第18話 ひなたの夏祭り
夏休みも終わりが近づいてきた。同時に、近所でお祭りが催される。夏祭りだ。私の誘いにひかげは快く返事をしてくれた。
せっかくの夏祭りなので、浴衣を纏い少しでも夏らしくしてみる。浴衣なんてめったに着ないので、なんだか緊張してしまう。
午後6時に神社の前で待ち合わせをする。幸い、2人とも歩いてこれる距離だ。
「お待たせ」
ひかげがやって来た。私風通しの良い身軽な服装だ。
「浴衣じゃないんだ」
「ないよ、浴衣なんて」
「じゃあ私も私服で来ればよかった」
考えてみれば、ひかげが浴衣なんて早々着るわけない。私だけ浴衣というのは気恥しいものだ。
「いーじゃん、似合ってるよ」
「……ありがとう」
「やっぱひなたは可愛いね」
「それ褒めてるの?」
「もちろん」
面と向かって言われると照れる。からかっている感じもしないので、おそらく本心から言っているのだろう。
「ひかげの浴衣姿も見てみたかったな」
「絶対似合わないって」
「着てみないと分かんないじゃん、似合うと思うよ」
本当にそう思う。ひかげの顔とスタイルなら間違いなく似合う。私の何倍もね。
「ま、お世辞として受け取っとくよ」
「あはは、じゃあ行こうか」
神社の階段を登ると、いくつもの屋台と大勢の人が見えた。
田舎のお祭りだからあまり賑わってないだろうなと思っていたが、案外そんなこともなかった。
「何食べる?」
「んー」
やっぱりお祭りと言ったら綿菓子、りんご飴、焼きそば、たこ焼きなどなど……。
「迷うな〜」
「ひなたが食べたいものでいいよ」
「ひかげは好きな物とかないの?」
「私はそういうの拘らないからなんでも」
そこまで言うなら選ばせてもらおう。
「じゃあ綿あめかな」
「おっけー」
綿菓子屋さんに行き、2つ綿あめを頼む。ひかげが綿菓子を受け取ると、私に差し出してくれた。
「気をつけて持って」
「うん」
綿菓子は口の中で溶けるように消えていき、ほのかな甘味を残してくれる。
「おいしい」
ひかげも満足そうに綿菓子を食べている。見ていると微笑ましくなる。
「そういえば花火もあるんだっけ」
「うん、7時からだね」
「まだまだ時間あるね」
この神社の奥に花火スポットがある。そこから見える花火は絶景らしい。
「射的やる?」
スポットに行くにはまだ早いので、軽く時間を潰そうとひかげを誘う。
「あれ絶対取れないよ、大人はずるだから」
「まあ目玉景品はそうなんじゃない?私は純粋に射的を楽しみたいだけだから気にしないけど」
「……じゃあ行こっか」
***
「あ、くそ……」
全然倒れない。景品の中に可愛いストラップがあったので狙ってみたが、当たらないわ倒れないわで嫌になってくる。実際にやってみてひかげの言ったことに共感してしまう。
「ひなた下手すぎない?」
「うっ………」
薄々気づいていたことを指摘される。私はこういうの向いてないな……トホホ。
「貸して」
「え?」
え?まさか取れちゃうの?嘘でしょ?
ポーン、とコルクが飛んでいき、見事に景品を落とす。なるほど、上部分に当てるのか……。
そのままひかげはあっという間にストラップふたつを取ってしまった。
「はい」
「え?」
ひかげがストラップを2つとも渡してくる。
「私こういうの興味無いから」
「いや、ありがたいんだけど……」
2つとも貰うのはちょっとな………
「ひかげ、好きな方選んでいいよ。私がもう片方貰うから。お揃いっぽいでしょ?」
星とうさぎの可愛いストラップと、月とクマのボケーッとしたストラップ。どっちも私好みだ。
「お揃い、か……」
お揃いという言葉に反応したのか、ストラップを見比べ始めると、月とクマのストラップを選んだ。
「可愛いこれ、どこに付けよう」
「ひなた、ありがとう」
ありがとうはこっちのセリフなんだけどな。
「そろそろ行こっか」
「うん」
いい時間帯になったので、花火スポットへと向かう。
この夏祭りを通して、ひかげとの距離がまた1歩近づいた気がする。ひかげもそう思ってくれたのなら嬉しい。
しかし、この後ひかげが何を思って、なんであんなことを言ったのか、私は悩まされることになる。
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