第14話 水着
電車に15分程揺られて、そこそこ大きなプールへと向かう。ひかげとは現地集合になっている。
「あっつい……」
ジワジワとにじみ出てきた汗を拭う。
気温は35度、快晴。太陽の光がこれでもかと私の体に突き刺さる。
プールに着いた頃には汗だくだった。ひかげはまだいない。時計を確認すると5分早く到着していた。
「ふぅ…………」
自動販売機で飲み物を買い、一息つく。
冷たい水が乾いた喉を潤していく。
建物の、日の当たらない場所に非難する。夏は日陰がなきゃ生きていけないくらいだ。
扇ぐものがないので手を顔に近づけパタパタさせていると、
「お待たせ」
「おっ」
ひかげだ。涼しい顔でこちらにやってくる。汗もあまりかいていないようだ。私は別に汗っかきというわけでもないが、それにしてもおかしい。代謝が悪そうだな………
「随分と涼しそうでいらっしゃいますなあ」
「あーうん、途中まで車で運んでもらったんだ」
「なるほどね」
前に家族とはそれほど仲良くないとは言っていたが、少なくともここまで送ってくれるくらいには仲が良いようだった。
「じゃあいきますか」
「うん」
心無しかひかげは機嫌が良さそうに見える。
それなりに楽しみにしていてくれたのだろうか。
だとしたら嬉しい。私も汗を流しながらここまで来た甲斐が有る。
脱衣所に入り水着に着替え、その上にパーカーを羽織る。あまり肌を見せたくない年頃でもあるが、それよりもひかげのスタイルが良すぎるのがいけない。横に並ばれるとどうしても惨めになってくる。
「………なに?」
じぃ………っと私を見つめてくる。そんなにパーカーを着ているのがおかしいのかな?
「可愛い水着なのにもったいないなって」
「うへぇ」
急に何を言い出すかと思えば、まさか水着を褒められてしまった。でもひかげがいけないんだよ、そんないい体してるから…………。
「ひかげさんはスタイルが良いからどんな水着でも似合いそうで羨ましいですね〜」
「さすがに似合わないものもあるでしょ、マイクロビキニとか絶対似合わないよ」
「そのチョイスは極端すぎない?」
私たちにああいった水着はまだ早い。というか、永遠に縁のないものだと思いたい。
それにしても………
チラリとひかげの方に目をやる。
引き締まったお腹周り、スラリとした足、細長い腕。黒いビキニがひかげの良さを引き出し、隙がない。それでいて、いい具合に出るところが出ている。グラビアアイドルとかできそうじゃない?とか言いたいが口に出さないでおく。
絶対興味無いだろうし。
プールサイドに着くと、それなりに盛り上がっていた。家族連れが多く、中にはカップルもチラホラと。
「やっぱりさ……」
「……ん?」
「彼氏とかと行きたいものなのかな」
「さあ……彼氏いないから分かんないや」
ひかげの言いたいことはよく分からないが、そこら辺のカップルに触発されたのは間違
いない。
パーカーを掛け、プールにゆっくりと足をつける。数秒間冷たさが伝わってくると、すぐに体が慣れてそのまま全身ごと浸かる。
「はやくー」
ひかげを急かす。彼女は普段通りぼーっとしている。
そういえば、この前勝手に帰っちゃった件は何だったんだろう。
深く詮索するのは良くないと思うが、それなりに気にもなってくる。
「ねぇひかげ」
「おりゃ」
顔に水をかけられた。こいつ、結構はしゃいでいるな………。
なら変な空気にするのも良くないし、聞くのはまた今度にしよう。というか、ひかげが元気になったならそれでいいじゃないか。
「やったな~こんにゃろ」
負けじと水をかけ返す。
冷たいプールの水が気持ちいい。
「楽しいね」
私が言うと、ひかげは大きく頷いた。
その後も数時間と休まず遊び続け、気がついたらすっかり人は少なくなっていた。
体育をサボって訛った体に、どっと疲れが来る。筋肉痛確定かなこれは。
満足するまで遊んだので、そろそろお開きにする。
「帰りも車?」
「うん」
「そっか」
VIP待遇は羨ましいと思いつつ、電車の時間を調べていると、
「乗ってく?」
「え、いいの?」
「うん、もう暗くなりそうだし」
「でも、悪いよ」
「いいよ別に………ていうかさ」
「ん?」
ひかげが少し照れくさそうに頬を掻きながらこちらに目を合わせると、
「そのまま泊まっていかない?」
まさか、ひかげの口からそんな言葉が出るなんて思わず、私は数秒間停止すると、やがて無言のままコクリと頷いていた。
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