽しみだね」
ひなたは屈託ない笑顔を向けてくる。
彼女の浴衣姿はとても愛らしい。何度見ても飽きない。それどころか、胸の奥が熱くなってくる。
心無しか体も熱く感じる。大勢の人が花火スポットに集まり、周囲の温度が上がっているからだろうか。でも、不思議と汗はかいていない。
夏休みに入ってから、ひなたのことしか考えられなくなっていた。ひなたともっと一緒にいたい。また授業をサボってくだらない話をダラダラと話していたい。放課後はどこか宛もなくぶらぶらと歩き回り、夜遅くまで遊んだりしていたい。
そして、ひなたのことをもっと知りたい。
今まで感じたことがなかった、不思議な感覚。ひなたと会わない日が続けば続くほど、彼女への想いが強くなる。
真逆だった。今まで私が忘れ去っていった人達と、何かが違う。私の全てが現在進行形で変化している気がする。
どうしたらいいか分からない。こんなこと初めてだから。ひなたへのよく分からない気持ちや、これまで抱いてきた葛藤がごちゃ混ぜになる。
「どうしたの?」
心配しているのか、こちらの顔を窺ってくる。恥ずかしてくてひなたの顔を見ることができない。いつも通りに接することができない。
「なんでも……ないよ」
辛うじて返事をするが、周りの人達の声でうまく聞き取れなかったのか、さらに顔を近づけてくる。
「大丈夫?顔赤いけどもしかして熱?」
ハッキリ分かってしまうくらい、私の顔は紅潮していた。
「だ……」
大丈夫、と言いかけた瞬間、大きな音が聞こえた。花火の音だ。打ち上げ花火がヒュンと飛び上がり、夜空に美しい火花を散らす。
とても綺麗だった。1人で見に来ていたら、絶対に感動などしなかっただろうが、ひなたが横にいるだけでこんなに変わってくるなんて。
思考が停止する。頭の中が真っ白になって、今まで悩んできたことがどうでもよくなる。
「ねぇ、ひなた」
「ん?」
どうしても伝えなきゃいけないと思った。このよくわからない気持ちを。
別に伝える必要はなかったが、口には出しておきたかった。
「好きなんだと思う」
ひなたへの思い。いつの間にか私の中にあった感情。
しっかりとひなたを見つめる。
「ひなたのことが」
「………………」
「友達とかじゃなくて」
花火の音と人の声で聞こえてないかもしれないと思った。それならそれでいい。だが、ひなたの顔を見るに、どうやらそんなことはなかったらしい。
私の想いは、しっかりと聞こえていたようだ。
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