第15話 訪問

30分ほどすると、1台の車がこちらに向かってきた。察するにあれがひかげのお迎えだろう。

目の前に停まった車の窓を覗くと、女の人が運転をしていた。ひかげのお母さんだろう。


「さっき言った友達。晩ご飯家で食べるよ」


ひかげのお母さんはどこにでもいるような普通のお母さんといった感じだった。


「あ〜!ひなたちゃんね!乗って乗って!」


とても愛想のいい女性に見える。ひかげはあまり仲良くないと言っていたが信じられない。もしかして、単に性格が合わないだけとか………?


「よ、よろしくお願いします」


ひかげに続き車に乗せてもらうと、さっそく走りだした。


「まさかひかげに友達がいたなんてね〜びっくりしちゃった」


お母さんは楽しそうに話している。ひかげはなんだか気まずそうだ。

高校生にもなると、自分の親を友達に会わせるのはむず痒くなるというか、恥ずかしいものである。私が逆の立場でも同じ反応になるんだろうな……。



***


気がつくと住宅街に入っていて、少し大きめの家の前で車は停った。

ここがひかげの家………


「あんまりジロジロ見ないでよ」

「大丈夫だって」


久しぶりに誰かの家に来たので少し興奮してしまう。


「ささ、上がって上がって」

「はい、ありがとうございます」


ひかげのお母さんに連れられ、家に上がらせてもらう。


「おじゃまします」

「はーい」


中はキレイで掃除が行き渡っている感じだ。


「上行こ、私の部屋あるから」

「うん」


階段をのぼりひかげの後に続く。

ひかげの部屋に入ると、


「何も無いね」

「うん」


ベッドと勉強机がある。勉強をしていないのが机のキレイさからよく分かる。あとは大してなにも入っていない本棚と、小物入れようの小さなタンスくらい。

言ってしまえば、引越しホヤホヤの部屋という感じだ。


「部屋、あんま使わんの?」

「基本ベッドに寝転がってるだけだから」

「そうなんだ」

「あとはそこらへんぶらぶらして時間潰してる」


どうやらあまり家にはいないらしい。


「お母さん、いい人だね」

「私は苦手だけど」


やっぱりあの性格はひかげに合わないんだろう。対極といってもいいくらいだ。


「きょうだいいるって言ってなかった?」

「お兄ちゃんは飲みいってるんじゃない?弟は部活だからもうすぐ帰ってくると思う」


ひかげのお兄さんは大学生、弟さんは中学生らしい。


「名前、なんていうの?」

「えいじとゆうき」


どういう漢字なんだろう。


「そういえば、なんで急に家になんか呼んでくれたの?」

「前言ったじゃん、家来なよって」

「あー、それは言ったけど」


別に今日じゃなくても全然いい気がする。いや、今日でも全然いいんだけど………。

私的にはどちらでもいいから今日でも不満はない。


「プールだけで終わるのもあれかなって」

「はあ……」


私は随分と疲れたので満足していたが……。


「まあ夏休みだし、こういう機会もあんまなさそうだしね、お言葉に甘えさせていただきますよ」

「そう、なら良かった」


「ご飯できたよ〜」


下からひかげのお母さんの声が聞こえてくる。時間は6時半、お腹も空いていたしいい時間帯だ。下でドスドスと音がしている。男の人の足音だ。弟さんかな………?


「じゃ、食べいきますか」

「うん、そうだね」


前から気になっていたひかげの家族事情が思っていたよりも普通で安心する。ごく普通の家庭だな。


「わぁー!おいしそう!」


奮発してくれたんだろう、ご馳走が並んでいる。


「………………」


ひかげはなんだか複雑そうだ。あんまお腹空いてない?

私たちは一緒に席に着き手を合わせると、


「いただきます」


こうして私は友達との夜ご飯を楽しむのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る