第13話 夏休み

猛暑が続く中、エアコンの効いた自室のベッドに寝転がりながら漫画を読む。たまにスマホをいじってはまた漫画を読む。手が届く距離にポテチがあり、その横には飲み物がある。


夏休みだからこそできる贅沢というやつだ。


「もう少し長くてもよくない?」


夏休みが始まって2週間がすぎた。先に大量の課題を終わらせ、残り半分の夏休みを満喫中。


「ひかげ何してるんだろ」


終業式の日、ひかげの姿はなかった。学校も午前中で終わるし、そこまで来るメリットもないかと思っていた。


あれからチャットでやり取りをするわけでもなく、ひかげの音沙汰はない。家族でどこか旅行でも行ってるのだろうか。そう言えば、家族とはあまり仲良くないって言ってたっけ……。


ひかげという人間は本当に掴みどころが無い。

何を考えているのか、どう思っているのか、それがあまり分からなかったが、最近になってさらにややこしいことになった。


「うーん、少しは仲良く慣れたと思ったけどなあ」


それは間違っていないと思う。確かに私たちの距離は縮まった。

縮まったことで、お互いの知らないことがまた増えたんだ。


ひかげのことを知れば知るほど、また新しく謎が増えていく。


「迷宮入りかなーこりゃ」


ひかげという人間を知るため、ダンジョンに潜り込んだつもりが絶賛迷子中といったところか………。


肉体的距離が縮まり、精神的距離が遠くなった。今のところはそう思う他ない。


「………………」


チャットを開き、数ヶ月前に交換したひかげのアカウントを探す。青い空のアイコンが目印だ。


………なんて言おう。


元気してる?とかおはよう!とかは違う気がする。

暇?って聞こうか?いやいや、暇じゃなかったらどうするんだ。


ここは………


「素直に遊びに誘おう」


『今週のどこかで遊ばない?』

よし、シンプルでいいだろう。これでいこう、送信。


さて、ひかげはちゃんと見てくれるだろうか。そもそもあいつがスマホいじってるとこあんま見たことないかも………。


ピロン、とスマホが音と共に振動する。


え、早くない?

確認するとひかげだった。


『いいよ、どこ行く?』

はやーい、暇かよ。

意外にも乗り気で安心する。


『海とかお祭りとか』

『ここらへん海ないじゃん笑プール行こう』


プールか、悪くないな。

『じゃあ明後日は?』

『いいよ、何時から?』

『午後2時からにしよう、駅前集合で』

『おっけー』


あっという間に決まってしまった。ひかげとのチャットは初めてだったので少し緊張したが、淡々としていてやりやすかった。


「水着は………と」


去年買ったやつでいいか。


しかし、ひかげがプールに行くのはなぜだか面白い。

絶対浮き輪でプカプカしてるだけだ。

考えただけで笑いがこみ上げてくる。


「明後日までに少しでも痩せとくかー」


とりあえず夕飯抜きにしようっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る